学院都市の邸宅に着いて人心地ついた後、私はある物を買いに出掛ける前に姉様に声を掛けに向かう。

 姉様は自室でお茶を嗜みながらゆったりと過ごしていた。

「姉様、少々学院都市外に出掛けるので馬車を使いますね」

「あら、着いたばかりなのに、何か足りない物でもあったのかしら?」

「足りない物と言うより、足らなくなった物ですね」

 と言いつつ姉様の耳元まで近づき。

「避妊具が心許なくて」

「…」

 一言言葉を掛け、何も言わない姉様から顔を遠ざけつつ話を続ける。

「アレは最近評判のヨドヤ商会の品なのですよ」

「そうなのね」

「えー、ヨドヤ商会は良い品があるのですが、まだまだ新興商会なので、学院都市内に出店していないのですよ」

「解ったわ、私は特に用事が無いですし、そもそも今日はゆっくりする予定ですので、馬車は自由に使って良いですよ」

「ありがとう御座います。では行ってきますね」

 姉様に簡単に出掛ける用向きと挨拶をすると、学院都市の外にあるヨドヤ商会へと向かった。


 ヨドヤ商会。それはここ数年で急成長を遂げた商会の名前。

 表向きは先進的な商品を売りに出した事により成長著しい商会という存在だが、その真の目的はイェーガー・デァ・ドンクレン・ナハトの活動資金を確保する事だ。

 つまり、私の活動資金源である。

「主様ようこそいらっしゃいました」

「商売は順調?エフファ」

「はい、主様の知識を元にしてデーレが開発した様々な品は、順調に売り上げを上げております」

「それは良かった」

 今私とエフファが会話をしているのは、王都グフォースアーティグシュターツにあるヨドヤ商会総合商館本店、所謂デパートの事務エリアにある一室だ。

「それでいくつか用意して貰いたい物があるんだけど」

「はい、何で御座いますでしょうか?」

「コンドームと姉様向けのお土産なんだけれど、何かお菓子でオススメの物はあるかな?」

「でしたら、最近売りに出しています生チョコは如何でしょうか?」

「お…いいね。それを用意して貰おうか」

「畏まりました。今お持ち致しますので、少々お待ちください」

 そう言うとエフファは通信魔法を使用してこのデパートの従業員―イェーガー・デァ・ドンクレン・ナハトのメンバー―に、コンドームと生チョコを用意させ持って来る様に指示を出している様だ。

「エフファ」

「何で御座いましょうか?」

「もう少し欺瞞精度を上げないと、私に通信内容が筒抜けだぞ」

「申し訳ありません…」

「精進する様に」

「はっ」

 こうして無料で欲しい物を手に入れた私は、意気揚々と学院都市内の邸宅へと帰るのであった。

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