かわいい女の子たちの秘密の部屋は男子禁制だからお兄ちゃんは入っちゃダメなの!!そのに【俺のアレ】プラスシチュエーション。

「……未祐、お前は俺のために何をやろうとしているんだ」


「私たちがここから先に進むには解消しなければいけないの。拓也お兄ちゃんの抱えて来た強がりと未祐のわがまま。お兄ちゃんの問題については子供のころの私に真奈美ちゃんがこの部屋で提案してくれたんだ……」


 未祐の瞳には一片の迷いも浮かんでいなかった。そして意を決したようにゆっくりと俺に告げた内容は……。


「子供のころから拓也お兄ちゃんの中にある亡きお母さんに対する強がりを、今回の女装で消し去ってくれたら……。それが未祐の願いなの!! 自分の生い立ち《ルーツ》から目を背けないで」


 ……自分の生い立ちだと!?


 突然、未祐から告げられた言葉に俺は頭を強く殴られたような衝撃を覚えた。


「み、未祐、どうしてそんなことをお兄ちゃんに言うんだ!! それも何で今更……。この俺か何から目を背けていると言うんだよ!!」


「……」


 俺は激しく狼狽した、深い記憶のおり、その沼の底に沈めた負の感情が薄皮一枚でおのれの間近に存在していた事実を認めたくなかったから……。


 そして何よりも驚いたのは、妹の未祐が俺の亡くなった母親について言及するのは初めてだったことだ。俺たち兄妹、いや赤星あかぼし家と言ってもいいだろう、実の母親について口に出すことはタブーに近いことだった。その理由りゆうは様々な要因が絡み合っていた。


 俺を産んですぐ亡くなった実の母親。古い写真でしか顔を知らない、子供のころの俺はお祖母ちゃんが母親替わりだった、そのことに何も疑問を抱かなかった。


 あの苦い事件が起こるまでは……。


 俺と未祐が家族になる以前の話だ。

 小学校の入学式、桜舞い散る校庭で幼い俺は期待に胸を膨らませていた。

 真新しい制服とランドセル。前の晩から楽しみで寝付けないほどだった。


 入学式を終え、一年生の教室に入った瞬間、俺は違和感に気が付いた。

 先に同伴の父兄が教室の後ろで待機していた。

 俺はその中にお祖母ちゃんを見つけて有頂天になってしまった。

 思わず駆け寄り、自分の晴れ姿を見せて、褒めて貰いたかったんだ……。


『お祖母ちゃん!! 入学式の僕をちゃんと見てくれた!?』


 だけど俺の些細な場所をわきまえない行動が、一年生の教室に波紋を投げかけた。

 どっ!! っと周りが湧いた。


 愚かな俺は自分が嘲笑されていることに気が付いていなかった……。


『……何であの子だけお祖母ちゃんなの!?』

『うちのお母さんみたいに若くないね!!』

『きっと可哀想な子なんだから、言ったらだめだよ……』


 ぴかぴかの一年生、楽しいはずの教室なのに……。室内の空気が一変した。

 ときに子供は無邪気で残酷な生き物だ。


 ……俺は可哀想な子なのか?


 入学式の事件は俺の心に深い傷を残した。

 今思えば忙しく仕事に奔走し、男手一つで育ててくれている父親に感謝こそすれ、文句など絶対に言ってはいけないはずなのに、俺は父親とお祖母ちゃんをなじってしまったんだ……。


 しかし、未祐が俺の過去のトラウマについて知るよしもないと思っていた。


「……未祐、お前は気が付いていたのか!?」


「私だけじゃないよ……。ううん、正確には真奈美ちゃんから聞いたの。最初はそのことを話すのをとても躊躇ちゅうちょしていたけど、どうしても知りたい!! って食い下がる未祐に折れて、拓也お兄ちゃんの過去について教えてくれたの」


 幼馴染の真奈美が!? 確かに彼女なら俺の過去を知っているはずだ。

 物心ついてからいつも一緒にいたから……。


「……確かに俺は未だに過去を捨てきれていない。みっともないけどこの歳になっても亡くなった母親について思い出すのが怖いんだ!! だから俺は自分の気持にふたをした。それなのになんで過去をほじくり返すような真似をお前はするんだよ!!」


 未祐にキレても仕方がないのは分かっているのに、なぜ俺はこんなにも取り乱しているんだ……!?


「……ありがとう」


「えっ……!?」


 予想外の反応が返ってきた。俺は未祐を悲しませてしまったと思ったのに。


「拓也お兄ちゃん、初めて未祐の前で本当の気持ちを正直に言ってくれたね……」


「俺の本当の気持ち!?」


「うん、そうだよ。 未祐はお兄ちゃんの口からその言葉が聞きたかったんだ……。勇気が出なくて子供のころには言えすじまいだったけど」


 未祐が俺の顔にそっと手を伸ばした。細い人差し指が頬をなぞる。

 そのまま指を動かして、乾いた口唇に触れる指先から伝わる想い……。


「……未祐、俺は」


「もう何も怖くないよ。これからずっと私がそばにいるから」


 こみ上げてくる熱い感情を抑えることが出来なかった。

 これまでの俺は母親のいないトラウマのせいで、女性に対して心を開くのが苦手だった。その根底にはまた大事な人を失ってしまうのではないかという根深い恐怖心があった。それに向き合うことを恐れていたんだ……。

 だから片想いだった真奈美とのの一件でも俺は自分の行動にどこか消極的にブレーキを掛けていたに違いない。


 臆病な俺が初めて勇気を出して告白出来た唯一の相手。その女の子の名前は……。


 未祐みゆう、大切な人の名前をはっきりと心の中でつぶやいた。


「……泣いたっていいんだよ、だけど今日だけは我慢してね。せっかく広瀬部長が念入りにしてくれたメイクが崩れちゃうから」


「メイクって……!? はっ、そう言えば今の俺は!!」


 俺は肝心なことをすっかり忘れていた。今の恰好はS級美少女の姿をした奇跡の男の娘だったんだ……。


「いちおうメイクはウォータープルーフだけどね♡」


 未祐の顔に柔らかな笑顔が戻ってきた。


「でも分からないのはなぜ女装なんだ。俺の過去と何が関係あるんだ!?」


「もうっ、本当にお兄ちゃんは鈍感だなぁ!! 鏡を見たんでしょ……。女装した自分の顔が誰かに似ていると思わなかった?」


 俺の女装姿が誰かに似ているって……!?


 慌てて俺はベッドサイドに置かれたドレッサーの鏡を覗き込んだ……。


「……亡くなった俺の母親にそっくりだ!?」


「そうだよ、やっと気が付いてくれたね。今回の女装のに。拓也お兄ちゃんが自分の過去と向き合うには必要なことだったんだ。自分の生い立ち《ルーツ》である亡くなったお母さん。そのかけがえのない存在をマイナスに考えていては絶対に駄目なの。これからの未来のためにしっかりと向き合って欲しかった……」


「未祐、お前はそこまで考えていてくれたのか……!?」


「えへへ、半分当たりで半分は外れかな? 本音をいうとまだお兄ちゃんにはその恰好でやって貰わなければならないことがあるの……」


 まだ俺にやって貰いたいことって!? これ以上何があるんだ。

 やっぱりアニメ同好会がらみなのだろうか? それとも……。


「さあ、拓也お兄ちゃん、話はゆっくりタクシーの中でしようよ!! 広瀬部長と千穂ちゃんを下で待たせているから……」


「あっ!? 未祐、ちょ、ちょっと待てよ、手をそんなに勢いよく引っ張るんじゃない!! じゃなかった!! 未祐ちゃん、そんなに手を引っ張ったら痛いよぉ……」


「……やっぱり千穂ちゃんの言うようにそっちの素質があったりして。女装の沼にはまって戻ってこれなくならないでね。未祐の大好きな拓也お兄ちゃん!!」



 ……ねえ、お母さん、


 もう少し女難のそうは続きそうだからどうか天国から見守ってください。


 俺が道を誤らないように、未祐との幸せな将来のために……。



 次回に続く。


 

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