とっても可愛い女の子たちは俺のアレを握らないと安心して眠れないそうです……。【俺のアレ】プラスシチュエーション。

 ……俺、赤星拓也あかぼしたくやは、妹の未祐みゆうとのあいだに取り交わした約束によって週末だけ男のとなり女装を命ぜられてしまった。


 名門お嬢様女子高、君更津南女子きみさらずみなみじょし、そこで未祐が所属するアニメ同好会が来たる文化祭に向けて鋭意制作中の自主制作アニメ作品があり、男の娘キャラを作中に登場させる関係で、参考にするのが目的だとばかり俺は思い込んでいたんだ……。


 しかし真相はまったく違っていた。実の母親を幼いころに亡くしたことに起因して、俺が抱えた過去の重いトラウマ。その悩みを完全に消し去って欲しい……。それが未祐の一番の願いだと聞かされる。


 突然、女装をさせた理由わけは鏡を見れば一目瞭然だった。その姿は亡き母を彷彿させるほど良く似ていたからだ。母の面影に自分の生い立ち《ルーツ》を思い出した瞬間、俺を長い間苦しめていた重い鎖がほどけてやっと過去から解放されたんだ……。


 そうして俺たちは大団円を迎え、全てが終わったと思っていた。


 今日の日が訪れるまでは……。


『えへへ、半分当たりで半分は外れかな? 本音をいうとまだお兄ちゃんにはその恰好でやって貰わなければならないことがあるの……』


 過去の妄執から俺を救い出してくれた未祐、投げかけられた意味深な言葉が、ふと脳裏をかすめる。


 これ以上俺に何をやって貰いたいと、お前は言うのか……!?



 *******



「……さあ、制服ファッションショーの始まりだよ!!」


 未祐が胸のボタンに手を掛けた。


「よ〜し、広瀬部長、未祐ちゃん、誰が一番早く服を脱げるか勝負しよっ♡」


「むっ!? 森田、勝負と聞いたらここは武道家として黙っておれんな……。赤星、森田、お前ら二人を返り討ちにしてやるぞ。……よし、胸は私が一番大きいな、まずは一本先取だ、はっはっはっ!!」


 ……おのれのルーツを求める長い追想から我に返った。俺は熱い胸の高鳴りを押さえることが出来なかった。


 未祐たちアニメ同好会の面々が突如部屋に乱入してきて、女装している俺の前で平気な顔で制服に着替え始めたのは日曜日の昼下がりだった……。


 驚いて最初は思いっきり鼻の下を伸ばしてしまった自分を今は恥じていた。

 未祐がどんな想いで俺に女装をさせたのか!? その意味を思い出したからだ。

 きっとこの茶番劇に見えるアニメ同好会の面々の行動にも深い意味が隠されているに違いない……。



「そうだ!! 拓也お兄ちゃん、この制服ファッションショーにはギャラリーも呼んであるから……」


ギャラリーって!? これ以上は未祐の部屋では手狭だろう。それにいったい誰が来るんだ。もしかして新しい部員の女の子か!! それとも噂でしか聞いたことのない沙織さんの恋人だったりして。未祐情報では百合的な意味で♡ とか謎なことを言っていたな……。う~ん気になるかも!?


 未祐たち三人の発案で、俺の女装を完璧な物にするべく、首都圏の主要な女子通学服、そうだ制服だ。大手スーパーマーケットチェーンうなげやグループのお嬢様、森田千穂ちゃんの全面協力もあり、未祐の部屋で制服ファッションショーが開催される運びとなった。


 自分たちが可愛い制服を着てみたいと言うのが本音かもしれないが……。


 もちろん全ての制服は用意出来ないが、俺の知らない分野だが、千穂ちゃんの話だと男子制服のバリエーションに比べて、女子の制服は組み合わせが多いそうだ。


 だけど現在、学校指定で制服を作っているメーカーは限られているようで、

 大手で三社にしぼられ、その多くが岡山県にあるそうだ。

 俺はなぜ、一つの県に集中するか疑問に思ったが、お馴染みのジーンズを始め、

 デニム関連も岡山県がほぼ国内のシェアを網羅しているのを聞いて腑に落ちた。


 制服も大別すれば、ジーンズと同じく堅牢を要求される作業着だからだ。

 俺の通う中総高校の女子指定服もメーカーは岡山県製だとは初めて知る知識だった。う~ん、拓也お兄ちゃん!! またまた一つお利口になっちゃったものな♡


 従来のセーラー服を駆逐したブレザータイプには、制服を愛好する紳士諸君の中には強烈に敵視する向きもあるが、安心して欲しい。


 セーラーブレザーというハイブリットカーみたいな良いとこどりの新勢力がここ最近、数を伸ばしている。

 これも諸説あるが起源はアニメやマンガのキャラクターが着ている物が人気を博して現実の学校に採用されたそうだ。


 嘘みたいな話だが女子制服が進路を選ぶ際の重要なファクターになり、

 実際にそれを着る女の子たちからの要望が制服を変えさせた事例もあるそうだ。


 ある高校で制服をモデルチェンジしただけで志願率が倍増したなんて決して珍しい話じゃない……。

 

 って、俺は誰に向かってこんなに熱く語っているんだ!?


 ピンポーン!!


 玄関チャイムの音だ!! 


 俺が中の人に憑依されているうちに誰か来客が来たようだ。


「あっ、来た来た!! ギャラリー兼特別審査員の到着だよ」


 未祐が来客を玄関に出迎えに部屋を後にした。


「……えっと、広瀬部長、千穂、可愛い制服についてどこまで話しましたっけ?」


「うむ、昭和のアニメ、漫画、その可愛いカルチャーが女子制服に与えた影響まで説明を聞いたぞ、あの稀代の天才吾妻ひでお先生の作品についてだ。ななことミャアちゃん、そして官能写真集まで参考文献にして紐解いていたかな……」


「そうそう、制服嗜好がロリコンと間違えられて世間から迫害された事件から講義を再開しまょう!!」


 その間も千穂ちゃんから制服についての熱い講義は続いていた。


 でもギャラリー兼特別審査員って、一体誰なの!?


「本日は制服ファッションショーにお招きに預かり光栄に存じます……」


 未祐の部屋に現れたその人物は……。


「ええっ!! 特別審査員って、まさかの……」


 俺は部屋に入って来た人物の顔を見て腰を抜かさんばかりに驚いてしまった。




 次回に続く!!



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