エルナンの金言2

 食事を終えて、いつものようにバーでだらついていると、


「さて、君たち二人に聞きたいことがあるんだけど」


 と少し大仰な言い振りでマギーが切り出す。すでにその質問への回答を終えた様子の三人が訳知り顔でくすくす笑う。


「私のことをまったく知らなかったとして、私のアクセントとかも聞かずに、たとえば通りですれ違ったら何人に見える?」


 まっさきにシドが「ロシア人」と答えたのでマギーは大憤慨する。シドの横に座るエルナンも嬉々として“Russian,Russian”とルルル、とRをダブらせつつ復唱する。


“But why?”


 とスラヴのアクセントがついた階調と、少し強いTの発音で聞き返すマギー。


「なんとなくわかることってない? 例えば私は日・台・韓・中の違いが身振りとか服装でなんとなーくわかったりするじゃん?」


“But why Russian?”


 とどうしてもロシアに取り込まれるのが耐えられないご様子。


「まあ確かにロシア人に間違えられるのはセルビア人に間違えられるのの次に嫌だよね」


 とコソボ出身でアルバニア系のフローリアントが返す。


「どこがそう見えるの? ロシアっぽい部分を取り去りたい」


「というか東欧でぱっと思いつく国がロシアだからロシアって言われるんじゃない? 僕見てネパール人? とかブータン人? って思わないでしょ? まずインド? って聞くのは一番有名な国だからじゃん。正直ブルガリアってあんまイメージないし……」


 と珍しく真っ当なシドの意見。それでも、


「じゃあイタリア人には見えないわけ?」


 とごねる。


「いやいやあ……」


 と一同。


「じゃあルーマニア人には?」


 とさらにマギー。


「わかったわかった、東欧って感じがするのよ」


 と譲歩してシド。そう、東欧、イスタンヨーロペアン、頑なにeaをスペイン語読みしてエルナンも追従。


「じゃあエルナンは?」


「スペイン人じゃん、見るからに」


 とシドと私。


「いやでも、ラテンアメリカって感じもする」


 と付け加えたシドに、は? ラテンアメリカとスペイン一緒にすんなし、とステファニー(ラテンアメリカ代表・メキシコ人)が抗議する。そこで、


「ところで僕ステファニーのこと最初インド人かと思った」 


 と突然言い出すシドに一同目が点になる。ステファニーは茶髪黒目ではあれ、祖父に北欧系の出身がいるとかで、見た目の印象は白人だ。


そこでまたエルナンがぼそり。今度はマギーが「なんて?」と聞き返す。


「コロンブスと同じ間違いなのかもね、インディアン」 

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