第31話 お久しぶりです、創造神様。殴りますよ?

【どうも、人面疽です。いつも主人がお世話になっています】


「やめろミィ。お前そのワードが俺に効いたから気に入ってるだろ。最近マジで抜け毛が多くなってきたんだから、少しいたわってくれ」

「だって馬車退屈だし。ねえスカスカざこ、何か面白いことして」

「お前どこのお姫様だよ。一人じゃんけんでもして遊んでなさい」


 じゃんけんの概念を伝えつつ、朕たちは馬車を走らせている。

 肉焼き村での補給を断固拒否し、回復した人々に早く出ていけと見送られて、泣きそうになりながらも先へと進む。


「王都に入るより先に、モモを故郷に送り届けなくてはな。モモ、すまんが御者台に来て道を指示してくれるか」

「受諾。吾輩記憶力良し。迷子経験二桁で済んでいる」

「すまん。やっぱりいいわ。後ろでキサラたちに地図を見せてやってくれ」

「疑念。何か心配事か」


 ジト目で睨まれたが、モモに任せて森の中を徘徊する馬車とか軽くホラーなので、一直線に目的地に行きたい。

 しかし朕以外の地球人か。チートとかほざいてたから、油断するわけにはいかないな。最悪朕一人で対峙するもやむなしか。


「ローエン、次の二又の道を右に進むっす。地図によればそっちの方に隠れ里があるようっすよ」

「了解だ。ちなみにマリカ、お前は迷子経験はどの程度だ?」

「私も三桁はいかないほうっすね! 優秀っしょ!」


 キサラ、なぜこいつらに指示させたよ。

 はいはいストップストップ。朕が見るよ。


――

「何これ。ち……ず?」

 主要な都市だけが書かれており、あとは適当に道っぽい線がグニャグニャと引かれているだけの紙。すまん、これは朕の落ち度だわ。南大陸の情報網を過大評価してた。すっかり馴染んでしまったから、「まあなんとかなる」で済ませてたよ。


 仕方ない。久しぶりにやるか。

 確認したいこともあるしな。


「これからやることは誰にも言うな。特にマリカ、酒飲んで余計な事喋るなよ」

「名指しとか酷いっす。分かりましたから、早くしてほしいっす」

「時間がかかるかもしれんから、ちょっと仮眠でもしててくれ。それじゃあ」


 言い残して朕はちょいと森の中に進む。いい感じに広葉樹が茂っており、馬車から直視できなくともすぐに駆け付けられる場所を選んだ。


『神技・天界念話』

 朕に与えられたチート中のチート。その名も神ペディア。なんせこの世界を創った――創ってしまった方だから、何でも知っている。


「お久しぶりです、創造神様。ローラント一世ですが」

【音楽神が飲みます、サンハイ、ぱーりらぱりらぱーりら、へいへい!】

「…………あの」

【とーこーろーがー、太陽神はー、まーだまーだ、飲みたーりなーい。そこでイッキキのキー! 次もイッキキのキー】


 天界にアルコール・ハラスメントって言葉ないのかな。いや違う、そうじゃなくてだな。


「こんばんは、創造神様」

【おお、次は何神じゃ?】

「お前の娘が呼んだ、メンタル破壊神だよ、クソジジイ。ほんと何してんすか」

【ぬ、コホン。よくぞワシに声を届けた。褒めてつかわ――」

「いいから、そういうの。聞かれたことに答えて。今マジで怒ってるからね」

【すまぬ】


「聞きたいのは二つです。ちょっと南大陸の地図作成能力が著しくしょぼいので、場所を教えてほしいのです。場所は俺の意識を読んでください」

【ふむ、ああなるほど。ウェンディゴの隠れ里に行きたいのか。よいぞよいぞ。お主の頭に道順を授けよう。それぃ】


 悔しいけど便利。ふむ、なるほど、こう進めば……。

 っておい、マリカァ! 二又の道、どっちも違うじゃねえか! UターンだUターン。時間を気にしているときに限って交通状況が悪いのは、何か法則でもあるのだろうか。


「はぁ、はぁ。ありがとうございます。で、もう一件ですが」

【うむうむ。神はいつでもお主の側におるぞ。ゴクリ】

 飲んでんじゃねーよ。


「この世界にもう一人、地球人がいますよね? ちょっとそいつの情報を出してほしいんですが。これ割とプライオリティ高いんで、よろしくお願いします」

【ぬ? ワシの知る限りお主一人しかこのアルタリアの世界に来ておらんぞ? いや、待て。まさか――】


 創造神も知らない何かが……あるのか? まさか創造神は二人いたとかいうオチじゃねえだろうな。そうなったら朕とそいつで頂上決戦待ったなしだよ。


【待たせたの。そして……すまぬ】

「許すか許さないかは内容を吟味してから言いますので、とりあえず謝罪の意味を教えてください」

【おい、我が娘ディアーナよ。参れ】


 え、ディアーナってマジで神様だったの? 朕、廃教させちゃったよ。

【ごきげんよう、ローラント一世…………様】

「なんで人間に様つけるんですかね」

【ごめんなさいいいいいいいいいい! 私、私!】

 やべえ、マジ泣きしとるわ。もう聞くのこええんだけど。


【私寂しかったの! あなたは私にあんまり連絡くれないし、一人は辛かったの! だからつい一時の感情に身を任せてしまって……お願い、私がバカだったわ。なんでもするから許してちょうだい!】

「不倫がバレた言い訳みたいなのやめてください。いいから何したんですか?」


【私……彼との間に……できちゃったの】

「はぁ。それはおめでとうございます」

【新しいクジが出来ちゃったの! それで引いちゃったの!】

「……ちょっと創造神様—―いえ、お父さんに代わってください」


 ねえ、天界のコンプライアンスとか道徳心とかどうなってるの?

 朕がいた企業よりもガバガバだぞ。

 通話越しに【お願い、パパにだけは!】とか【もう一度やり直して!】とかぬかしてるけど、もういい。全部わかったからいいよ。


「事情は把握しました。ちょっと娘さんから事情を聴いて俺に教えてくれますか? これ以上はさすがに俺も怒りゲージ持たないっすよ」

【重ねてすまぬ。責任をもって聴取しよう。しばらく待っていてくれるかの】

「割と急いでくださいね。どんな手段を使ってでも口を割らせてください」


 創造神様からの折り返し通信はちょっぱやだった。

 どうも地上と天界では時間の流れが違うのか、切ってすぐだったので驚いた。


「どうでしたか?」

【厄介なことになったわい。ディアーナが召喚—―つまり地球で殺してしまった人間は、本物の魔法使いだったようじゃ】

「ん、え、地球人ですよね? そんな職業の人いるんですか」

【お主たちの世界にも魔法はあるのじゃ。影に潜み、限られた少数の一族のみで血を濃くつないできた者たちがおる。どうもその中の一人をやってしまったらしいんじゃ。困ったのぅ】


 地球人で魔法使いいたんだ。すげえな、世界の神秘に触れたよ。

 ん、待てよ。こっちの世界に来るときはバチクソチートをもらえるんだよな。

 元が一般人の朕ですら不老不死の魔力無限とかいうお化けになったのだ。では元が魔法使いとかいうぶっ飛んだ存在はどうなるの?」


【どうもディアーナ好みの王子顔だったらしくての。ワシに匹敵するようなチートをいくつか授けてしまったようじゃ。茶髪と青い瞳が娘の大好物じゃからの】

「具体的にそいつは何ができるんですかね。ちょっと対策とらないと周りの人々が不幸になりますよ」

【うむ、うむ。ディアーナが言うにはその男はもともと『疫病』の魔法使いだったらしくての。なので創薬や感染拡大、致死量変化に生物創造といった、得意分野を爆上げさせたのじゃ。のうローラント一世よ……なんとか……して?】


 おい、毒親。娘をもっと監督せい。

 そんなゾンビアポカリプス作りそうな人、避けるくらいの知能は持たせよう?


「いいです、わかりました。これからちょくちょく連絡すると思いますので、よろしくお願いします」

【そう言ってくれると思ったわい。ふぁっふぁっふぁ、これで一安心だの!】

「いつか天界に行きますので。絶対に行きますからね」


むべし】


 通話は切れた。

 こいつら、なんなん? 

 いつの世も神は理不尽だ。地球でアブラハムの宗教が創始されてから、世の中水と油に分かれたように争っている。

 神というのは案外、大きな図体をした幼児かもしれない。

 画用紙にクレヨンで好きなものを描いて、親がそれを片付けるような構図だ。

――

 馬車にもどった朕は、こんな森の超ど真ん中で高いびきをかいている四人娘を眺める。朕から見ればまだ赤子も同然だ。危なっかしい姿を見て、守らねばと思う親心もわいてくるというものだ。

 

 神も人も、親に甘える気持ちや頼る思いがあるのだろう。

 朕が親心を与えるのは、朕が守りたいと思う者のみ。即ちこの世界に住む人々よ。


 よろしい。ならば朕が神罰の代行とやらを下してやろう。地球人のやらかしたケツは、同郷の者が拭くが道理。絶対に逃さん。

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