第18話 証明


 がぁん!!!


 俺のふり降ろした剣を、デネブに化けた大賢者は杖でとめた。

 ゴーレムがその殺気を感じてか、何匹かネズミを倒すのをやめ、俺に向かってくる。


「さぁ、どうします? 私との闘いはあなたが少々部が悪いようですが」


 杖で俺を振り払いながら言うデネブ。


「魔道ゴーレムは構造的にどうしても欠陥がある」


 剣を構えながら言う俺。


「ほぅ?」


「術者との魔力を遮断すれば動けなくなる」


 俺の言葉にデネブは笑う。


「その方法は先ほど第六皇子が失敗したはずですが」


「そりゃそうだ。あんたの魔力は人間じゃない。エルフの魔力だ。普通の魔力遮断でできるわけがない」


「ははっ!そんな魔法論ははじめてききますが」


 にこやかに笑いながら言うデネブ。こういった揺さぶりくらいでは動じないところは、さすがエルフの大賢者ってところか。


「だったら、試してみるだけさ。エルフの魔力を遮る魔力遮断が通じた。その時点でお前はエルフだということが確定する。そして俺がエルフの大賢者だと確信した時点で、証明が完了。あんたの神との誓約が発動する、あんたはその時点で、この戦争のあらゆることに干渉できなくな……」


 ごんっ!!!


 俺の言葉を遮って、火の魔力をまとわせた杖で思いっきり俺をぶっ叩いてきた。

 もちろん、剣ですんでで受け止める。


 喋ってる間に攻撃してくるとか、こいつもなかなかいい性格をしている。

 俺と同じタイプだ。騎士道なんてくそくらえと、相手を殺る事を優先する。

 エルフの大賢者は俺に遮断の魔法を使わせないことに全力を尽くす事にしたようだ。


 こんな事なら教えなきゃよかったとも思わなくもないのだが、ちゃんと宣言してからやらないと、神との誓約が発動しない。そのためにどうしても必要な儀式だった。


「まったく難儀なもんだよな! 魔族相手に闘えと地上に遣わされたはずなのに、信用されてないっ!魔王と魔族以外には力を使うなと、くっそややこしい誓約をつけられて、俺だったらマジ切れもんだな!なんたって足を引っ張ってくるのが神自身なんだからよっ!!」


 俺が剣で薙ぎ払いながら言うが、デネブは杖をそのまま振り上げると振り下ろし、俺に剣で止められると、魔法で勢いをつけて両足で蹴りを入れてきた。


 おそらく魔法で体に反動をつけたのだろう。

 あの体制から蹴ってくるとか何ツ―身体能力してんだよ!?


 思わずぶっ飛ばされ、後ろにはゴーレムが腕をあげて待ち構えている。


 って、やられるかつーの!?


 俺は裏ボススキルの硬質化で体を硬質化した。身体がカチカチになり無敵状態になる。とたん。


 どぉぉぉぉぉん!!!


 ゴーレムのパンチでそのまま地面にめり込んだ。

 しばらくしたあと死んだのを確認するためか、ゴーレムの押さえつける力が緩む。


 うっしゃぁ!!今がチャンス!!!


 俺はそのまま硬質化を解き、ゴーレムにエルフの状態異常の魔法を解くマジックアイテムの聖水をぶっかけた。本来仲間に使う迷宮産の高級アイテムだが、そんなの知ったこっちゃない。ゲームではないのだから、使える物は敵にも使う!

 案の定、エルフの魔法で「操られていた」ゴーレムは音もなく、崩れ堕ちた。


 途端。しゅうぅぅうと音をたてて、デネブの姿が変わり始めた。

 

 長かった紫の髪が、短めの茶髪に代わり、顔も優しい感じから精悍な顔つきのエルフに姿が変わる。


「……なるほど。エルフの呪いにしか効果がない薬故、エルフと証明されたわけですか」


 大賢者が目をほそめ、ネズミの相手をしていたゴーレムたちがすべて崩れ堕ちた。

 そう、神の誓約が発動したのだ。俺がエルフの大賢者と疑っていて、人間に化けているエルフだったという証明によって、エルフの大賢者は人間として暮らしていくためにアイテムを売ったという言い訳ができなくなってしまったからだ。

 俺もそれと同時にネズミたちを消し去った。

 そのまま攻撃してしまうとエルフの大賢者に攻撃の口実を与えてしまう。


「さぁ、エルフの大賢者とわかったいま、あんたはこれからこの戦争に参加できなくなった。今頃ディランの砦を守っていたはずのゴーレムも動けなくなったはず」


「してやられましたね。最後に慈悲で教えていただければ嬉しいのですがその薬はどこで手に入れたのです?」


 大賢者が肩をすくめて俺に問う。


「教えるわけがないだろう?」


 そう、迷宮の主だからこそ、エルフの大賢者をなんとか出し抜くことができる。これを知られてしまえばエルフの大賢者は、俺の行動の予測がたてやすくなる。エルフの大賢者にとっての未知のデータがあるからこそ、俺はこいつを出し抜くことができているといってもいい。俺はゲーム知識でエルフの大賢者の全てを把握していて、エルフの大賢者は俺の情報が不足しているという優位な状況をわざわざ捨てる気はない。


 人間に化けて活動している。これが権力者の一人第八皇子である俺に知られたことで、この時代ではエルフの大賢者はこれからエルフの大賢者としてしか行動できなくなった。


 本来ゲームではデネブは皇子達やこれからくる【神時のゴーレム】さえもをかえりうちにして、砦は失ってしまうものの聖都市ディランを守り切る。

 そのままデネブとして歴史の表舞台にでてくることなく、聖都市や他の国を魔道具師として帝国から守り続ける。


 次にエルフの大賢者として歴史の舞台にでてくるのはかなり先になってしまう。


 それではダメなのだ。エルフの大賢者に魔族を倒してもらわないと、俺の迷宮をパワーアップできない。ぶっちゃけ倒したのがエルフの大賢者じゃなくてもいい、魔族側に「エルフの大賢者が動いたため仲間がやられた」と思わる事ができる状況こそが、俺には必要なので、そうそうに表舞台にご参加いただいた。


 エルフの大賢者もエルフとばれた以上、隠すことなく魔族が動いていないか探索をはじめるだろう。そのための準備もしておいた。


「あんたは大人しく見ていることだな。聖都市ディランが帝国に滅ぼされていくさまを。歴史は動きだした。あんたが人間に化けてそれとなく介入して守っていた人間社会の仮初の安寧は終わりを告げる」


「……」


 俺の言葉にエルフの大賢者は拳を握りしめる。

 俺を攻撃したくても、神との誓約でできなくてさぞかし悔しいだろう。


「さぁ!戦乱の時代の幕開けだ!!!!」


 俺は全力でエルフの大賢者を煽るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る