第19話 決闘

「何がおこった!!!」


 ディラン聖王国の聖騎士の一人が叫んだ。

 アレキアの砦ではじまった聖王国と帝国の戦いはデネブのゴーレムのおかげでディラン聖王国の圧勝かに見えた。それなのに突如ゴーレムが動かなくなったのだ。


「デネブに何かあったのかもしれません!こうなってしまった以上デネブ作のゴーレムは戦力外として見るべきです!」


 剣で敵を薙ぎ払いディラン聖王国の姫、アレキアが叫ぶ。

 デネブはアレキアの良き相談相手で、魔法の師でもあった。

 デネブは力を隠しているだけで強い。それは魔法を習ったアレキアがよく知っている。彼の命に何かあったとは思えないが、ゴーレムに魔力を供給できないほどの異常事態があったのは確かだ。


 確かにゴーレムを失ったのは痛い。

 だがすでに開戦時に、デネブのゴーレムは帝国の持っていたゴーレムを全て破壊し、魔道戦車砲などもあっけなく破壊しているため十分にその役割を果たしている。


 帝国とて魔道戦車砲などといった古代兵器は数えられるくらいしか所持していないため、しばらくは戦場にでてくることはないだろう。


 砦防衛の脅威になるものは破壊したあとなのだ。


 純粋な兵同士の戦いなら、守り側であるディランの方が優位だ。


 そして何より聖騎士は騎士の国。帝国兵など敵ではない。


「戦の女神はこちらに微笑んでいます!さぁ蹴散らしましょう!!!」


 そう言ってアレキアは剣に力をため、波動を放った。

 直線に伸びたそれは、次々と帝国兵を焼き払い一瞬で消滅させる。


「流石戦乙女。聖なる騎士アレキア。君は相変わらず強いな」


 乱戦の中、声が聞こえて振り返ると、聖騎士の首をもった第一皇女が立っていた。


「第一皇女……」


 アレキアが剣を構えながら言うと、第一皇女は皮肉めいた笑みを浮かべる。


「流石に名前では読んでもらえないか」


 誰にも聞こえないほどの小声でぽつりとつぶやいて、第一皇女は剣を上にむけ、波動である光を放った。


「なっ!?」


 一瞬戦いの手が止まる。


「アレキア・キュラウス・ディラン!!貴公に決闘を申し込む!!正々堂々一対一でだ!!」


 その叫びに戦場が一気に静まり返るのだった。





 「何故決闘を?」


 両軍の兵士たちが対峙し、その中央でお互いの剣をもち対峙する第一皇女とアレキア。アレキアは剣を構えて第一皇女に問う。


「もうわが軍に勝ち目はない。重要兵器を失いすぎた。だが、皇帝の勅命である以上、引くこともできない。このままでは長々と不毛な戦いが続きお互い戦死者が増えるばかりだ」


 そう言って第一皇女は剣を構える。


「私が勝てばアレキアの首を持って帰ったという名目で砦攻略から引くことができ戦いを終えられる。アレキア、君が勝てば、帝国軍は主を失って撤退する。どちらにとっても悪い話ではないはずだ」


「……貴方らしいですね」


「……平和な時代だったら私は君の友でいられたのだろうか」


 第一皇女が自嘲気味の笑みを浮かべる。


「ないものを望んでも仕方ありません。そうでしょう?」


「ああ、そうだね。これで終わりにしよう」


「はい」


 そう言ってお互い剣を構える。

 アレキアにはわかっていた。第一皇女は殺してほしいのだ。

 彼女の実力ではアレキアには敵わない。第一皇女が弱いわけではない。同じく学んでいた時期は互角だった。だが帝国にかえってからの彼女は皇室の責務に追われろくに剣を稽古する時間などなく、騎士としてそのまま訓練を積んだアレキアと差が開いてしまったのである。第一皇女は皇帝の駒となりさがり騎士としての誇りを失う前に、アレキアと正々堂々真剣に戦って死を選んだのだろう。


 ともに遊んだ友だからこそ、ともに同じ聖騎士に剣を習った聖騎士だからこそ。

 アレキアは彼女の意志を汲んでやりたい。


「「いざ勝負!!!!」」


 二人の剣がぶつかり合い、そこで戦闘は始まった。



 戦いは拮抗していた。


 かつてのライバルはお互いの剣の成長を喜ぶかのように剣を交えていく。


「剣から遠ざかっていたのに鈍っていないのは驚きました」


 アレキアが笑いながら言うと、第一皇女も笑いながらアレキアの剣を薙ぎ払う。


「君も、相変わらず強いよ。でもそろそろ慰めはやめてくれないか? 君はもっと強い。手を抜いているだろう?」


 第一皇女の言葉にアレキアは目を細める。

 確かに彼女の死に後悔がないようにと、礼儀正しい騎士の戦い方で戦っている。

 本気で殺し合いの戦い方で戦えば第一皇女ではアレキアに勝てないだろう。


「私を倒せば、私の率いていた軍は引くだろう。だけど後方の軍が引くとは限らない。私の死を幸いにと他皇子が功績を焦って撤退せず、私の軍をも引き連れて、再度攻めて来る可能性もある。帝国とはそういうところだよ。現皇帝は狂っている。いままでの戦の常識が通じるとは思わないほうがいい。さっさと私を殺して、体制を整えるべきだ。無駄に体力を消費するべきではない」


 第一皇女の言葉にアレキアは目を細める。


「わかりました。全力で殺し合いでいきま……」



 アレキアが剣を構えた瞬間。


 ざしゅ!!!!


 第一皇女の首が斜め上から飛んできた何かに切られ飛ぶのだった。

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