第17話 魔道具師デネブ

「おやおや。兵士の皆さまがどうなさったのでしょう?」


 ディランから少し離れた森の中。

 紫髪の長身の優男。魔道具師デネブがにっこり笑った。

 デネブの後ろにはゴーレム。そしてそれに対峙するように第六皇子が率いた兵士たちがずらりと並んでいる。


 ちなみに俺、レイゼル様はというと、お前を活躍させるわけにはいかないと、第六皇子様の素敵な計らいでだいぶ後ろに追いやられ、その様子を見ている。


 あれから俺たちは皇帝の言う通り、西の森にすむ大魔道具師デネブの庵に訪れていた。この魔道具師デネブは戦闘兵器ゴーレムを作成できる。

 帝国も別の魔道具師がつくったゴーレムを持ってはいるが、このデネブが作った物の性能に比べるとかなり見劣りする。そのためこの魔道具師が戦争中、ゴーレムを連れて援軍にいかないように、殺せ。それが皇帝の命令だった。


 まるで俺たちが来るのがわかっていたと言わんばかりの笑顔で、庵の前でゴーレムを従えてデネブは立っていたのだ。


「皇帝陛下の命令だ!今すぐ俺達に降伏し、従い、聖都ディランを守るお前の作ったゴーレムを無害化するならよし、しないというのならばこの場で殺す!」


 第六皇子が皇帝の勅命所を差し出すと、デネブはやれやれと肩をすくめた。


「ここは帝国ではありません。帝国の皇帝の命令を聞く必要はないとおもいますが?」


 笑うデネブの答えに第六皇子はにまぁっと笑った。

 おそらく第六皇子はこういう展開を望んでいたのだろう。

 ここでデネブを殺しておかないと、他の皇子に比べて功績が見劣りする。

 帝国皇帝は魔道具師を極端に嫌っているために殺しても構わないと思っている。

 まぁ、実際に皇帝は魔族側なので、人間に力を与えることになる魔道具師を疎ましく思っているのでその考え自体は間違っていない。


「逆らうか!ならいいだろう!殺してこのゴーレムは頂いていく!」


 そう言って第六皇子のつれていた魔法使いが魔法を展開させた。


 術者とゴーレムに通じる魔力の糸を切る遮断魔法。この魔法でゴーレムの動きを止め、デネブを殺すはずだった。第六皇子の予定では、だが――。


 ヴぉぉぉぉん!!!


 遮断魔法が発動している中。それは何事もなかったかのように発動した。


「へ?」


 思いがけない事に第六皇子が声をあげ、それが最後だった。

 大魔道具師デネブのゴーレムが、一瞬で、第六皇子を拳でぶっ飛ばしたのだ。

 第六皇子の首があり得ないほうこうに、曲がりながら吹っ飛んでいく。

 それが戦闘の合図だった。

 正確にいえば、大魔道具師デネブの作ったゴーレムの一方的な殺戮がはじまったのだ。



「ひぃぃぃ!!助けてくれぇぇぇぇ!!」


 兵士の一人が悲鳴をあげ、ぐしゃりとゴーレムに踏みつぶされた。

 俺の周りには死屍累々と死体が転がっている。


「……あなたは逃げないのですか?」


 一人突っ立っている俺に聞いてくるデネブ。


「逃げる必要なんてない。俺はあんたを殺す気もなけりゃゴーレムを攻撃する気がない。殺意がないから攻撃されることもない」


 そう言って俺が笑うとデネブが「ほぅ……」と言って目を細めた。

 すでに第六皇子のつれてきた兵士や将軍は逃げるか、すべて死に絶えているのでいまさら無能な第八皇子を演じてやる必要もないため、俺はニマニマしながら腕を組んだ。


「大魔導士デネブ。あんたのゴーレムの欠点はその優秀さだ。味方を誤って殺さぬようにとした配慮が逆に兵器としては弱体化させてしまった」


 俺が笑いながら言うと、デネブはふふっと笑う。


「けれど目的は果たせました。私に危害を加える気のないものまで殺すつもりはありませんよ」


 ニコニコ顔で言うデネブに俺も笑い返す。


「だれが危害を加える気がないといった?」


 俺の言葉の途端。ゴーレムが敵対する意思を察知したのか動き出す。だがもう遅い。


「第六皇子が死ぬのを待っていただけさ、さぁ、第二ラウンドといこうじゃないか、お前の本当の姿見せてもらうぜ!!!」


 俺が吠えた瞬間、死んだ兵士たちの身体が光だす。


「何!?」


 驚くデネブ。


 そして俺の魔法は完成した、兵士達から無数のネズミが沸きだすのだった。


「まさか、兵士たちの鎧に召喚の魔方陣を書いていたのか!?」


 そう、こっそり俺は兵士たちの胸当て部分に見えないインクで魔方陣を書いておいた。

 ネズミを召喚するくらいならこれくらいで十分だ。

 スキル「ゴールデンフィーバー」でも可能なのだが、こいつにはなるべく所持スキルは隠しておきたい。手札は見せない方向だ。


「なるほど、そういうことですかっ!」


 デネブが吠えた瞬間、ゴーレムたちは大量のネズミたちを攻撃しだし、俺を攻撃対象からはずした。そうネズミはデネブを殺す気で向かっている。

 そして俺はデネブを殺す気まではない、ゴーレムたちは殺意が高く毒属性もちのネズミの方をターゲットに選んだのだ。ネズミには猛毒の属性を付与している。ゴーレムが反応するように。ゴーレムたちはその優秀さがゆえに、デネブに殺傷能力の高いネズミの方を攻撃対象にしたのである。


 デネブがそれを悟って、杖をだして構えた瞬間。


 俺の剣がデネブの髪をかすった。

 不意打ちで切りつけたその攻撃をデネブはすんでで躱したのだ。

 デネブのレベルは55。俺のレベルも55。十分倒す事の出来るレベルだ。


「……第八皇子は無能と聞いていましたが、どうやらその情報は間違いだったようですね」


 頬から伝った血をペロリと舐めながらいう、デネブ。

 ばっと後ろに飛び俺と距離をとる。

 俺はにやりと笑って、


「ああ、優秀だぜ。なんたって、あんたの正体が『エルフの大賢者』だって気づいてるんだからな」


 と、告げてやる。

 すると、デネブの眉が片方上がった。


「ほぅ、偉大なる大賢者様と間違われるとは光栄ですね」


 笑って言うデネブに俺は肩をすくめた。


 しらを切るつもりらしいが、悪いがこっちにはゲームでの知識がある。

 エルフの大賢者だと知っていたからこそ、俺は大人しくこっちの討伐隊に加わったのだ。ゲーム上ではエルフの大賢者ことデネブは砦こそいったん陥落させてしまうがゴーレムで聖都の防衛に成功してしまい、しばらく失った砦のかわりに聖都を守護することになる。


 だが、エルフの大賢者を利用して魔族を殺し、深淵の迷宮のパワーアップを狙う俺としては、エルフの大賢者がここで動かないのはとてつもなく困る。

 それ故、力づくでも歴史の舞台にでてきてもう。魔道具師デネブとしてではなく、エルフの大賢者ファンバード・ロッドウェルとして。


「エルフの大賢者は神に『魔王や魔族が関わっていない人間の争いには関わってはいけない』という制約を受けている。だが、何にだって抜け道がある」


 俺の言葉にデネブは目を細めた。


「あんたはおそらく、人間として身をひそめ生活するための金を稼ぐ事は誓約で許可されているため、それを理由に、高性能のゴーレムを売って、あんたが守りたい国の手助けをした。

 そう、それはあくまでも生きるための生活資金をえるためと、誓約を逃れたんだ。そしてわざと他の人が作れないような高性能のゴーレムを売りつけてその力を誇示したのは、『自らを殺しに来るものなら人間でも殺していい』という神との制約の利用するため。あんたは大魔導士デネブと名をうることで、エルフの大賢者というのを隠しつつ、人間として生活する名目で世界に介入した。違うか?」


「なんのことでしょう?」と杖を構えるデネブ。


「しらをきるならそれでいいさ。なら、その正体を暴いてやるまでだ!お前の正体を見破れば、『エルフの大賢者』として神との制約が発動する!聖都の砦を守るゴーレムもその動きを止めなきゃいけなくなる!そうだろ大賢者!!!」


 俺が吠えたその瞬間。デネブの魔法が俺を襲うのだった。

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