1988~2022

漆間涼司が逮捕されてから1週間が経とうとしていた。

世間では事件の内容が詳しく連日報道されていた。

村にも報道関係者が押し寄せ、俺の家、穂乃の家なども被害を被った。

さらにめんどくさい事に、俺は桜城公園の管理を1人でしないといけなくなり、更に桜城公園で起きた連続殺人事件ということで、公園内でもマスコミの対応に追われた。

マスコミの中には、漆間の血に対する執着や過去の妻の自殺について、どうやって調べたか不明だか詳しい情報を携えてやってくる者もおり、その度に1週間前の恐怖を思い出した。


そんな生活の中、穂乃から電話がきた。

「もしもし、どうした」

「大変なの!漆間さんが亡くなったって、さっき駐在さんから連絡があったの」

「亡くなったって、自殺?事故とか?」

「いや、取り調べの途中に心臓発作で急死したってらしいの。駐在さんも立ち会ってたらしいんだけどほんとに突然で、医師の見解では自殺や他殺じゃなくてほんとに心臓発作だったらしいけど」

「これで、遺体の場所を知る人がいなくなったわけだ。どうしよう」

「どうしようって私に聞かれても困る!いつもみたいに日記でも辿って見つけてよ」

「日記ったってそんなこと言われても。34年前から書いてる訳じゃないし」

「とりあえず、期待してるからね。未来の管理人さん」

「未来の管理人?なんでそうなる、確かに俺しかいないけど」

「違うの、漆間さんが荻原が逮捕された夜に遺書を書いてたらしいの、その中に次の管理人に正暉を指名するって」

「そう言うことか、じゃあ遠慮なく捜査できるな」

「捜査って、正暉もしかして公園中掘り返そうとか考えてないよね。役場的には困るんだけど」

「大丈夫。なんとかするよ。連絡ありがとう」

「うん。正暉も大変だろうけど頑張ってね」

「穂乃こそ、風邪ひくなよ」

「風邪なんてひかないから!じゃあね」

やっぱり穂乃との電話は緊張する。

しかし、穂乃の冗談の中にヒントはあった。

結局は日記に戻るんだ。

答えはもう目の前にあった。

桜の枝の記憶、ソメイヨシノとシダレザクラと八重桜の狂い咲き、花言葉。

俺は卓馬がいるはずの駐在所に電話をかけた。


翌日の朝。

俺と勇志、穂乃、卓馬は桜城公園に来ていた。

今日は今年最高気温を記録する予報が出ており、恐らく公園に遊びに来る親子も少ないだろう。

「正暉くん。昨日僕に話してくれたことをみんなに話してくれないかい」

卓馬が言った。

「もちろんです。遺体の場所、誰がどこに埋まっているかがわかりました。ヒントは日記。全て思い出の中にありました」

俺は昨日考え、現実離れしているとしか言えない全てを語り始めた。

「まず、2008年の8月28日夜8時頃。俺たち3人は地区の子供会でソメイヨシノが咲いているのを見た。

次は2016年10月19日6時半頃。穂乃と別れた後、俺はシダレザクラが咲いているのを見た。その枝は春には花を咲かせていなくて、俺が切った時に記憶を見せてくれた。

最後に、2018年11月30日7時頃。勇志の就職を祝って公園にいる時に八重桜が咲いているのを見た。

これが全てを教えてくれていたんだ。」

勇志が何か言いたそうな顔をしていたので、話を区切った。

「確かに、34年前に3人が殺害された日時、時間に俺たちは花を見てる。でもなんでそれで遺体の誰が埋まっているかまでわかるんだよ」

「花言葉に答えがあった。まずひかりさんについて、桃瀬さんは美人だったと言いました。次に、真紀子さんについて母は荻原さんと交際していることをごまかしていたと言いました。最後に、怜子さんは学年一の秀才、教養がある人だと梅名さんも駐在さんも言った。これが偶然にも、桜の花言葉と対応してるんです。

ソメイヨシノの花言葉は美人。

シダレザクラの花言葉はごまかし。

八重桜の花言葉は教養。

もし、全てが対応していたとしたらこの木の下には、俺の叔母である真紀子さんが埋められていると推測できます」

俺はちょうど目の前にあるシダレザクラを指さした。

「嘘でしょ。そんなことって」

穂乃は口に両手を当てて、目を見開いていた。

「ほんとに突拍子もない推理だけどね。そもそも、切った枝から記憶を見れた時点で、何か不思議な力の存在を信じるべきだったんだよ」

俺は笑いながら言った。

「じゃあ、俺たちが見た狂い咲きの桜は、俺たちに何かを伝えようとして咲いてたってことか」

勇志も驚きながら聞いた。

「そう言う事になる」

俺がつぶやくと卓馬が事務所からスコップを持ってきた。

「始めようか。もしそれが正解だったら、応援の警察を呼ぶよ」

卓馬の号令で掘削を始めた。


シダレザクラの根元を1mほど掘り返したが、その場所からは何も出なかった。

気を取り直して、幹の反対側を掘り始めた。

俺たちは汗だくで、誰も喋らなかった。

俺の腹程の深さ達した時、遺体の一部が現れた。

真っ白な骨の一部が見えたのだ。


それからは大騒ぎだった。

警察の応援と鑑識が大人数呼ばれ、辺りは規制線がはられ、ソメイヨシノと八重桜の下も穴を掘り始められていた。

卓馬は偉そうな警察官にまた怒られていた。


後日、遺体はひかり、真紀子、怜子と正式に判明し、遺族は34年越しに再開することが出来た。

俺も正式に桜城公園の管理人となり、師匠の仕事を引き継いだ。赤の温室は取り壊さず、俺が管理する事に決まった。


そろそろ8月が終わる。

幼なじみ3人は、公園にいた。

「遺体見つかって良かったな、ほんとに」

いつものベンチに座り。勇志が言った。

「うん。お父さんも喜んでた」

穂乃が笑顔で呟いた。

「うちもじいちゃんと母さん泣いてたな」

枝の記憶、そんな非科学的な現象からこんな大冒険になってしまうとは誰が予想出来ただろう。

「駐在さん、怒られてたけど、異動とかにならなかったらしいせ」

勇志がイタズラっぽく笑いながら言う。

「そう。良かったじゃん」

穂乃も笑う。そんな穂乃の笑顔を見て、俺の口元も緩む。

「勇志と穂乃にしか言わない事だけどさ」

俺は少し恥ずかしい気持ちを隠しながら言った。

「なんだよ。告白か」と勇志は冷やかす。

「違うよ。」

俺は一呼吸挟んだ。

「フランスで桜の花言葉はなんて言うか知ってる?」

勇志と穂乃は考えこんだ。

そして俺は言った。

「私を忘れないで」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの枝 栗亀夏月 @orion222

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ