第4話 電脳虎猫2

「おっさん!」


 傾く体を支え、その場に寝かす。怪我はしているが死んではいない、あいつはどこだ。どこにいる! 目だけで敵を探す。見当たらない、そう思った時だ。


――グゥルルルル……。


「そこか、見つけたぞ……かかってこい!」


 そう叫ぶと黒い影が飛んでくる、速い! 攻撃を仕掛けようと腕を突き出す、腕に重みが、振り落とそうとしたが……そいつは腕を伝い歩いてくる。顔の真横まで来た時初めて顔を見た。


「かっ……」


 真っ白な毛並みに黒い模様、青く澄んだ丸っこい目、ピンと凛々しいひげが小さな体に似合っていない。なんというか……こいつは……。


「くっそ、可愛いんだが……」

「……がう」


 そのまま肩に乗ると一休みとでも言わんばかりにくつろぎ始める。体長は20㎝ぐらいの本当に小さな虎だ。だけど姿や体格は虎だが耳は丸というより角のない三角耳、猫みたいな耳だ。恐る恐る撫でると指先を匂い、小さな舌で舐められる。


「こ、こいつが……人間を食い殺したのか。店主にまで怪我をさせて……って、おいおっさん! 大丈夫か、生きてるか!」


 血を流す店主を揺さぶると目を覚ます。


「いたた……油断してしまいましたね。すぐにあいつを――えっ、えぇぇっ!? 肩に居る、な、何をしたんですかあなた!? たた、食べられたんですか。私死んだんですか!?」

「いやいや、落ち着けよ……」


 店主は俺の肩に居る虎をじっと見つめている。すると、片目を開けた虎が耳元で唸り声を上げ始めた。俺が胸に抱いて背中を摩ると目線は店主を見て唸っているが、同時にゴロゴロなどを鳴らしている。


「なんと……これは驚きました。電脳虎猫が誰かを主と認める条件は未だ分かりませんが、あなたは只者ではない。普通の人間よりはるかに高い知識を持っている者にのみ従うと聞きました。あなたが、そうなのですね」


 店主はハンカチで傷を押さえながらそう口にする。


「ふう……あなたには脱帽です、その子は差し上げます。代金は結構です、寧ろ貰い手が見つかって私としても安心です」

「ありがとうおっさん! これからよろしくなー」

「がぉ」


 虎は再び俺の肩に乗る。首元にふわふわの毛並みが当たってくすぐったい。


「そうだ、こいつ何食べるんだ? 好物は?」

「好物ですか? 主食は肉です、ですが一度人間を食べているので、人間以外の味は好まない可能性が高いですよ。動物と違って人間の肉はとても、と言いますから」


 店主のおっさんが怪しく笑う。外に出たらそこら辺を歩いている人間を食い殺したりしないよな、ゲームに関係のない人間の殺害はさすがに躊躇う。


「まあ躾ければ大丈夫でしょう。人間を食ってはいけないと、まあ……一番いいのは食べてもいい人間の特徴を覚えさせておくことです。出来れば、の話ですがね」


 くすくすと笑う店主を一瞥して、俺は肩に居る虎を両手に抱き顔の前に寄せる。


「いいか、お前の名前は今からリンクだ。リンク、俺みたいに異世界から来た人間の匂いだけを追え。この国に元から存在している人間は絶対襲ったら駄目だ。それと異世界から来て長年住んでいる奴もだ。時と場合によるが俺が指示を出さない限り、人間を襲わない事、約束出来るか?」

「がぅがぅ」


 リンクは短い尾を振りながら小さく鳴いた。


「よおし、いい子だ。俺の言葉が理解出来てるのか? 天才だなぁお前」

「電脳虎猫は知識をスポンジの様に吸収しますからね。主人あるじと認めた虎猫は主人のみの言う事に従います。この子の成長は未知数、育成方法によって性格も変わるそうですから。大事に育ててくださいね、リンクも彼の言う事を聞くのですよ」


 そう言っておっさんが手を伸ばすと、リンクはガルガル唸りはしていたが噛みちぎる様な真似はしなかった。


「早速言う事を聞いていますね、賢い子だ」

「すごいなこいつ。おっさん、ありがとうな。こんな可愛いやつタダでくれて、俺らそろそろ行くよ」

「はい。道中お気を付けて。リンクにたくさんの世界を教えてあげてください」


 薄暗い部屋を抜けて部屋の奥で手を振るおっさんに頭を下げて俺とリンクは外に出た。

 ずいぶんと長い時間暗いところにいた気がする。そんなに時間は経っていないはずなのに。

 リンクは初めて見る外の世界だ、鼻をヒクヒクさせてそこら中に漂う匂いを嗅いでいるみたいだ。


「よーし、行くぞ。リンク、途中美味いもの食わせてやるからな」

「がう!」


 俺は新たな相棒、電脳虎猫コードタイガー、リンクを連れて歩きを進める。まずは食べ物を買うにしても金がいる。金の作り方を聞かない事には始まらない、俺はイリスタンの町の中央にある馬鹿でかい建物へ向かう事にした。

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俺だけ無双道 涼風真桜 @miki0630

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