第43話【本編】ボックスを踏む魔王

「・・・・・・あたしがおとりになってやろうか? 目的であるあたしがいきなり目の前に現れればその魔王も油断するかもしれないだろ? ・・・・・・あたしのことが心配か? 大丈夫だ! 15分くらいならそいつの先の行動を操れるからダンスでも踊らしておくさ。それまでにそのダタンってのの体を取り返しなよ!」


 ナージョという娘はそう言っていた通り極小ごくしょう魔王の前に自ら姿を現し、囮になってくれていた。


 ダタンはとても美しいエルフの少年だった。


 その美しいエルフの少年がいかにも魔王らしい衣装を身に付け、今ボックスダンスを踊っていた。


「なんでボックス踏んでるわけ? さては、この世界のダンスの基本もボックスなんじゃね?」


 俺の隣で古堂こどう美冬みふゆがそんな呑気なことを言っている。


 魔王の格好をした美しいエルフの少年がボックスを踏み続けている絵の滑稽さが彼女の気持ちを軽くしたのかもしれない。


 だが俺はそれには一切返答せずに、ダタンにこう語り掛けた。


「ダタン君、聞こえる? カルーバ君から全部聞いたよ。それで君を助けに来たんだ。僕と君が力を合わせれば君の体を取り戻すことができるはずなんだ。だからこの声が聞こえていたら心の中で返事をして!」


 すぐには返答はなかった。


 ダタンの姿をした極小魔王はまだボックスを踏み続けている。


「もう5分くらいは経ったんじゃない? まだ返事はないわけ?」


 と、古堂 美冬が俺に訊いてくる。


 俺は首を横に振ってそれに答えた。


 その直後だった。


「・・・・・・あなたは誰なんですか? 声を聞けば悪い人じゃないことはわかりますが・・・・・・」


 俺はそのダタンの〈心の声〉にこう答えた。


「僕は時岡ときおか 尚春なおはる。この世界を救うために召喚された君にとっては異世界人だ。でも、この世界を救う前に君のことを助けたいんだ。いきなりで難しいだろうけど僕のことを信じて協力してくれないかな? 時間がないんだ」


 すると、今度はすぐに返答が来た。


「・・・・・・わかりました。今目の前にいる彼女が命懸けで何かをしてくれていることははっきり伝わってきます。そしてそれはボクのためではなくあなたのためにやっているのだということも。だからあなたのことを信用しますよ。・・・・・・ボクは何をすればいいですか?」



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