第23話 一方その頃[Side ナナシのぼっち①]

 わたしは、わたしは・・・・・・やっぱり名乗りたくない。


 もういっそこの世界では「ナナシ」とでも名乗ろうかしら。


 

 みんな、時岡ときおか君のことをぼっち君とかぼっち野郎とかモブ君とか言いたい放題言っていたけど、本当のぼっちはわたしだ(「ナナシのぼっち」とでも名乗ろうか)。


 だって時岡君は結局パーティーに入れたんだから!

 あたしなんてこの薄気味悪い紫の草原をたったひとりで歩いているのだ。


 でも、不思議!

 こんなに見晴らしがいいのに、ほとんど同時に出発したはずのどのパーティーの姿もどこにも見当たらない。


 まるでこの世界にはわたししかいないみたいだ。


 あー寂しい!


 寂しいけど、あの天のおじさんにもらったこの本があるからまだましか。


 これも不思議なんだけど、この本を胸に抱いているとひとりぼっちでもなんだか安心する。


 もしかしたらこの本にはそういう力があるのかもしれない!


 魔法の本?

 魔導書?  

 悪魔の手記?


 なんだっていいけど、そろそろ開いてみたっていいよね!


 そう自分自身に言ってから、天のおじさんにもらったその本を開いた時だった。


「・・・・・・えっと、君がボクの新しい持ち主? ボクは大魔導書のマード君。どうぞよろしくね」


 ああ、わたしにも仲間ができた!


 その時のわたしの喜びをどう表現すればいいかまだよくわからない。


 とにかくわたしはうれしくってうれしくってたまらなかったのだ。


「マード君。わたしはナナシ。ナナシのぼっち。こちらこそよろしく」


「あれ? 本がいきなりしゃべったんだよ? もっと普通驚かない?」


「ごめん。わたしリアクションが薄いんだ。でもこれでも驚いてるんだよ、すごく」


「そうなんだ。えっと、君の名前は、ナナシのぼっちだっけ?」


「・・・・・・そう」


「じゃあ、ナナって呼んでもいい? それともぼっち?」


「ナナがいい!」


「じゃあ、ナナ。よろしくね」


「よろしく、マード君。・・・・・・それでそもそも大魔導書ってなんなのかな?」


「えっと、大魔導書っていうのはこの世界に2冊しかないとても強力な魔導書、つまりは魔法の本のことだよ。魔法以外にもこの世界のあらゆることが記述されてるんだ」


「世界に2冊だけ?」


「そうだよ、2冊だけ!」


「もう1冊は? 誰が持ってるの?」


「もう1冊は大勇者が持ってるよ」


「大勇者?」


「この世界をかつて何度も救った伝説の英雄だよ!」


「そんなすごい人とわたし同じ本を持ってるの?」


「そうだよ! でも、正確に言うと同じ本ではなくてボクの兄弟を大勇者が持ってるんだ!」


「マード君は兄なの弟なの?」


「弟だよ!」


「ふーん。・・・・・・じゃあ、大勇者さんが持ってる本の方がすごいの?」


「今はそうだろうね。でも、これからのボクたち次第でそんなのはどうにでもなると思うよ」


「マード君はお兄さんと仲がいいの?」


「まだ会ったこともないからわからない」


「そうなんだ。 ・・・・・・会いたい?」


「どうだろう? 会ったら戦いになってしまうから今は会わない方がいいかな」


「どうして戦いになるの?」


「魔導書というのはそういうものなんだ、昔から」


「だったらわたしはその大勇者さんと戦うことになるの?」


「出会ってしまったらね」


「大勇者さんってどんな人?」


「ナナの知り合いだよ」


「えっ?」


「トキオカ ナオハル。それが大勇者の名前だよ」


「えっっ! 時岡君が大勇者なの? じゃあ、もう会ってるじゃない? なんで戦いにならなかったの?」


「まだナナがボクを開けていなかったからだよ」


「時岡君はわたしがマード君を持ってることを知ってるの?」


「あの時、開けなかったからまだ知らないと思うよ」


「じゃあ、時岡君には会わないようにしなくちゃいけないね」


「特にまだ今はそうだろうね」


「・・・・・・ふーん」


「ナナはトキオカ ナオハルが好きなの?」


「えっ? ・・・・・・ああ、うん。好き、かな」


「ふーん」


「まねしないでよ!」


「ごめんごめん」


 その日、マード君の話したのはこれくらいかな。

 マード君には時岡君に会わないようにしなくちゃって言ったけど、わたしはいつか会おうとこの時すでに思っていた。

 だって好きな人と戦うのってなんか切なくてすてきじゃない?

 でも、その前にわたしもマード君も、もっももっとがんばって強くならないと。


 わたしはこの世界で自分自身に革命を起こすんだ!

 


―――――――――――――――――――

第21話も最後までお読みくださりありがとうございます!


ここまで読まれて、もしちょっとでも「なんかおもしろそう!」「これは期待できるかも!」と思っていただけましたら、作品フォローや★★★評価をしていただけるとうれしいです!


皆様からの応援が駆け出し作者のモチベーションにメチャクチャなります!


精一杯おもしろい作品になるように努力しますので、よろしければ是非応援よろしくお願い致しますm(__)m


―――――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る