第9話【本編】過酷な旅立ちの時!

「・・・・・・それ以外の者達は一生この世界で暮らしてもらう!」


 それを聞いてみんなが一斉に悲鳴のような声を上げたのは言うまでもない。


 今までずっと一人でこの世界に召喚され、一人でこの世界を救い続けてきた俺もこんなことは予想すらしていなかった。


 何かがおかしい!


 超マイナーゲーム『サーザントビアス』にも、そんな台詞せりふはなかったはすだ。


 おっさん! そりゃいくらなんでもひどすぎないか?


 俺はもうちょっとでそう天の声のおっさんに詰め寄ってしまうところだった。


 だが、みんなの手前そんなれしいことはできない。


 じゃあ、いっそパーティーなんか組まないでみんなでこの世界を救えばいいじゃないか!


 俺がそう思った時、全く同じことを口にした者がいた。


 乗崎じょうさき 麗夏れいかである。


「・・・・・・じゃあ、もし全員でこの世界を救ったら全員で元の世界に戻れるのかしら」


 それについての天の声(おっさん)の回答はあまりに非情なものだった。


「この世界を救うという最難関ミッションを、みんなで仲良くおてて繋いで達成できるはずがないだろう! ふざけないでくれ! 我々だって必死なのだ! 競争の原理だよ、競争の原理! 世界を救えるのはたった一組のパーティーのみ! そうなったら本気で命をけるしかないだろう? その本気を我々は、この世界は求めているのだよ!」


 もちろんこんな台詞も『サーザントビアス』にはなかった。


 過去99回も毎回毎回世界が滅亡の危機におちいる自分達のことはたなに上げてよくそんな勝手なことが言えたもんだと俺はなんだか腹が立ってきた。


 だって高校2年生、16、7の少年少女にそれはあまりにも過酷すぎる話だったから。


 当然泣き出す者もいたし、天に向かって命乞いのちごいをする者もいた。


 そんな中、安斎あんざい遼也りょうやが突然こう言ったのだ。


「オッサン、もうスタートしてもいいんだよな? これは競争なんだろ? だったらオレ達はどのパーティーよりも早くスタートするぜ! ・・・・・・でも、その前に、武器はもらったが、オレたちの職業ジョブはなんなんだ? この世界には職業ジョブはないのか?」


「ジョブ? ああ、職業のことか! この世界には冒険者の職業は数多あまたあるからな! いちいち説明するのは面倒だ! 自分で職業登録所に行ってまずは初級職業から体験してみなさい!」


「なんだよ! オッサン! やっぱ職業ジョブあるんじゃねえか! そんな大事なこと言い忘れやがって!」


「言い忘れたのではない。あえて言わなかったのだ! 楽しみは後にとっておいた方がいいだろう? それにそんな質問をされたことは今までなかったからな!」


「もういいよ、くだらねえ言い訳は! 聞きたかったのはそれだけだ! オレ達はもう行くぜ! オレ達のライバルになりそうなパーティーはどう見てもいなそうだけど、速攻でこの世界を救って一生後悔させてやりたいやつらはたくさんいるんでね!」


 その遼也のムカつく台詞せりふが自分達のパーティーメンバー以外のクラスメイトの声をその場で聞いた最後だった。


「もちろんだ! いつでも出発してもらってかまわん!」


 その天の声(おっさん)の言葉を合図に俺達以外のパーティーは一斉にその場を離れていった。


 そして俺達だけがその場に残されたのだ。


阿香里あかりたちも早く出発しよー! 一番にこの世界を救わなきゃ元の世界に帰れないんだよー! みんなー! わかってるのー? 何のんびりしちゃってるのー? 早く出発しよーよー!」


 秋野あきの 阿香里にそううなされても俺達はしばらくは誰も言葉を発しなかった。


 ショックを受けていたというのも、もちろんあるだろう。


 でも、それ以上にどうせ急いだところでそんな簡単にはこの世界を救うことなんかできないだろうと他のメンバーは理解していたのだと思う。


 そのことを、表現はかなり違うが最初に言葉として発したのは古堂こどう 美冬みふゆだった。


「そんな急いでもしょうがなくね? は別に元の世界に戻れなくても別にいいんだけど。だってこの世界と元の世界どっちがいいかなんてまだわかんないし! もしかしたらこっちの世界の方がずっと楽しいかもしんないじゃん!」


 俺はひどく驚いていた。

 だって、古堂 美冬は有名人で成功者なんだから元の世界に戻りたくて仕方がないものだと思っていたから。


 だが、そうではないのだと知って、俺はこの時 ひそかに古堂 美冬というおない年の女の子に今まで以上に強く興味を持ちはじめていた。


 そんな時、乗崎 麗夏がこう口走ったのである。


「私もこの世界を救う前にこの世界のことをちゃんと知りたいわ。ねぇ、どうせだったらこの世界を誰よりもたっぷり味わいくしましょうよ!」



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