第6話 VSソルティル・ヴィングトール


 現在の目標:ソルティルがパーティーを募集するサブクエストをやって、ソルティルと戦う。 


 なのだが…………、



「タングニスト部隊への所属希望の方、こちらに集まってくださーい!」


 恐らくソルティルの部下である女子生徒が、集まった生徒達を誘導していた。


 

 人、人、人……人だらけ。まるでライブ会場だ。

 まあ、間違ってないのかもしれない。

 ソルティルというアイドル同然の存在を、一目見たい!

 間近で見たい! 最前で見たい!

 あわよくば触れたい……!

 ラッキーな……スケベがしたい!! 

 ……という、下心で来ているやつらもいると思う。


 クソ……絶対に許せねえ……!


 真面目な場なんだぞ、ここは!?

 世界を救うためのパーティーメンバーを決める場で、推しに会う感覚でいるなんて!


 ……。


 ……まあ、俺もソルティルが目当てなんだけどね?

 世界を救うことが目当てかと言われると、まあ、ね?



 ……でも、ちゃんと世界も救うから許して欲しい!




 ■




 【SIDE:ソルティル】


「どれくらい集まった?」


 足を組んで座るソルティルが、目の前に立つメイド服姿の少女へ問いかけた。


 メイド服の少女が答える。



「…………そ、それが……100人程の生徒が集まったのですが」

「下らん野次馬も混じるだろう? 間引いておいたか?」


「そこ、なのですが……」

 

 言い淀むメイド服の少女。


 

 ソルティルが、僅かに眉根を寄せた。

 首を傾げると、金糸の髪が揺れて煌めく。


「……どうした? シャルヴィ。……らしくもない」


「…………集まった志願者の選別のため、まず志願者同士のバトルロイヤル形式で、試験を行いました。……結果、残ったのは、たった一人……」


「ふむ……その者の名は?」




「…………グリスニル・ヴェイトリー。

 今朝、ソルティル様に粗相をした、あの無礼な《ブランク》が……!!

  ほとんど一人で、全ての生徒を倒しました……!」





「く、くく……ふふ……ははっ……!」


 ソルティルが、笑った。



「ソ、ソルティル様……?」


 メイド服の少女は、目を剥いた。


 胸の中に、暗いものが滲む。

 知らない、知らない、こんなソルティル様……知らない。


 超然と、常に全てを俯瞰する『完璧』な存在。

 誰も届かない高みにいる、この世界を救う《勇者》となる、絶対の一人。


 ソルティル・ヴィングトールの、『完璧』が、崩れているような……。


 何かが、剥き出しになっている。


 見えていはいけない、『何か』が…………。




「…………やっと、来たか……」


 ソルティルの声には、何か、異様な執着が滲んでいる。




 メイド服の少女には、そんな風に思えてならなかった。


 メイド服の少女――シャルヴィは思う。

 強く、思ってしまう。


 ――グリスニル…………お前が、憎い……。


 《ブランク》如きが。

 どこの馬の骨とも知れない、『加護』のない者が……。

 ……どうしてソルティル様を変えてしまう?

 

 ――私の『完璧』を、お前が、変えるな。

 



 ■



 

 集まった生徒達を選別するための試験は、サクッと終えた。


 あー、ここもしゲームならカットだなーって思った。

 ソルティルが出てないシーンとか……、いらないし……。


 そして、今。


 ――学内の闘技場にて、俺は、ソルティルと向かい合っていた。


「さあ、舞台には上がりましたよ」


 眼前に立つ、金髪の少女へ、そう言葉を投げつける。


 ……シナリオからズレたセリフは、……怖いな。


 アドリブというか、二次創作というか。

 もうこんなシーン、原作にないからな。

 『原作』という道標がなくても、それでも……。


 ――俺は、ソルティルを救いたい。




 ――「であれば、相応の舞台に貴様が上がってくることがあるのなら、その時は誘いに応じてやる」


 今朝の一件で、ソルティルが口にした言葉だ。




「……いいだろう。確かめてやる、グリスニル。

 貴様が、私の手足となれるかをな」


 口元に僅かに笑みを浮かべながら、ソルティルが言う。



「……一つ訂正させていただくと、『手足』じゃなくて、同じパーティーの『仲間』です」


「……ハッ! ほざいただけの力は見せてくれるのだろうな!」


 バヂィィィッ!! と激烈な音を散らしながら、十、二十……もはや数もわからない程の雷撃が撒き散らされた。

 Dランクのワーグ・リュスタロスなど、比較に出すのも馬鹿馬鹿しくなるスケールの攻撃。


 ダンジョンの最奥に座す雷竜が放つブレスのような攻撃を、杖なし・片手・無詠唱でブッ放してくる。


 ウオオオオオオオ……!! と凄まじい歓声が響く。

 現在、この闘技場には、大勢の生徒達がいた。


 俺が倒した志願の生徒達、約100人や、学内に残っていた生徒、寮にいた生徒達も来ているだろう。


 ……もはや、武闘大会の決勝戦の盛り上がりだ。


 ゲームでもあるけどね、武闘大会編。

 めちゃくちゃ好きだけどね、あそこらへん。


 …………これ、チュートリアルの次の戦闘なんだよなあ。

 サブクエストなんだよなあ……。



 シナリオ改変してたら、大変なことになってきた。




 俺は、樹木が伸びるように四方八方に広がる雷撃の全てを、躱して、斬る。


 全てをくぐり抜けて、ソルティルへ接近し――――



 キィィン……! と刀と剣がぶつかる音が鳴る。




「大口を叩くだけはのことは、あるようだな」



「……まだまだ。ここからでしょう? 

 洒落た逢瀬デートには、剣舞ダンスが似合うと思うのですが……、

 ――いかかがでしょう?」




逢瀬デート……か。

 いいや違うな。その身を刻んで教えてやろう。


 これは――調教しはいだ」






 ああ、もう……ああ言えばこう言う!!



 でも……面白い……!!


 そういう思い通りにならないところが、ソルティルの好きなところだ……!


 まったく……推せるヤツだよ、本当に……!!

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