第2話 初めてできた友達

 真耶と最初に出会ったのは、中学生のときだった。登校日初日、私はクラスの空気に馴染めず、決められた自分の席に一人ポツンと座っていた。周りはすでにいくつものグループができていて、とてもじゃないが自分が入れてもらえるような雰囲気ではなかった。


 母親が外国人という理由で、小学生の頃は宇宙人だの何だの同級生に散々からかわれて仲間外れにされてきた。だから、友達がいないことには慣れているし、今さら大した問題じゃない。意地を張ってそう自分に言い聞かせた。

 だけど、私だって好きで一人でいたいわけじゃない。一人ぼっちがどれだけ寂しいかは身をもって知っている。ただ、今さら友達の作り方なんて忘れてしまったし、そもそも誰かに声をかける勇気なんて持ち合わせていなかった。


 そのまま誰とも話をすることができずに緊張と焦りで迎えたお昼休み、お弁当箱の蓋を開けようとした。すると、いつの間にか小柄で可愛らしい子が横に立っていた。

 「そのお弁当箱可愛いね。よかったら、お昼ごはん一緒に食べようよ」

 彼女は、真っすぐな瞳と優しい笑顔をこちらに向けて話しかけてきた。

 「え……うん。いいよ」

 ぎこちない笑顔を作ってそう返すのが、そのときの私には精一杯だった。


 当時のことは、彼女にとってはほんの些細なできごとだったかもしれない。でも、私にとって彼女は中学生になって初めてできた友達だった。15年経った今でもあのときのことは、昨日のできごとのように鮮明に覚えている。


 彼女は人懐っこい性格と持ち前の明るさで、いつも場を和ませてくれた。彼女の周りには自然と皆が集まってきて、おかげで私にもたくさん友達ができた。

 「うーん、満ちゃんか……みちる……みー……みっちゃんなんてどうかな?」

 「みっちゃん?!……今まであだ名なんてなかったけど、そんな可愛い呼び方、私に似合うかな?」

 「うん。ピッタリだよ!だって可愛いと思ったから、提案したんだもん。ねー、みっちゃん!」

 そう言って満足そうな顔をしながら、彼女は早速考えた私の“名前”を何度も呼びながらはしゃぎ回った。

 

 彼女は、人のあだ名を考えるのが得意で、私に付けてくれた「みっちゃん」も、すぐに皆が呼んでくれるようになった。気恥ずかしくて、慣れるまでは呼ばれる度にむず痒い思いをしたが、それまで自分の名前ですら呼ばれることがなかった私にとって、彼女がつけてくれた“名前”は特別で、宝物のように愛おしく思えた。

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