第3話 唯一無二の親友

彼女とは趣味嗜好がとてもよく似ていて、気づけばいつも一緒にいた。生まれて初めて親友と呼べる存在ができたことに、心の底から湧き上がる喜びに満たされていた。小学生の自分からは想像もつかないくらい楽しくて充実した日々を過ごした。


 そうして3年生になった春の放課後、忘れられない事件が起こった。いつもニコニコした彼女が苦しそうに歪ませた顔で近づいてきたかと思うと、突然目の前で泣き崩れた。彼女と一緒にいてこんなことは初めてで、驚いた表情を隠しきれなかった。

 「みっちゃん、私ずっと自分のこと騙してきたの。皆に嫌われたくなくて、ずっと笑顔でいようとしていたけど、本当は私にも嫌なことはたくさんあって笑えないときもあるの。お母さんにもそんなにへらへらしてないで勉強しなさいって言われるし、いつもお兄ちゃんと比べられることもすごく嫌で……」

 泣きながら彼女は、ずっと我慢してきたことを話してくれた。その小さな背中をさすりながら、どんな言葉をかけたらいいか必死で考えた。

 

 彼女も私と同じだったなんて、一番近くにいたのにどうして気づいてあげられなかったのだろう。隣で号泣する女の子がかつての自分と重なり、なんとかして救いたい気持ちでいっぱいだった。


 「真耶も辛いことたくさんあったんだね。実は私、小学生のときいじめられていて、私も最初は笑顔でごまかしてた。でも、だんだん自分に嘘をつくのがしんどくなって、笑うのをやめたら今度は無視されたの。つまんないからって言われたけど、人のために笑うよりましだと思って強がってた。でも本当は一人でいるのはすごく寂しくて……仲間外れにされることがずっと怖かった。だから、この学校で真耶が私に初めて声をかけてくれたとき、すごく嬉しかったの」


 考え抜いた末に出てきたのは、私が彼女に救われていて感謝していることだった。そういえば、今まで一緒にいることが当たり前すぎて、彼女に面と向かってそんな話をしたことがなかった。


 「私ね、初めてみっちゃんを見たときから、本当はずっと憧れていたの。周りに流されない強くて凛とした姿勢を貫いていて、私にはない強さを持っているように見えて……だから、どんな子なのか知りたくて気づいたら声をかけていたの」


 私の醜い見栄や意地が、あのときそんなふうに映っていたなんて……彼女は純粋すぎる。


 「私はどんな真耶も好きだよ。笑っていてもそうでなくても、そのままの真耶が好き。だから、もう我慢なんてしなくていいし、自分に嘘もつかなくていいんだよ」

 私に抱きついた小さな体の彼女は、目を腫らしながら嗚咽を漏らした。


 彼女が心に抱えていたものを打ち明けてくれたおかげで、ずっと伝えたかったことを言葉にすることができた。私にとって、彼女の存在は儚くも尊い。そんなかけがえのない親友を失う前に、大事なことをちゃんと話せたことに安堵して深く息を吐いた。

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