Ⅲ 河川敷への誘い


 その女の子は、両足を汚した分その黒い人物に、叱られていたみたいだが何かをささやかれ、公園の横の土手をその人物が背負って登り、道を渡ると河川敷のある方へ土手を下っていった。きっと川で汚れた足を洗おうとしているのだな。その河川敷は簡単に整備されていて、サッカー場や野球場になっていた。遊んでいる数人の子供達も見えた。だから俺は先が気になり、その人物にあわせて自分も移動した。小窓も合わせて移動した。河川敷には江戸川に続く、細い溝が流れていて、その人物は背負ったまま、その溝の側に腰をおとした。そして、女の子の足を洗い始めた。そこで、女の子がムズムズし始めて、江戸川の方向を指差していた。じっとしていられないのだろう。仕方なくその人物は再び女の子を背負うと、少し回り道をして川の方まで連れていった。川岸まで行くと、女の子を下ろした。女の子は水辺でバシャバシャして遊んでいたが、その黒い人物は何か苦汁の思案をしているのか、厳しい顔をしていたように見えた。何かが頭の中を駆け巡っているのだろう。そしてあろうことか、突然女の子の帽子を奪い取ると、川の中に放り投げた。女の子は、吃驚びっくりして帽子を取ろうと、足を一歩踏み出した瞬間、その人物は女の子の背中を突いて、川の中に落とした。俺は思わずあっ! と声をだしたが、女の子は、あっという間に江戸川の流れにさらわれてしまった。その人物は少しの時間、女の子の方を見ていたが、直ぐにスックと立ち上がり、今来た道を早足で戻っていった。

 俺は、あ然として女の子を助けることも出来なかった。地団駄を踏んだ。女の子は流されていく。あぁ、とても見ていられなかった。怒った俺は、急いでその人物のあとを追いかけた。その黒い影は、木2号公園に戻り、庇の下に行って、あの子の靴と靴下を持っていたビニール袋に詰め込んで、町中へと走って消えていった。俺は溜め息を着き、夢でも見ているんだろうかと、思ったがその瞬間、身体に強い電気ショックを受け、気が付くとまた、もとの道に自転車ごと座り込んでいた。ふと腕時計を見ると、

「いっけねー、もうこんな時間じゃないか。早く学校に行かないと、あのハゲ監督に意地悪されるぞ~」と、俺は自転車にまたがり、土手の上の細い道を全速力で学校めがけて漕いでいった。

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