不穏な世界

カリス王国トート公爵領公爵家屋敷

「ラクロス 何の用だ。何かあったのか」


カーテンの影から一人の男が出てき、公爵の机の前で片膝をつき報告を始める。

「っは。旦那様。実はカラー聖国内で何かきな臭い事件ことが起きそうな予兆が  

 ありまして。どうやら聖国内全土で新たな宗教が出来るという話が3ヵ月前から

 突然、噂され始めました。

 時間をかけ探りましたがそれ以上は何故か掴めず

 キツネにつままれたかのように誰が言い始めたのか、

 何処で言われ始めたのかなどまったく情報が出てこない状況です。」

「ふーむ王国随一の能力を持つお前達でも無理であるならば仕方ないが

 それにしても宗教国家の中に新たに宗教が生まれるという噂か。

 確かにきな臭いな。

 セス、お前はどう思う?」

公爵家当主3代に仕える老紳士風の執事は少し考え

「私としましては、何故宗教が出来るなどという詳細不明な噂が広範囲に広がってい

 るのかが気になります。カラー聖国は現在の情勢としましては不安定であり、

 新たに宗教が起こるという事は何ら不思議ではありませんが、

 しかし突然全土でいっせいにとなりますと誰かが裏で糸を引いており、

 国内情勢の不安定化を狙って、この噂を流したというのはどうでしょう。」

「しかし、カラー聖国とサーダイル公国の戦争は

 東部で激化しており戦況も押され気味です。

 そのため、情勢もかなり不安定化していますし、

 これ以上不安定化をしたところで、多少変わるだけではないですか?」

「それもそうですね。それでは何が目的なのでしょうか・・・ 

 そういえば、東部戦線の詳細はどうなのですか?

 先週の報告書にはのタンブルク要塞までサーダイル側が

 侵攻しているはずですが。」

「それが…東部戦線は崩壊しました。」

「なんだと、、、それは事実か?

 誤りではないのか?タンブルク要塞はどうした?あの要塞は攻城兵器対策

 だけではなく大規模魔法対策までされており、

 うちの全軍を投じても落とすまで最低でも5年はかかる鉄壁の要塞だぞ?」

「タンブルク要塞は一夜にして落ちました。

 残念ながら忍ばせていた私の部下達の証言が誰一人も食い違わず、

 私も信じられず自分でも見に行きましたが、事実でした。」

「して、そのタンブルクを落とした方法とは?」

                 ・

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                 ・

「報告ありがとう ラクロス。君たちの安全を第一に何があろうと生き残って

 私の元にまた報告に来てくれ。」

「閣下。私は軍人であり、間者です。

 まあ、上官の臓器に穴をあけるような無能な部下になるわけにはいかないので、

 出来る限り安全を第一に任務を遂行させていただきます。

 それでは。」

男は現れた時と同じようにカーテンにくるまり影に消えていった。


「皇国の新魔法と新技術やっかいだな。

 戦争のあり方を大きく変えるなこれは。」

「ええ。今の一点に戦力を固めるのは悪手かもしれませんね。」

トート家うちや一部の寄り子ならば心配はそこまでないが、

 それ以外の家はお世辞にも強いとは言えんからな。」

「うちの寄り子は古参の中の古参の家と新参の家という形で数だけは多いが

 実際の戦力はかなり偏りがありますからね。

 特に怪しいのは北でしょうか?」

「そうだな・・・しかしあちらには大湿地と大樹林がある

 そうそう落ちるはずはなかろう。」

「東部戦線も絶壁のニューヒン山脈や

 ナガラ大滝、五竜湖など攻略不可と呼ばれるところまで落ちました。

 不落もニューヒンやラクラ山脈程の高さや難易度ではないにしろ

 かなりの山であるウェル山脈群に囲まれた場所にありました。

 そのような楽観的思考は危険かと。」

「確かにそうだな。気を付けるよ、爺。

 それにしても、この感じだと聖国は滅ぶな。

 国王はまだ説得できないのか俺が出ることを。」

「私が王の立ち位置なら戦場に出たがるあなた化け物のほうが

 頭が痛い思いではないでしょうか?」

「言えてるな・・・ハハハハハ

 やけに明るいと思ったら月が綺麗だな今日は。

 これぐらい綺麗な日はあんな憂鬱になるよう時間が無いと

 助かるんだけどなぁ。」

 黄金に輝く満月を執務室から眺めながら

エレンストは戦争がカラー聖国の勝利で終了するのを願っていた。

 


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