今年ももう終わりです

年末パーティ―に向かう馬車の中

日が暮れ始めるのを見て、俺とシエンは少し黄昏ていた。


「今年ももう終わりかぁ。」

「あっという間でしたね。」

「そうだな。五月の俺の誕生日にいきなり婚約が決まり。」

「あれは、正直私も驚きでした。いくら戦争で情勢が厳しかろうと私は仮にも王女で聖女ですし、婚約まで一年はかかると思っていましたら私の誕生日の一ヵ月後には決まったものですから。まさか社交界デビュー一ヵ月後に婚約者が決まるとは予想もしていなかったので。まあ、今はミネルの婚約者になれて幸せですけど。」

「俺も社交界デビュー後一日で、決まるとわ・・・。まあ俺も今幸せだけど。」

「そこからはお義母さんおかあさんの授業を一緒に受けたり、お義姉さまおねえさまお義兄さまおにいさまと遊んだり、お義父おとうさまの戦闘訓練を受けたり、かなり濃密で優美な四カ月でしたね。」

「確かにかなり濃かったな。兄上の訓練所半壊やら父上血まみれ事件に母上怒髪天、ロン爺森林破壊さんぱつ事件等々。まあ、楽しく幸せだったことは間違いないな。みんな、優しいし。」

「ホント、みなさん優しいですよね。王都にいると特に感じます。」

「王都と言えば、10月からの誕生日パーティ―ラッシュは大変だったな。」

「もう思い出したくもありません。」

「俺もだ。」

「来年も良い年になると良いですね。」

「そうだな・・・と言いたいが、今年の最後のパーティ―の年末パーティ―は終わってないぞ。今日は俺達がトート家うちの代表だし。

・・・それと、シエンの国の戦争が終わると良いな。」

「っえ、ぇえ」

「まあ、今は問題ない程度だし、戦争が激化すれば、同盟国の援軍として父上が戦線に参加する理由が出来るし、今は、、、また小競り合い程度になっているから、父上が参加すれば諸外国から越権行為として非難されかねないから無理だが。」

「ええ、分かってるわ」

気丈に振る舞う彼女を見て、俺はいたたまれない気持ちに苛まれる。

だが、5歳の、しかも嫡男でもない俺が激化もしていない戦争に父上に行ってと言っても子供の駄々としか見られない。俺には、彼女の故郷くにを救う力はない。

力が欲しいと切に思う。

「ミネル?そんなに悩まなくて良いんですよ?」

俯き、自責の念に駆られている俺を、俺の婚約者シエンは俺の顔を覗き込みながら、かなりひどい顔になっている俺を心配している。

おそらく、彼女は俺が彼女の国の戦争を止められないことに、無力さを感じていると思っているのだろう。だが、俺の悩みの本質は、今なら助けられるかもしれない、シエンの故郷くにを助けることが出来ない事だ。

政治的にも、我が国の内部的にも、今父上を動かすことは出来ない。俺じゃあ、何も出来ない。崩壊するのを指をくわえて待って、彼女を悲しませることしか・・・

「ミネル。こっち向いて。」

「っははい。」

「あなたは今何に悩んでいるのかははっきり言って分かりません。政治的判断が分からないあなたではないでしょう?それなのにあなたは悩んでいる。」

「い、いやそれは。」

「私は、戦争で生活が変わりかなりシビアな考えを持つようになりました。それでも、あなたの合理的な判断には遠く及びません。はっきり言って、あなたは異常です。他の側近候補や、王子様を誉めていましたが、あんなのお世辞です。はっきり言って、私に及ばない。その私が遠く及ばないあなたが、何を悩んでいるのか私は分かりません。」

「そんなことないよシエンや、王子達は優れているよ。」

「嘘を言わないでください。私には分かります。あなたは抜けていところがありますが、今成人と言われても納得のいくほどしっかりされています。

そんなあなたが、そこまで悩まれているということは何か不安なことがあるのでしょう。例えば・・・戦争に負けるとか。」

図星をつかれた俺は、つい顔に出る。

そんな俺の顔をまっすぐと見ながらシエンは話を続ける

「私にはあなたが考えていることなど本当に分かりません。ですがね、ミネル。

それであなたが悩むことないんですよ?例え今、あなたが軍を率いることが出来る年だとしても、外交上、内部事情的にも動けないことぐらいあなたならわかっているはずです。私は、たとえそれで故郷くにが滅ぼうとも、私が死のうとも、覚悟は出来ています。あなたを恨むことなど絶対にありえません。私はカラー聖国の第一王女兼聖女のカラー・ナデシコ・シエンです。一国の王女で、聖女で、あなたの婚約者なのです。あなたの隣に立つ女です。何があろうと私はあなたの傍にいます。たとえ私が死のうと、あなたに嫌われようと何があろうとね。」

夕日を背に、俺の顔を正面に見ながら、その美少女は凛々しく微笑む


その時俺は理解した。この笑みだけは何があろうと守ると


その時俺は、真の意味で理解した。この世界を。

ゲームの世界ではない。正真正銘の戦国乱世の世に来たことを。

群雄割拠のいつ死んでもおかしくない世だという事を。


「あぁ、分かった。」

「それならよかったです。」

「それにしても、王城見えてきたな。」

「・・・あ」

「行くか、戦場に」

「はい、行きましょう。今年最後の戦いに参りましょうか。」


ここから本当の意味での俺の、いや、俺と仲間おれたちの群雄割拠のこの世界を戦い抜く人生が始まったのかもしれない。


今はまだ二人だけ。だが、最強の二人である。



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