第20話 真のイケメン
帰宅時に通るシャッター街は、この時間でも人通りが少ない。昨日よりも早い時間だが、全て複合商業施設に持っていかれたらしい。
古参のスーパーは健在であるが、ここよりは遠くなる。さて、商店街の存在価値とはなんだろう。
実に社会、経済的哲学を
時刻は午後四時に近づいていた。
いつもの帰り道、カナタと名乗る彼女の館は角を曲がればたどり着く。
ポツンと机が置いてある光景はいかにも寂しい。我が文芸部と大差なし。一人では心もとないだろう。
もう着くぞ、と知らせてもよかったが仕事中かもしれない。迂闊過ぎるカナタの気性を考えれば、よした方がいいと考えた。
角にそっと近づき、その様を確かめようとする。
と同時、目に飛び込んだのは客らしき男子と話す彼女の姿だった。
ふむ、角度的に分かりづらいが、相手が我が校の生徒であることは間違いない。制服が同じだ。誰ぞ?
背中しか見えないが、すっと伸びた背筋はいかにも姿勢がいい。座高から推測するに俺と背丈は変わらない。平均よりは高いぐらいか。
「身長が百八十センチない男性は、恋愛対象になりません」という、女性がいたとしよう。いやいるのだが。
その切実にして残酷な線引きは、なるほど良く分かる。魅力のあるなしはおよそ主観と感覚だ。誰が責められよう。
攻めても責めるな、世は多様なり、ではない。
攻めるのも責めるのもお門違い、が大人というものだ。
SNSなら軽く炎上するかもしれないが、男女のあれこれはいつの時代も話の種である。
当の自分は微妙に足らず、この逸話を聞いたのは中学の時だから確実に足りなかった。
思春期の少年よろしく「マジか……」と衝撃を受けるも、なるほどならば、こちらはどうあるべきか。
考えた末、
ーー身長が自分より高い女性は恋愛対象として見れません。あまりに頼り甲斐があり、突然天井のトラップが発動した時「私を置いて先に行け!」と言いかねない。いわんやこちらも男子たり。当然自分も残るので、力及ばず二人犠牲となる。
理屈に合わぬ、合理的でない。
よって合理的判断から、自分より背の高い女性を恋愛対象には出来ません。少子高齢化対策として、未来を担うZ世代はかくあるべしーー
との主張を福原に話すと「コロナって怖いね。頭まで破壊するんだ」と哀れみを向けられた。
これは話す相手を間違えたケースだ。
コロナが頭を破壊するとの報告は上がっておらず、福原に恋愛の話をするのは意味がない。からかわれるのが落ちである。
さて、彼はいかなる占いを求めているのだろうか。今少し踏み込み、その横顔を窺おうとする。
「ん? 見たことあるような」
うちの生徒なら当然だが、どうも見覚えがある。なんとも整った容姿、男ながら髪も肌も手入れされている。いや、ただ若いというべきか。
髪型は長くも短くもない真面目系、制服も着崩しておらずきっちりとしている。なんだかいい人オーラをまとっているな。
――なんてことはない、確実に知っている生徒だ。先ほど立花と話題にしていた内間ではないか。同級生の
……ちょっと待て、内間はいつからここにいる。カナタと親し気に話しているが、もしかして手遅れではないのか。
昨晩起きたことを彼女はもう忘れてしまったのか。
イケメンはまずい。学習しないとか重症過ぎる。三歩歩いたら忘れる鶏並だ。
互いにマスクはしているが、カナタは水晶球を仕舞おうとしている。つまり今までは机の上にあった。人相占いをした後の段取りだ。
これもうダメな奴じゃん……。
内間と共に飛ばされる何秒前よ。
嘆息するとはこのことだ、四分の一でもしかする。
対策ははっきりしているが、いつ飛んでもおかしくない。
せめて何もない異世界へ飛んでくれ。
いや違う俺がいる! と、巻き込まれに行く趣味はない。出来ることはもはやなし。
反省を促す為、ただその光景を眺めるしかないのだ。
今日も長くなるかもなんですね。おいら分かります……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます