真のイケメンとひきこもる少女
第15話 柿谷要は学生である
つくづく思うに、人の出会いとは不思議なものだ。
こうして話すのは俺じゃなくても構わないし、君でなくとも構わない。
現実が複数あればそれは平行世界である。その可能性は現在否定されておらず、さりとて一つの説に過ぎない。
「つまりこうして話していることは、奇跡的と捉えていいんじゃないだろうか」
「前段と結論が噛み合ってない」
「噛み合ってはいると思うが」
「それ私に言ってなんか意味あるの?」
教室の一角で、俺の言い分を
確かに、昨夜あったことを説明しなければこの心境は伝わらないだろう。
とはいえ異世界や呪いには触れられない。
というわけで件の対処法を尋ねると、福原風香に容赦というものはなかった。
「それはあんたが悪い! 相手は中学生でしょ。話し方とか服装とか、なんなら髪型でもいいのよ、褒めるなら!」
腕組みし、福原は冷たい視線を向けてくる。
そうかもしれないが、話し方が可愛いとか基準が謎過ぎる。「可愛い話し方辞典」という物は存在するのだろうか。いや、言わんとしていることは理解しているが。
その福原はショート気味だった髪を伸ばし始めている。今は肩程、セミロングまでは少し足りない。艶やかな髪質は、所謂茶髪で明るく輝いている。
なるほど、こう指摘すれば良かったのか。
「そうだが、重要なのは帰宅時間だ」
「大きなお世話。私だったら逆に通報してる」
「うん、正直それでも構わなかった」
呆れたと顔に出し、福原は首を振った。
言ってはなんだがこの福原、およそ美人の範疇に入れる者は多いだろう。全ては主観に過ぎないが、通俗性や普遍性は否定出来ない。ただそれに、付き合う必要がないだけだ。
ゆえに俺は、特段気を遣うことなく接している。彼女とは高校に入ってからの付き合いだが、最も話す女子の筆頭である。
さっぱりとした性格に、好感を持つ者も多い。
「はぁ、普段大人になれとか言ってる奴がまさか中学生ナンパしてるとか。引くなー」
「それはない」
「だろうけど、向こうはそう取ってるかもよ。自覚がない分悪質。まさか連絡先とか交換してないわよね。言っとくけど絶交もんだから」
なんと、絶交が確定してしまった。最も話す女子を失うと、人口の半数を占める女性との接点を失いかねない。
昨夜に続く危機的状況、
「無論、そのような真似はしていない」
「そ。それならいいわ」
大人は嘘をつかぬから大人である。
しかし今、俺は学生だ。
あれは取り引きあれは取り引きあれは……そう、取り引き。支払いの代償である。
嘘は良くないが隠し事は誰にでもある。選挙権を得ると同時に白状し、判断を仰ぐのが正しい手順。恐らく互いに覚えてもいないだろう。
そんな福原がまたため息をついた。
「はあ、分かりにくい」
「何が?」
「顔色、というか表情。あんたがどんな顔してんのか、そういやずっと見てない気がする」
ああ、と得心した。確かに、最後に福原の素顔を見たのはいつだろう。あれは遡ること幾億年。とはならないが、四半世紀見ていない。なんて冗談が飛び交いそうな昨今ではある。
「マスクってさ、なんかやましいことしてる感じがするのよね」
「それは偏見だろう」
「もちろん体調が悪い人は別。でもみんな体調が悪いとか今までなかったじゃない」
新型コロナの流行により我々の生活スタイルは大きく変わった。2020年の初冬に始まり未だ収束の気配はない。
学校だろうがどこだろうが皆マスク姿だ。
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