第14話 そして始まる物語

 もはや懐かしきシャッター街に入ると、再び彼女からメッセージが届いた。


[もう寝る準備してるー。今日はありがとう、また色々話そう。私はもう寝るね]


 続けて、


[正直ね、童顔って言われると思ってた。さあ寝るぞよ]


 寝るアピールし過ぎだろう。寝る寝る詐欺だ。

 童顔と、それで押し通すつもりだったのか。甘く見られたものだ。やはり分からせねば、呪いの件も含め彼女は放っておけない。


 今日は本当に反省だらけの一日だった。

 大人の階段きつすぎ、俺はまだ高校生さ。

 新鮮なのに懐かしのあれは、シティポップに入るのだろうか。節付きで呟きたいこの気持ち、どうすれば。

 頼りない自分を叱咤しつつ、歩を進める。

 もっと厳しい道を歩く人達が、世の中にはいるのだから。


 シャッター街を通り抜け我が家へ、もっと早く帰るはずだったのに、一体どうしてこうなった。

 きっと彼女はもう眠っているだろう。「力を使いすぎた」とか言ってばたりと眠り込んでるはずだ。ご家族がそれで納得するか、全く心もとない。

 こちらは明日からの課題が山積みだ。


 せめて一日の心残りだけはなくし、整理を付けたい。

 歩みを止めてから携帯を取り出す。決して歩きスマホはしない。大人が見本とならねば誰がなる。

 そしてメッセージを打つ。

 文面はこうだ。


[童顔などと戯言ざれごとを。美しいものを美しいと評しただけのこと。次からは気を付けて可愛いと言おう。約束はたがえぬ]


 ふむ、これですっきりだ。


 再び歩を進めようとしたがーー今俺何をした。


 おい、美しいとか可愛いとか素直に言えばいいってもんじゃないだろう!

 ただでさえ年頃の女の子、容姿ばっかり容姿ばっかり! と気にしたらどうする!

 最後の最後にまた間違いを!


 大丈夫、今すぐ削除すればきっと読まれたりしないーー既読付いてる。寝たんじゃなかったのか! 寝る寝る言うてたくせに!

 怒られてたのか、親御さんにこってり絞られていたのか!

 それでは俺が悪いということになる!

 いやそもそも悪いが、呪いってなんだ!


「ああ、もうなんてことだ……」


 嘆きの道が我が家まで続いている。

 俺は今日、己を知った。

 大人びたことをすると決めたのに、失敗を重ねただけだった。なんの解決もなく、いたずらに彼女の呪いを発動させてしまった。

 そして最後にこれだ。


 そうか、これがルッキズムの正体。

 全て外見で判断してしまう、なんということだ。

 奴らの言っていたことは、実はこういうことではないのか。ただの面倒な奴らではなく、人生訓を若人に示す立派な大人達……。

 むむ、面倒なくせに更に面倒な存在になりおって。


 失望にあふれていた。

 暗い道路は、確かに暗い。

 深夜も深夜、俺の心も真っ暗だ。

 そう、そうかもしれない。

 それでも俺は帰らねば、また一歩踏み出すことしか出来ない。

 失敗を糧に、更なる成長を遂げるのだ。

 うん、少しだけ前向きになれた。

 こんなことで落ち込んでいては真っ当な大人になれぬ。

 そうだ、さっさと帰り課題は明日とするしかない。

 我、帰路に着くなり。


 その時、突然音がした。

 何か冷たい感触もする。

 どうしたことだ、ただの地方都市の道端で、何が起きているというのだ。

 暗がりを見上げるまでもなく、それは落ちてくる。

 よくある自然現象。

 雨が降っていた。


「雨、雨だと……」


 おかしい、彼女が最初に言った雨に降られるは、明日……違う、もう日付が変わっている。


「なんて精度だ! 君は神か! 占い界に突然現れたアイドル系占い女子か!」


 冗談ではない、なんだこの凄すぎる占いは。

 俺は今日、とんでもない逸材と出会ったのかもしれない……。

 やはりこの出会いには意味があった。

 そういうことなのか。

 まるで啓示のようだ。

 おお神よ! 占いの女神よ!


 ーーと、勘違いする輩が沼にはまっていく。


 たまたまだ。偶然はそう続かない。

 異世界だって、異世界と確定したわけじゃない。

 いやあれは確定してそうだったけど、ガチっぽいけどたったの一回。

 ふふ、稀によくあること。


「我々は真相を究明するため、再び出会うことになるだろう。アマゾンの奥地へと向かうかもしれない」


 我ながら苦しい解釈だが、今はそれでいい。

 なぜなら、


「俺はまだ大人じゃない」


 たったそれだけのことが、自分を救い肯定する。

 立ち尽くしたままスマホを取り出す。

 文面はこうだ。


[雨降るの知ってたなら、傘貸してくれてもよかったんじゃないだろうか。それともそれは、貸してくれと言わなかった私の責任だろうか。つまり今、雨に降られた。詳細は明日、いや今日話すことになるだろう。さっさと寝ていることを期待している]


 また会おう、占い師よ。

 俺は再び足を踏み出す。

 濡れて滑る道を慎重に。

 一歩一歩、それでも確実に歩み続ける。


 今日がもう待っている。

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