第12話 大人失格

 しかしやけに素直な言葉が出てしまった。


「世辞ではないのだ。可愛いと言うべきだった。中学生ならばその方が相応しい」

「いいってばもう!」


 深夜というのに大声を出し、慌ててマスクを着けている。

 それでも顔を赤くしているのが、街灯の灯り程度でも分かった。

 むぅ、やはり率直に伝えればいいというものでもない。多感な年頃の女の子を傷つけず、事実を伝えることの難易度がこれほど高いとは。

 こないだまで中学生だったクラスメートの女子に、どうすればよいか教えを乞う必要がありそうだ。


「で、本当に送らなくていいのだな」


 話をするっと変えるのが大人の技術。今重要なのは安全と睡眠である。


「もう充分送ってもらったよ」

「何、近所か。ならやはり送り届けたい」

「今日は絶対ダメ! 絶対無理だし、普通そうじゃない! もう!」


 今度は怒り始めた。送るのは今日だけにして欲しいのだが。先が思いやられる。


「致し方ない、気を付けるのだ」

「うん、そっちも気を付けて」


 優しい響きに寂しさが込められている。そんな印象を受けた。やはりこの時間一人で帰るのは心細いのではないか。

 そうだ、俺はとんだ勘違いをしていたのではないか。


「そうか……なんと気の利かぬ。私は大人失格だ。すぐに気付くべだった……」


 情けなくも自覚する。これでは大人になどなれない。

 今頃気づくとは……ため息を殺し、俺は現実と向き合っていた。


「いいってば、ほんといいから。今気付かれても、私もなんか申し訳ないし。だって、一応初対面じゃない」


 やはりそうか。


「うむ、その物言い実に良く分かる」

「はは、もうほんとそのノリ可笑しい」

「可笑しくともいい。そう、なぜご家族に迎えに来てもらうという発想に至らなかったのか」

「……へ?」

「ご家族と初対面になるが、それを避けるのは実に不自然。君の意見を尊重するようで、実は自分勝手な己の都合。会ってしまえば詫びねばならぬ。結局私は、謝罪を避けていたのだ。そう思わないか?」


 確認のため言葉にしたが、彼女は閉口している。

 やはり、ずばりであったか。


「むぅ、実に大人失格。大宰もあの世で嘆いておろう」

「太宰は心中未遂し過ぎだよ。あなたそんな酷い人じゃないから。あの世じゃなくて自宅まで送ろうとしていたんだから」


 なんと、彼女に気を遣わせてしまうとは。


 閉口していたのに、なんと滑らかなダメ男ディスり。いかん、すぐにでも取り戻さねば。大人の免停どころか国外追放される。治安が古代レベルのこの世の果てまで飛ばされてしまう。


「すぐに連絡するといい。遠慮はいらない。覚悟は今出来た」

「しても寝てるって」

「そんなわけなかろう。我が子が帰って来ぬのだぞ」

「まあ、一人立ちしてるからたまにしか帰って来ないよね」


 一人立ち設定まで追加されてしまった!

 なんでそんなに気を遣うのだ!

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