第8話 二十歳です
きたか!
「うん、うん日本だ、これ日本だと思う」
思うでは困る。凄く似た別の異世界だった時、ちょっと場馴れしてるだけに過ぎない。
「すまんが、これは私も見ていいものなのか?」
「ダメっ! 仕事中です、ご遠慮願います」
キッと睨まれては、そういうものかと納得するほかない。
「ああ! ほんと良かったー、これ大丈夫だと思う!」
「思うではなあ」
「ごほん、日本です。四分の一引けたら、帰れます。だって、通天閣があるもん」
「またガラの悪いところに……足代どうするつもりだ。というか一泊だろそれは」
「しようがないんです、帰れたらいいの! イケメンなんだから、文句言わない!」
イケメンは文句を言う権利がないのか。知らなかった、世のイケメンに不満はないのだろうか。いつか爆発して、暴動とか起こしそうだが。世界のイケメン達の忍耐には感服するほかない。
こちらも今は忍耐が要求されている。
無事戻れるのなら、なんだっていいのだ。
彼らに比べれば大したことはない。
結果が出るまで、俺達は待った。
強い日差しを受けながら、うまくいって欲しいとただただ願う時間が続いていた。
ーー結局大阪には飛べなかったが、散々苦労した結果元の場所に戻れそうになった。
「よ、四分一ですから、次は大丈夫だと思う」
「大丈夫だ問題ない。野生な奴も危険ではないようだし」
「良かった……私足遅いから」
速くても獣には勝てない。
それはともかく、
「もう零時になってしまってる。君には本当に申し訳ないことをした」
「いいですよ、大丈夫。次こそ飛べます。私達は飛べる! きっといつか飛べるから!」
やばい宗教にハマった奴みたい。いや、クスリだろうか。やばい呪いなのは間違いないんだが。
「しかし、ご両親にどう顔合わせすればいいのやら。私が心から謝罪しよう。分かってもらえるまで謝るよ」
「いいですって。というか、私子供じゃないし……」
いつまでその設定でいくつもりなのだ。
働いている時点で、誤魔化したくなるのも分からんではないが。
「無理するな。年などいずれ取る」
「あのですねぇ……」
と、彼女は膨れっ面をつくってみせた。
それから胸を張り口を開く。
「私、二十歳です」
「精神年齢?」
「肉体です」
生々しい言葉をチョイスするな。身体と言え身体と。いやこっちも大概だ。社会的構成員として、とか? うーむ、
今は置いておくとしよう。問題は別にある。
「馬鹿言ってはいけない。こんな二十歳どこを探してもいない」
「いますよ目の前に」
全く、どうして年上に見られたいのだ。
年齢が上だとマウントでも取れるというのか。
うん、取れるな、散々やっていたような気がする。
これはダメな教訓を与えたかもしれないが、事実を塗り替えるのはよろしくない。
「君、そういう嘘をついていると地獄で閻魔様に半殺しにされるよ」
「なんで閻魔様そんな厳しめなんですか……」
「日本ではそういう教えなんだ。だからみんな嘘をつかない」
「つきまくってます」
「文句は政治家に言ってくれ。少なくとも私はつかないよう努力している」
「はいはい、分かりました。お客さんは中身もイケメンです」
「大人と言ってくれたまえ」
「はぁー」と彼女は今日だけで何度も見たため息をつく。
「どうしたら信じてもらえるのか」
「占い師などという怪しげな職業から足を洗えば考えよう」
「職業否定しないで……」
「すまない、大人はずばりだ。心理カウンセラーと占い師のどっちを信じる」
「出来ればどちらも」
「資格が必要ないと言ったのは君ではないか」
「結構持ってる人いますよ、占い師で心理カウンセラー。似たような仕事だし」
「しかし君は持っていない。そもそも取れる年齢でもない」
「もーっ、お客さんほんとしつこいっ!」
なんでキャバ嬢に迫る迷惑客みたいな扱いされてるんだ。全く、近頃の中学生は。
「身分証を見せるんだ、信じて欲しいというのなら」
「出た倒置法」
そういうつもりじゃない。
「ていうかですよ、身分証なんて軽々しくーー」
--また突然のことだった。
景色が一変し、見慣れたシャッター通りがはっきり見て取れる。なんと薄暗くみすぼらしい、格段の差だ。
「帰れた……」
「うん、帰れたな」
元の場所からほんの少しずれているだけ、素晴らしい精度だ。彼女の占いもかくあって欲しい。
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