第7話 呪い発動2

「これはさすがにまずい……」

「まずいって次元じゃないよう……どうするの? 大人なんでしょう? どうすればいいの?」


 うぐ、こんな時どうすればいいのかなんて、学校で教わってないぞ。

 ネットで「異世界 飛ばされた時の対処法」と検索したって、まともなものが引っ掛かるはずない。出てくるのはきっと乱造されたweb小説だけだ。

 というか、大人とか関係なくないか?


「まず、携帯が繋がるか確認しよう」


 これほど意味のない行為はなさそうだ。繋がったとして、どう伝えてどうしてもらえばいいのだ。


「繋がらないし、意味なくない?」


 分かってるならそんな冷たく言わなくても。

 営業トークの閉店だけは早いな! 帰れとずっと言っていたのに!


「待て、解決策はあるはずだ……」

「ここで新たな人生歩むとか? 私、ここで生きていく自信ない」


 今度は凄い落ち込みだ。どんな世界か分からないが、とりあえず転生ボーナス的なものは見当たらない。

 というかこれは転生ではない。

 聖女でもなければチートでもない。

 追放もtsも、勇者も魔王も今のところは見当たらない。


「ああっ! イケメンだからって口車に乗るんじゃなかった! 私の馬鹿! あんたの馬鹿!」


 ぐぬぅ、好き放題素になりやがって……大人だからと遠慮なしに!

 頭を、頭を使うのだ。現実を受け入れ解決策を導き出す。

 大人である以上避けては通れない!

 その時、


「ん?」


 と、何かがひらめいた。いや、引っ掛かった。


「これは、そもそも占いなのか?」

「占いの結果。私に文句言わないで……」

「占いというか、呪いではないのか?」

「呪いは精度が下がるもの。異世界とか関係ないもん……」


 また今度は幼くなりおってからに。


「違う、呪いの占いの結果飛ばされたのではないか、と訊いているのだ」

「いやそうだけど、それがなんなのよ……」


 察しの悪い。


「つまりだ、日本に戻る占いの結果を得れば、四分の一の確率で戻れるだけの話ではないのか?」

「あ……」


 ポンッと手を叩き、彼女は言う。


「お客さん、それだ!」

「な」

「やだイケメン! 中身もイケメン!」


 どうやら加害者からお客に戻れたらしい。あと彼女の主観によるイケメン枠にも戻れたようだ。そっちは正直どうでもいいが。いや違う、気になる異性でなければこの呪いは成立しない、発動しないのだ。

 となると、大人というかイケメンを演じねばならないのか。どうやって? やったことないぞ?


「じゃ、じゃあ、水晶もテーブルあるし占いますね!」

「うむ、そうしてくれたまえ」


 なんか違うが、とにかく占ってもらおう。

 四分の一の呪われた占い、正直時間はかかるだろう。


 --彼女の顔つきは大自然の中、真剣そのものだ。

 こんな場所でなければ、熟練の占い師に見えたかもしれない。

 だが草原の中、稜線をバックにしているとなんとも間が抜けている。

 しかし、それを指摘する余裕はないし失礼というものだろう。


「ふぅ、よし出た」


 最初の占い結果が出たらしい。ここは大人しく聞いてみよう。


「うんっ……あれ……」


 彼女の顔が険しくなる。


「悪役令嬢にざまぁ? ううん、ちょっと待ってこれ実現したら、誰が何をすればいいの?」


 君が俺に超ド級のざまぁを食らわせてくる感じになりそうだから、やめてくれ。


「聖女だけど中身は少年? 転生マイナスから始まる異世界奴隷戦線?」


 タイトル付け始めるのもやめよう。

 聖女なのか奴隷なのかも分からない。

 そんなの大人でも対処出来ようはずがない。


「これはアフリカっぽい……」


 国境というか海越えるのもやめて欲しいが、え、それでよくない?

 ーー飛ばない、ダメか。大使館に逃げ込めば野生の王国生き抜いて脱出、みたいな苦労はないんだが。ただどうやって、と経緯を説明するのが難点なだけだ。


「これは……これ見たことあるけど……」


 困惑を漂わせているが、今度はなんだ。


「戦争してるかも……」


 誰かウラジミョールを止めろ。正直近いんだ、そこで妥協したかった。


「あの、凄く疲れてるんですけど……」


 弱音を吐く姿を見て多少哀れに思ったが、今はそれどころではない。


「君がそれでいいなら休みなさい。ただ、もう十時過ぎてるからな」

「はい……学生は家にいる時間だよね」


 君は風呂入って寝る時間だ。中学生め、早寝早起きも学生の務めだぞ。


 ーーなかなかうまくいかない、腹も減ってきた。

 とはいえ中学生をこれ以上酷使していいものだろうか。いや、これは本人のためだ。というかさっきから、なんか野生の臭いがする。獣的なのに対抗する術はないし、どこに逃げればいいのかも分からん。


 恐怖と逡巡が交差する中、彼女が手を叩いた。


「これって、これ日本かも!」

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