タシケントの地下鉄にて(ウズベキスタン)

 タシケントの地下鉄は美しい。各駅ごとにテーマがありそれぞれ少しづつデザインが異なる。豪華だったりスタイリッシュだったり見ていて飽きない。駅自体はかなり地下深くにあり豪のように暗く重い雰囲気だからせめて装飾は気分が上がるようにということなのだろうか。それにしてもただ壁に絵を描くということではなく、立体的なタイルで宇宙を描いたりシャンデリアが飾ってあったりと豪華な雰囲気がある。

 地下鉄に乗るには少々気をつけなければならないことがある。切符を買ったら改札を入る前に金属探知機ゲートをくぐるか、係員の身体検査を受ける。荷物は開けて中を見せるか金属探知機に通す。今は良いそうだが駅構内の写真を撮るのは禁止。車内や駅には鉄道警察が常に居て見回っている。それも重々しい雰囲気に一役買っていそうだが、治安面での不安は減ると考えれば悪くないかもしれない。


 ある駅で電車を待っていた時のこと。ホーム真ん中にある石に腰掛ける私たちの前に女子大生くらいの若い女性がスマホ片手に電車を待っていた。ちらっと私たちの方を振り返ると何かをしたそうにそわそわとし始め、やたらと私の顔を見てくる。ウズベキスタンの方々と日本人はそう遠くない顔立ちではあるが、彼女の知り合いに似ていたりするのだろうか。なんとなく頭の隅で考えているうちに電車が到着した。時刻は夕方、大きな駅ということもありそこそこ混んでいる。彼女の後ろに立ち車内に入る順番待ちをしていたのだが、彼女がスッと身を引いて私を先に車内へ入れてくれた。そこでようやく理解したのだが、彼女は先ほどから旅行者である私たちを気にしていてくれたようだ。どうやら何かあったら助けようとこちらを見ていてくれていたらしい。言葉はわからないが彼女の気持ちに最大限応えるべく先に車内に乗り込んだ。

 車内は朝の山手線ほどではないけどそこそこ混んでいて、私は吊り革やバーのない車内の中心に立つことになった。背の高い相方は上にあるバーを掴むことができたので、私は彼の腕に掴まることにした。だが走り始めてすぐにもう片方の手を叩かれていることに気づいた。ぶつかっているのかなと思い手を引いたのだが、まるで呼ばれているようにぽんぽんと叩かれるではないか。何事かと思っていたら視線の先1−2人の人越しに先ほどの彼女が立ち私を見ていた。手を叩いているのは彼女で何かを訴えている…、状況が分からず戸惑っていたら、彼女が強引に私の手を取って手を繋いでくれたのだ。そして彼女はもう片方の手で自分はバーを掴んでいることをアピールしていた。何にも掴まらず立っているのは大変だろう、バーを掴んで安定している私に掴まりなさい、ということだったらしい。

 やや戸惑いながらも彼女の優しさに甘えることにした。彼女の手はとても柔らかくて温かく力強かった。車体が大きく揺れるたびに強く手を握って大丈夫だよというようにこちらを見て頷いてくれていた。次の駅に着き私たちは乗り換えのため降りたのだが、降り際に彼女が見せた笑顔が旅の疲れを吹っ飛ばした。

 こちらも大人だし、そこまでしなくても良いだろうと思う出来事かもしれない。だが彼女の助けたい何かをしてあげたい、という優しい気持ちが溢れるほどに伝わってきて、私にとってはタシケントの景色より地下鉄の豪華さよりも記憶に残る出来事になったのだった。

(2023年9月渡航)

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地球ぐるぐる世界旅行記 浅香ユミ @La-vida

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