サマルカンド・ブルー(ウズベキスタン)

 これこそが夏!と言わんばかりに照りつける太陽の日差し、濃い水色の雲ひとつない空。これまた濃く色づいた緑色の葉が作る木陰に身を隠すと、太陽に焦がされた肌を風がすうっと冷ましていく。ウズベキスタンの古都サマルカンドの街は湿度が低く、34度の気温でも汗はかかず朝晩は肌寒いくらいに感じる。なんて爽やかな夏。

 ずっと憧れていたサマルカンドの街へは、首都のタシケントから特急電車に乗り3時間かけて到着した。車窓は意外にも飽きずに眺めていられた。踏切を待つ人々、畑で作業をする子どもたち、草を喰む牛、背の低い木が整列しているのはオリーブ畑?あっちはトウモロコシ畑かな?そんなことを考えているうちに電車はサマルカンド駅の大きな駅舎の前に停車した。


 レギスタン広場は思っていたよりも広く、広場を囲むように建てられた3つの神学校は予想より大きく、建物の装飾はガイドブックで見たよりも繊細で複雑だった。要するに全てが私の想像を超えていた。ドーム状になったモスクの屋根は夏の青空に溶け込むような鮮やかな水色だ。その水色の下地に青と紺を基調にした複雑な模様が施されている。

 建物自体にも細かく装飾が成されているが複雑すぎて下品になるどころか、遠目から見ても統一感があり、まるで一枚の高級タペストリーを広げたように見える。それらがモザイクタイル一つ一つに丁寧に彫られ、高さ30m以上はある建物全体を覆っている。入り口のドーム状になった部分や、ややもすれば見落としてしまいそうな部分の隅々までが装飾で覆われている。途方に暮れる作業であることは容易に想像できる。それがゆえ、言葉を失う。


 個人的にはシャーヒ・ズィンダ廟群が素晴らしいと感じた。受付の先の階段を上がりゲートをくぐると、人がすれ違える程度の狭い通路の両側に廟が立ち並ぶ。一つ一つの廟はそれぞれ模様が微妙に違い、そのどれもが丁寧に模様を作り彩られている。廟に作られた影に涼しさを感じながら通路を歩くと突如視界が開ける。サッカーコート半分くらいの広場の周りに今度は背の低い廟が並び、中央にはかつて建物があったであろう土台の跡があちこちに残されている。さらに奥に進むと突き当たりには今までの廟よりも更に複雑で緻密な模様を施した建物が待ち構えていた。花の赤、幾何学的な模様を造る紺色のタイル、水色、青、白…使われている色はそこまで多くないはずだが、数歩引いて全体を眺めると何百もの色を使って描いた点画のような美しさだ。建物の中はひんやりとして薄暗く、外の明るさが嘘のように静かでこの空間と時間だけが別に切り取られたように感じる。一角には今も使用されている祈りの場があり数名の方が熱心にお祈りをしていた。

 廟群を出て街へ向かって歩く。熱と砂を含んだ風が吹く中、立ち寄った市場から廟群を振り返った。街の小高い場所に佇む建物の数々は茶色とベージュの街に広げられた鮮やかな絵画のように美しくそこにあった。そしてその周囲には市場があり人々が忙しく行き来している。時が止まった場所と流れている場所、不思議な感覚を感じながら廟群を後にした。

(2023年9月渡航)



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