イアの夕陽(ギリシャ・サントリーニ島)

 エーゲ海に浮かぶ楽園、サントリーニ島のイアの夕陽は本当に美しかった。

 サントリーニは複数の島々から成るキクラデス諸島の中の三日月形の島を指す。この諸島は紀元前16世紀に噴火した火山が形成したカルデラ地形で成り立っており、島と呼んでいる部分はその外輪山にあたるため地図で見るとなんとなく島々が円を描いているように見える。

 イアの街は三日月型のサントリーニ島の先端に位置しており、切り立った崖の上に建てられた建物はすべて真っ白に塗られている。街中へ入ると白いだけだと思っていた建物は一部が青や黄色で色づけられていた。この島のシンボルともいえる、白い建物に青いドーム屋根の建物はギリシャ正教会の聖堂だ。眼下に広がる紺碧の海、欧州のバカンスシーズンより少し前の5月の青い空、吹き抜ける風が風車を回して去っていく。まるで映画のセットの中にいるような気分だ。


 夕陽が落ちる頃合いになると、その素晴らしい景色を見ようと観光客が街のさらに端っこへ集まる。カルデラの外輪山という土地柄、広く開けた場所はなく、ごつごつとした崖に張り出すように作られた店のテラスや海岸へ降りる坂道に街中の観光客が集まり年越しのカウントダウンのごとく盛り上がった。

 誰かがヒューと指笛を鳴らす。まるでそれが合図かのようにみんなが水平線の方を向く。やがて大きな太陽が白い街をオレンジ色に染めながらゆっくりと水平線へ沈み始める。青いドーム屋根も風車の羽根もその時だけはオレンジ色のレースで覆われる。太陽の真ん中を雲を引いた飛行機が横切ると誰かがまた指笛を鳴らした。徐々に陽光がなくなり肌に当たる風が少し冷たく感じる。


 昼と夜の間のほんの数分、何とも言えない淡く儚げな時間だ。空の色はオレンジ色と紺色の濃淡が混ざったグラデーションとなりさらに刻々とその割合を変えていく。盛り上がっていた集団や指笛を吹いた人たちもしばし言葉を止める。そのほんの数分感を見逃さないために。

 

 国も文化も違う人間が同じ時間に同じ場所に集い、同じ景色を見て感動と思い出を共有する。だが彼らとはもう二度と会うことがない。この広い地球上で人生の点と点が交わる奇跡と言ったら大袈裟だろうか。それにそれを言ってしまえば旅先はそんな瞬間の連続なのだけれども、そんなふうに感傷的な気分に耽ることができるのもイアの白い街並みと美しい夕陽というドラマチックなシチュエーションのおかげなのだろうと思う。

 ちなみに我々はイアに滞在中、毎日夕陽を見に行ったのだがさすがに最終日はちょっと飽きてしまい感動というより何かをやり切った気持ちになってしまったので、感動を日本まで持ち帰りたいのなら連続で見るのは二日間までをお勧めする。

(2014年5月渡航)

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