第16話 レヴィン、仲間と共に戦う

 全員が依頼書を覗き込む。


『ケレナージュの討伐?』


 三人の声が重なった。


「ああ。見ての通りDランクの樹木の魔物、ケレナージュの討伐だ。ちなみにアシリアのロッドの素材だな」


 依頼書には精霊の森の東側でケレナージュが増殖していると書いてあった。討伐数は一体当たり銀貨二枚。魔核は別料金である。一般的には探求者ランクの一段階上程度までの魔物までならそれなりに戦いになるであろうと言われている。しかし、低ランクでも高ランクの依頼を受けることは可能らしい。ギルドとしては、例え死んでも自己責任と言うスタンスのようだ。無謀であると判断され、制止されることはほとんどないと言う。


「なぁ何故この依頼なんだ? 最初は初心者らしく小鬼の討伐とかがいいんじゃないか?」


 ダライアスが疑問を口にする。


「まぁ、ちょっと座ろうか」

 レヴィンは皆を待合所の椅子に誘導する。

 全員が座るのを待ってレヴィンは話の続きを始めた。


「まず、何故、小鬼の討伐にしないのかについてだが……俺が小鬼を殺したくないからだ」

「殺したくない? 奴らは人間を憎んでいるんじゃないのか? なら倒すしかないだろ?」


「小鬼は人間と同じ言語でコミュニケーションが取れる。そして俺は一部の小鬼と仲良くなってしまった。彼らが人間に仇成す者ばかりではないと判断したからだ」

「小鬼ってしゃべれるのッ!?」


 アシリアは驚愕の声を上げる。シーンも目を見開いていた。

 もちろんダライアスも知らなかったようだ。


「精霊の森に住む小鬼のみ……と言う可能性もあるが話せるのは間違いない」

「それじゃあ、豚人討伐では駄目なのか? 精霊の森にも豚人はいるんだろ?」


「まぁ、豚人なんかも人語を解するんだが、奴らは人間を見ると問答無用で襲ってくる。勝てんこともないが、俺たちは駆け出しだ」

「でもレヴィンは護衛任務で豚人と戦って倒したんでしょ?」


「そりゃあ俺の魔法にかかりゃ一発よ!ってそれは置いといて……《無職の団》には今、ダライアスしか前衛がいない。数で押し切られる可能性がある」

「豚人はDランクって他の依頼書に書いてあったよ。ケレナージュと同じじゃないの?」


 アシリアは思ったことをそのまま伝えてくれる。当然の疑問だとレヴィンも思う。


「単純な話だよ。ケレナージュは動けない。やばくなったら逃げられるってことだ」


 ケレナージュについては資料で確認済みだ。


「はえ~。そうなんだ~」

「理解した……」

「そう言うことなら問題ない」


 三者三様の言葉が返ってくる。


「他にも獣を少し狩ろうかと考えている。これはダライアスの親父さんの説得のためな」

「助かる」


 ダライアスは少し俯き加減になりながら感謝の言葉を述べた。レヴィンは気にしないように言うと、依頼書を受付に持って行く。受付嬢は慣れた手つきで手続きを終える。レヴィンは魔物との戦い方について話していなかったのを思いだし、再度三人に語りかける。


「基本戦略だけど、アシリアは付与魔法で味方の強化、ダライアスは前衛で攻撃、シーンはわずかな傷でも回復してやって欲しい。こまめに魔法や剣技を使えば、それだけ職業点が稼げるのでそれだけ職業レベルが上がりやすくなる」


 三人はレヴィンの言葉を緊張の面持ちで聞いている。特にダライアスは戦闘自体が初めてのはずなので、真剣さがひしひしと伝わってくる。更にレヴィンはパシリ神から聞いた裏技について教えていく。


「だからアシリアとシーンは毎日魔法を限界まで空撃ちしろ。ダライアスは職業点が溜まれば、新米剣技を覚えられると思うから、覚えたら技の発動が日課になるな」


 レヴィンはそう言い終わると、これは他言無用だと釘を刺した。

 学校では教わらない事実に、三人共にコクコクと頷いたのであった。


「明日は南の城門に九時に集合しよう。今日は思ったより時間喰っちゃったからな。ゆっくり休んで欲しい」


 そう言うと今日は解散ということになった。


 翌朝、レヴィンはアシリアを連れだって王都南の城門へと向かった。今日のレヴィンは暗黒導士ではない。職業変更が可能な職業の種類を増やしていくために、他の基本職業に職業変更済みである。異世界人なので、職業変更しても暗黒魔法は使えるため問題はない。到着すると、既にシーンとダライアスが待っていた。ダライアスと無口なシーンとの組み合わせにレヴィンは少し居たたまれない気分になる。二人は一応、小学生時代の同級生だが、友人の友人みたいなものなのだ。


「おはよ~。待たせちゃった?」

「いや、待ってない」

「んじゃ、出発するか」


 各自、朝の挨拶を済ませると早速、出発することとなった。目的地は王都南に広がる森林、精霊の森の東側だ。皆、意気高揚しているようだ。速く戦いたいのだろう。その意気込みが伝わったのか、天気も快晴で時々吹いてくる風が気持ち良い。地図に寄れば、ケレナージュが生息している場所まで一時間半といったところだ。正確な時間が分からないので、余裕ができたら機械式の腕時計を買うのも良いかも知れない。


「しかし、樹木の魔物に刃が通るのかな?」


 ダライアスがもっともな疑問を口にした。


「うーん。流石に分からんな。戦ったことないし。まぁ最悪燃やしてしまおう。できたら素材も確保する方向で」


 女子たちも後ろでペチャクチャしゃべっている。

 いや。しゃべっているのはほとんどがアシリアだ。


「ところで剣を持った感じはどうだった?」

「素振りしてみたけど、軽くていい感じだったよ。何でも斬り裂けそうな気がしたくらいだ」


 それは僥倖である。レヴィンとしても購入した甲斐があったと言うものだ。


「そう言えば、パーティメンバーはまだ増やす予定なのか?」

「そうだな。増やそうとは思っている。優先度が高いのは前衛だけどな」


「ふむ。前衛じゃないがノイマンなんてどうだ。優秀だし良いヤツだぜ?」

「ノイマン?」


「小学校の時の友達だよ。覚えてないか? 付与術士のヤツさ」

「ふーん。付与術士ってことは中学にいるのか? ちょっと調べてみるわ」


 そうこう話をしているうちに森の東側へとやってきた一行。


「ここら辺か? 姿絵は確認してきたから分かると思ったんだけど」


 もう少し森の縁に沿って歩いてみることにする。しばらく歩くと、それまでの森の木々とは少し異なる樹木が何本も立っているのが見て取れた。恐らくあれがケレナージュだと判断したレヴィンは自分の両頬を両手で叩く。ピシャッと言う音がした後、ヒリヒリとした痛みがやってくる。


 これは覚悟である。


 もちろん初任務の時にも覚悟はしていた。しかしあの時は初めての戦闘であり、殺されないために必死だっただけだ。レヴィンはこの異世界で最強を目指すと決めた。エゴを通すと決めた。そして強くなるためには、どんな魔物であろうとも殺す必要がある。レヴィンには呑気なスローライフなど送るつもりなど毛頭ないのだ。ここは人間と魔物が敵対している『異世界』。人間は魔物を見れば、そして魔物は人間を見れば、お互いに殺し合いを始めるのが『普通の世界』だ。精霊の森で出会った小鬼たちは滅多にない例外に過ぎないのである。レヴィンは今一度、この世界で強くなると言う意味を噛みしめ、覚悟を決めた。


「あれだ……。行くぞッ!」



火炎強矢フレイ・ロー



 レヴィンはそれを示すかのように先制攻撃の魔法を放った。

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