8話

その後も漆原さんからのアプローチが激しかったけどなんとか耐えて、やっと帰りのホームルームまでが終わった。


そんな漆原さんはどうしているかというと、私との別れを惜しんでいる。


だが、真白さんに図書室へ来てほしいと言われていることを伝えるとあっさり解放してくれた。


漆原さんが、次は真白さんの番だね、と言っていたことが気になったが、今はなにも聞かなかったことにし図書室へと向かう。


図書室に入ると受付の席に座っていた真白さんがこちらに気づきお辞儀をする。そんな真白さんにお辞儀を返し近くまで移動した。


「お、王子様…お忙しいのに来てもらっちゃって…お時間大丈夫でしたか…?」


「うん、生徒会の前に時間があったから大丈夫だよ。それでなにか私におすすめの本があるって言ってたよね?」


「あ、あの…これなんですけど…」


そう言い真白さんは一冊の本を差し出す。


それを受け取りタイトルを見ると、王子と夢見る少女と書いてある。どんな内容なんだろうと気になり真白さんに訪ねると教えてくれた。


「この本の物語は登場人物の優しくて素敵な王子様がいつか素敵なデートをしたいと夢見ている病弱な少女の願いを叶えてあげるお話なんです。デート中に転んでしまった少女に王子様が優しく右手を差し出して起こしてあげるシーンなどがあって…」


なるほど…それで交差点でのやりとりがそのシーンと似てたから私を王子様と呼んでたのね…。


「それで物語の中には他にもいろいろなシーンがあってそれが本当に素敵なんです…」


真白さんがすごく嬉しそうに話してくれて、そんな真白さんを見ていると私もこの本にすごく興味が湧いてきた。


素敵な本をおすすめしてくれてありがとうとお礼をすると真白さんがもじもじしながら身体ごとこちらを向く。


「そ、それでですね…先輩にお願いがあって…」


「うん?私に出来ることならなんでも言ってよ」


素敵な本をおすすめしてもらったことのお礼をしたいと思いそう言った。


なにか図書委員の仕事を手伝うとかかなと考えていたのだが…


「ほ、ほんとですか!?実は私この物語のシーンでお気に入りのところがあって体験してみたいなと思ってたんです!是非王子様にやっていただきたくて!」


真白さんのお願いは全く違う内容なのであった。


断ろうとしたが真白さんの、あまりにも嬉しそうな顔を見るとこれはもう断れそうにない…。


諦めてそのシーンのことを聞くことにした。


「あ、あのですね…落ち込んでる少女に王子が後ろからぎゅっと抱きしめてあげるシーンなんです。そのあと王子が優しく撫でてあげるところも本当に素敵で!」


「後ろから抱きしめる!?私が?真白さんのことを!?」


「は…はい…!」


「でも他の人に見られたら恥ずかしいよ…」


「だ、大丈夫です!今の時期は誰もいません!」


そう言われ周りを確認してみる。


たしかに誰もおらず図書室は静まり返っていた。


テスト期間中は勉強をする人達でいっぱいだったのだが今は期間外の為、人もあまり来ないのだろう。

かく言う私もテスト期間中にはよく利用させてもらっていたがそれ以外ではあまり利用したことがなかった。


「たしかに誰もいないね…」


「そうなんです…!だから見られることはありません…!なので王子様…!お願いします…!」


そんな真剣な表情で頼む真白さんに負け了承した。


「う、うん…それじゃあ上手くできるか、わからないけどやってみるよ」


「ほ、ほんとですか…!?よ、よろしくお願いします…!」


そう言うと真白さんが立ち上がり後ろを向く。


私も真白さんの後ろに立った。


普段真白さんに抱きつかれることはあったが、自分から抱きしめるのは初めてだったのですごく緊張していた。


自分の胸の鼓動が早くなっていくのがわかる。


真白さんも緊張しているようで身体が震えていた。


私も緊張で手が震えていたが覚悟を決め、真白さんの体を後ろから優しく抱きしめてあげる。


真白さん身体がビクッと反応する。


少し強すぎたかなと心配だったが、どうやら大丈夫なようだ。


真白さんの身体は見た目通りで、力を入れたら壊れてしまいそうなくらい華奢だった。


髪からは良い香りがする。


そんな真白さんを今後ろから抱きしめていると考えると鼓動がさらに早くなっていく。


緊張しているのがバレちゃうかな、そろそろ離した方がいいかなと考える。


だけどなんだか離すのが惜しいと感じる。


普段の私ならそんなこと絶対に思わないはずなのに今は違った。


しばらくそのまま抱いていた。


そして名残り惜しいけど離すことにし、優しく頭を撫でてあげる。


真白さんは顔が真っ赤になっているのを隠そうとしているのかうつむいていた。


そんな私も顔が真っ赤になっていた。


そうして気恥ずかしさからかお互い反対を向き無言のままでいたのだが、しばらく経った時に真白さんが口を開く。


「お、王子様…!本当にありがとうございました…!想像してた以上に素敵で…すごくドキドキしました…こんな体験が出来て私幸せです…!」


「そ、それならよかった…」


私もなんとか返事をし、真白さんの方を向く。


やはり真白さんも恥ずかしかったのか顔が真っ赤だった。


えへへ…照れちゃいますね…。でも、夢が一つ叶っちゃいました…と言う真白さん。


そんな真白さんは本当に嬉しそうな表情で可愛らしかった。


そして、また無言が続く。


そんな中ふと、壁に掛けられた時計を確認するともうすぐ生徒会の仕事が始まる時間だったので真白さんにそろそろ行くねと伝える。


真白さんが改めてお礼を言い、私も本のお礼を言うと生徒会室へと向かった。


道中先ほどのことを思い出す。


うぅ…恥ずかしかったぁ。


なんで私あんなにドキドキしたんだろ…。


それに離すのが惜しいとか思うなんて…。


朝日や漆原さんの時だってそうだ…。


変に意識して、動揺するようになって。


昨日告白されて以来、私おかしいよぉ。

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