第33話

「いや、それに関しては俺だけじゃなくカーラも同罪! 課外授業を命じたのは俺じゃない! ちょっ、引っ張る方向が交差して、首――締まって……っ」


 ここに来てから俺、女性に首絞められてばっかりだな!

 そんな性癖ないっての!

 でも、これに関しては俺は悪くない!

 マッチポンプというか、裏工作で成績上位者を潰したみたいになったけど俺のせいじゃない!


「――やった、最前線送り回避! 暁、君やるねっ! ボクは信じてたよ!」


 全く空気を読まない戦乙女が嬉しそうに叫ぶ。


「お前さ、空気読めよ! これ以上、2人を煽んな!」


 涙目の2人に襟首を絞められ揺すられ――意識が朦朧としてきた。

 ……これ、柔道の技じゃね? 頸動脈絞めて落とすやつ……。


「はいはい、そいつ消すなら試験前に消さなきゃ順位上がらないからね。ほら、行こうマリエ」

「ハンネ! 私ぃいいい……っ」

「悔しいのは解るけど、それなら次にやり返そう。自暴自棄になって人殺して退学になるとか、そんなの嫌でしょ?」

「う……」


 ハンネの言葉にたじろいだのか、ニーナまでもが冷静になり首から手を離してくれた。

 俺? もう、泡吹いて御仰向けに崩れ落ちましたよ。

 酸欠で死ぬかも……。


「――キュア!」

「……え?」


 急に息が出来るようになり、頭がスッと楽になった。

 見ればマリエに抱きつかれたハンネが回復魔法を掛けてくれたようだ。


「勘違いしないで。マリエが犯罪者になるなんて御免だからね」

「ハンネ……。俺、ツンデレとかマジで良さがわかんねぇと思ってたけど、ハンネならありだわ」

「そう。ウチ的にあんたは無しだから。じゃあね」


 俺は告ってもいないのにフラれた気分だ。

 でも、とにかくだ。

 俺は最前線送りを回避できた――。


「――いやぁ、不破暁くん。私は君の事を信じていたよ。さすがは救世主候補だ! この短期間で筆記試験で3位内に入るなんて! 聞けば魔術も戦闘訓練も――そして天啓レベルまで徐々に上がっているそうじゃないか!」

「はぁ……」

「これは、不破暁さんを信じた学園長の功績かと」

「いやいや、やはり不破暁くん自身の努力の賜物だろう。勿論、我々のサポートがあった事実も上には報告させてもらうがね」


 あるよね、こういうさ。

 期待してなくて罵ってた奴が結果残したときに『俺は信じてた』とか、『サポートしてた』とか言って功績を上に伝えるってさ。

 信じられるか?

 この間まで、俺とカーラはここで90度のお辞儀で謝罪させられてたんだぜ?


「俺がもし結果を出せずに最前線送りになってても、『我々は偽の救世主から学園を守りました』と言えそうですね」

「い、いやいや! そんな事はないよ!」


 誰が信じられるか。

 上の仕事は下の管理と責任を負うこと――なんかじゃない。

 下の功績を奪い、失敗した時に上手く損切りして自分の責が浅く済むように動く事だ。


「……汚い大人の社会ですね。大丈夫です、俺はその辺り体験済みなんで」

「そんな、不破暁さんの成功を我々は信じていましたとも!」


 遂に敬語になったか。

 敬語は敬意を隠すときだけではない。

 自分に卑しいところがある場合にも無意識に出る。――俺は身を以て知っている!

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