第32話

 そうして、テスト後の短い休みが明け――いよいよテスト結果が掲示板へと張り出される日となった。


「……全員の点数と順位が張り出されるのか。保護者からクレームがきそうだけどな」

「何言ってるの? この世界にそんなモンスターペアレントいないよ。本物のモンスターや魔神軍に滅ぼされそうな危機なんだよ? 競い合わせて実力を上げさせたり自分の実力を把握する方針に文句なんか、言う訳ないじゃないか」

「カーラは社内の成績を張り出されたら泣きそうだけどな――コラ、首をしめんな……ッ!」

「君ね、言って良いことと悪い事があるって何回も言ってるよね!? ノルマとか達成出来ないのを上司どころか後輩にも蔑まれる気持ちが分からないのかな!?」

「知らねぇよ! 俺はノルマや他者比較なんかじゃなく、いつも『上を見ろ』って一度も認められず常に怒鳴られてたんだ!――っつか、教師だろ? 俺の成績どうだったんだよ!?」


 俺の言葉に、カーラはピタッと動きを止め――俯きながらぽつりと呟いた。


「……知らない」

「は?」

「……ボク、採点とかに関わらせて貰えなかった。なんか不正しそうだからって」

「カーラ……ヴァルハラだけでなく、自分が管理代行する世界ですら信用を失うってお前……」

「知らないよ! ボクだって一生懸命なのに、みんな酷いんだよ! もう、こんな世界は滅びちゃえばいいんだ……」

「創業者――フレイア様に聞かれてないといいな」

「うう……」


 生徒で密集する掲示板の前には、俺だけでなく教師のカーラも並んで結果確認にきていた訳だ。本来なら、一番最初に結果を知っているはずの教師が知らないって……。

 その目は悲しみと同時に、『頼むから3位内にいて!』という必死さが窺える。

 まぁ、自分も最前線送りがかかっているからな。他人事じゃない訳だ。

 なんというか、スーツを着て両手で祈るカーラを連れている俺。

 試験結果が張り出される掲示板前に並びざわつく衆人。

 ――受験の合否発表に付き添う保護者と子供に見えるよな……。


「お、あそこなんか空いてる! 絶対、結果発表見やすいじゃん!」


 群がるように掲示板に張り出された結果を眺める生徒一団の中に、ちょっとした隙間がある。

 かなり掲示板に近いのにだ。

 俺はカーラの手を引いてその隙間に歩いて行くと――隙間が空いていた理由を察した。


「――ニーナ……」


 打ちひしがれたように体育座りするニーナがそこにはいた。

 成る程、ニーナから漂う臭いと悲壮感で――人が避けていた訳だ。

 まぁ、それだけなら今更驚かないんだが……。


「えっと……そちらの幼女は、ニーナの子供?」

「――うわあああああああッ! そんな訳ないでしょう、この子はマリエよ!」

「ぐえ……鼻がっ。どう、見ても小学校低学年ぐらい、なんですが……」

「うわぁあああああん!」


 また幻想魔法で身体を小さくしたのか、マリエが幼女化している。

 小学校中学年ぐらい……かな?

 驚いたのは2人とも体育座りで泣きだしていて、2人で一緒に悲壮感を漂わせていたことだ。


「マリエ……。ニーナの隣、大丈夫なのか?」

「私とニーナさんはお友達なんです! どんなに臭くても!」

「くさっ……マ、マリエ!?」

「――腐臭がしようとも、ニーナさんとは、暁さんという共通の敵を持つ仲間です!」

「――え?」


 幼女退行したマリエに責められる。

 何が何だか解らないが――ちょっと離れた所から気の毒そうな顔でこちらを窺っているハンネが目に入った。

 手で『あれを見ろ』とサインを出してきた。その先にあるのは――掲示板。

 そこには成績順位表と点数が張り出されている訳で――。


「嘘だろ……」


 俺は思わず、声に出してしまった。


「私の順位、高すぎ……。――ってか、俺がどうとかじゃねぇな。元主席と次席の順位、低すぎ……どうしたんだこれ?」

「全部、全部暁が悪いんだからね! 私は勉強に集中できないぐらい落ち込んでて……ッ」

「そうです、私なんか芸術の創作活動に必死で勉強が手につかなくて……っ! それなのに、なんで私が勉強を教えていたはずの暁さんがこんな順位になってるんですか!?」


 2人が泣きながら俺の服の襟首を掴んできた。

 なんと成績第3位は――俺だった。

 代わりに元主席と次席は――10位以下まで順位を下げていた。

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