第34話

「そんな疑いの目で見ないで下さい!――そうだ、私が不破さんを信じていた証拠をお見せしましょう。不破さんが見事にノルマを達成されたあかつきには、国宝級の贈り物をお渡ししようと思っていたのですよ。――あれをここに!」

「はい」


 秘書さんは白い手袋が指紋で汚れないように、片方を噛みながらキュッと着用した。

 汗をかく学園長の言葉に従い、秘書は学園長室にある大きな棚を開き、中の物を取り出すと――。


「――その立派な剣は?」


 そこには聖剣とかいう呼び名が付いていそうな、焔を模した立派な装飾に輝かしい光を放つ剣が1本あった。

 その剣を両手で学園長へと手渡し、秘書は一歩後ろへ下がった。

 ……結局学園長の指紋がべっちゃり付くのかよ。それなら手袋なんて要らなかったよ。


「これは、不破さんがこの世界に召喚された夜、学園長室に刺さっていた剣です。その切れ味足るや、天空から外壁を切り裂き、床に刺さっている程で……。正に、これこそ天が贈った救世主様への聖剣かと! 床に『救世主に渡してね』とメモ書きもありましたし」


 ならなんで今まで隠してたんだよ。

 そんなチート級の切れ味の剣があれば、ニーナもマリエも心に傷を負うこと無かっただろうに。


「……なあ、カーラ」

「言ったでしょう! 派剣エージェントの手厚いサポートを信じてって!」


 隣にいるカーラは鼻高々だ。

 間違いなく、ヴァルハラからの贈り物――転職祝い金みたいなもんだな。

 まあ、カーラはポンコツだが、ヴァルハラは天上の世界。

 その剣の性能は信じられるか。


「それでは、有り難く頂戴します。――……ちょっ、はな、離せって……ッ!」


 名残惜しいのか。学園長がニコニコしつつも、ギリギリと剣を握り離さない。


「――ォラァッ!」

「――ああ……っ」


 結経、力尽くで奪い取るような形になっってしまった。

 腰に煌びやかな剣を差して、これでやっと1人前の救世主、剣士っぽくなったな。


「――凄いいい感じだよ、ボク知ってるよ! これ、日本では『馬子にも衣装』って言うんだよね!」

「お前、それあんま褒め言葉じゃ無いからな! ちゃんとしたもん着ければ誰でもそれっぽく見えるって意味だからな! 使い方に気を付けろッ!」


 アニメや映画だけで日本語を覚えようとした奴の日本語知識は、たまに爆弾を投げてくるな。


「じゃあ使い方として合ってるじゃないか!」

「よし、カーラ。良い度胸だ、今からお前をシュールストレミングしかない倉庫に1ヶ月隔離してやる」


 掴み合いの喧嘩が始まった。――こいつだけは1度、心から反省させる必要がある!


「ま、まぁとにかく! これで最後の任務、パーティーでの冒険任務も楽勝でしょうな!」


 学園長の言葉で、すっかり忘れていた事を思い出した。


「あ……壊れたパーティーメンバーと、冒険依頼をこなさなきゃだったんだ……」


 言うタイミング悪いよ学園長。

 試験が終わってまだすぐだよ。

 試験結果出たらすぐに『次の試験に向けて勉強しろ』とか言うタイプの親だな。

 まぁ、社会に出たら1つ仕事が片付いても他に抱えてる仕事だらけだから感覚麻痺するけど、学生からするとしょんぼりするよな。


「君、忘れてたの? ボクがあんだけ言ってたし、優秀な主席と次席をメンバーに加えてこの時に備えてあげたってのにさぁ」


 ヤレヤレと手を振るカーラがスゲぇ鼻につく。

 『元』主席と『元』次席な。カーラの課した学園1年生には無茶な任務で、彼女達はもう……。


「――学園長、元主席と次席を壊した責任からカーラ教官には『冒険依頼任務』の監督責任があると思います。一緒に連れてっていいですか?」

「ちょ、暁!? 君は何を言って――」

「許可しましょう」

「学園長ぉおおお!?」


 学園長は即座に許可して深く頷いた。

 カーラは『危険な現場で仕事したくない!』とか、『外出て濡れる中で働くとか、何のためにOLになったと思ってるのぉ』、『エアコン効いた場所で珈琲片手に働きたかったのにぃ』等と訳の分からない事を言っていたが、全ての抗議は却下された。

 こうして冒険依頼任務には俺とニーナ、マリエ、ハンネのパーティーメンバー4人とカーラで行くことになった。

 出発まで、さほど時間的猶予はないそうだ――。


 ――というか、全く無かった。

 それもこれもカーラのせいだけどな!

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