14.初めてのプレゼント

 テッペイが仕事に行っている間、テッペイ宛に届いた荷物があった。

 帰ってきた時に荷物を渡すと、テッペイはめちゃくちゃ嬉しそうな顔をしてルリカに差し出してきた。


「ルリカ、これは俺からお前へのプレゼントだ!」

「え? プレゼント……?!」


 予想外の言葉に、ルリカの顔も思わず緩んでしまう。

 テッペイからプレゼントなど、ゲーム外では初めてのことだ。


「俺が、ルリカのために探しまくった一品だ。絶対に似合う自信がある!!」

「な、なに? 本当にもらっちゃっていいの??」

「いい! 遠慮なく着て見せてくれ!! 今すぐ!!」

「着るもの? 服?」

「渾身の水着だ!!」

「いらんわーーーー!!」


 渡された軽い段ボールを投げつける。テッペイは持ち前の反射神経でそれバシッとを受け取ると、頬を膨らませていた。


「んでだよ!! 着ろよ!! いくらしたと思ってんだ!!」

「まだ一月なのに、水着なんか着るバカがどこにいるってのよ!」

「温水プールに行こうっつったとき、お前持ってなかったじゃねーか! いるって、着ろって!」


 テッペイはバリッと音を立てて段ボールを開け放ち、中の水着を取り出している。

 ナイロンもひっぺがして見せられた、その水着の全貌は。


「か、かわいい……」

「だろ?!」


 ハイネックでハイウエストのAラインワンピース。夏らしい白と水色と大人っぽい薄紫のストライプに、差し色でピンクも入っている。

 水着っぽさはなく、ぱっと見は普通に町を歩けそうなデザインだ。今は冬だから無理だが。


「こういうのはぜってールリカに似合うんだって! 頼むから着てみてくれよ!」


 ルリカに似合って、ルリカが着られそうな水着を、テッペイは真剣に選んでくれたのだろう。ただのエロい水着だったなら、一も二もなく突き返していたところだが、これは受け取らないわけにいかない。


「じゃ……ちょっとだけ、着てみようかな……」

「よっしゃ!」


 喜ぶテッペイをさらに喜ばせたくて、ルリカはいそいそと自室に入って着替えを始めた。

 ワンピースの裾は膝上で太腿は隠れているため、まったくいやらしさは感じない。

 しかもハイウエストで脚が長く見えるし、ストライプだからスレンダーに見える。大人っぽい水着なのに、差し色にピンクがあるおかげで可愛らしさも垣間見える。


「自分で言うのもなんだけど……かわいいかも……っ」


 悔しいが、テッペイのセンスは認めなければいけないだろう。自分で水着を買ったら、全身真っ黒でウエットスーツ状態になっていたに違いない。


 テッペイ、なんて言うかな。

 緊張する。


 にやけそうになる顔を整えてから、ルリカはリビングへと向かった。

 そこにはなぜか、サーフパンツ一枚のテッペイが立っている。


「うわ、すっげーー似合ってんじゃん、ルリカ!」

「なんであんたも水着なのよー?!」

「一緒に風呂に入りてーから!」

「はあ??」

「いーじゃん、水着着てんだし。プールごっこしようぜ!」

「どんなごっこ、それ?!」

「ガキん時とか、兄弟としただろ」

「しないわ!!」

「じゃーやろうぜ!」


 テッペイに強引に手を引っ張られ、風呂場に連れていかれてしまった。

 一緒にお風呂はさすがにどうだろうかと思ったが、水着を脱ぐわけでもあるまいしと諦める。


「って、テッペイって、兄弟いるの?」

「おー。三つ上の兄貴がいるぜ。ルリカは?」

「私は、四つ下の弟がいるよ」

「すげー納得。お前の口うるささって、〝姉!〟って感じだよなぁ」

「あんたね、全国の姉属性キャラを全員敵に回したよ!」

「え? 俺、姉キャラ好きだぜ?」


 テッペイが言ったのは〝姉キャラ〟のことだというのに、ルリカ自身も好かれたような気になって、口ごもってしまった。

 お風呂の中に入ると、広めのお風呂なので意外に余裕はある。が、さすがに湯船に二人で入るのは勇気を要した。

 先に浸かったテッペイが、誘導するようにルリカを上に座らせてくる。テッペイと同じ方向を向いて、抱っこされている状態だ。


「せめて、向かい合って座らない?!」

「そうすっと、足曲げなきゃいけねーじゃん。俺、足長いから無理」

「あっそ……」


 ルリカの体の横側から出ている足を見てドキドキしながら、バレないようにと必死に平常心を装う。

 テッペイの手は自然とルリカのお腹に当てられていて、ルリカは一生懸命お腹をへこませた。


「やっぱ、この水着を選んだ俺、天才だな」

「うん、悔しいけど……めちゃくちゃかわいいし、気に入っちゃった」

「だろ?」

「うん、最初水着のプレゼントだって言われた時には、白のマイクロビキニでも着せられるのかと思ってたよ」

「ルリカ、エッチだなー! そんなの期待してたのかよ!」

「期待はしてないー!」


 顔を半分後ろに向けると、すごく近いところにテッペイのイケメンがあって、ドキドキが激しくなる。


「エッチなら、いつでもしてやるけど? 合意しろよー」


 お腹に置かれてあった手が、スルスルと上がってくる。お腹を触られるのも困るが、その上も別の意味で困る。


「ちょっと、待っ……」

「プレゼント受け取ったんだから、これくらいいいだろ」

「あんた、見返り求めてプレゼントしたの?」

「あったり前だ! プレゼントなんてのは、下心しかねーに決まってんだろーが!」

「普通、喜んでほしいって気持ちでプレゼントするもんでしょー?!」

「男は下心しかねーの、覚えとけ!」

「全国の純粋な男の人に謝りなさいよね?!」

「そんな男は世の中に存在しねぇ!!」

「するわ、バカ!」


 そんな言い合いをしながら、ルリカは逃げもできず、存分にマッサージをされてしまったのだった。

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