ハニートラップ


 Honey Trapの回です、こんにちは。

 ※息抜き回です。

 ※身バレ防止フェイク多々です。


 ハニートラップと言うと、みなさんは何を想像されますでしょうか。私の場合は、売れないグラビアアイドルがお笑い芸人とワンナイト→売名行為ですね! 普通にパッケージが優れているんだから、他に色々やりようがありそうなのになぁと勝手に思ってしまいます。


 さて、皆様お馴染み? 私の直属の上司ことパリピ課長四十歳。今までのエッセイで語りました通り、外資系企業のマネージャーで独身貴族、女性のお好みは『家庭的なナ〇オ』です。この人ほんとにパリピなんで、最近自分でクルーザー運転したいからって船舶免許取りました。どんだけだよ。

 

 某外車乗りで、しょっちゅうディーラーに出入り。時計はロレッ〇スから最近ブ〇ガリに変わりました。

「バブリーすね」

 てからかったら、

「違うんだよ、えーじゅん。商談で舐められないための投資だよ」

 って言われましたけど、多分違うと思う。まぁ、オーダーメイドのシャツに、イニシャル刺繍がさりげなく入ってるぐらいにはオシャレさんです。


 そんなパリピ課長ですが、恋愛に関してはとってもピュアです。ネゴはゴリ押しなのに、恋は臆病。

 資産家のおぼっちゃまなので、世間知らずというか、人の悪意に鈍感というか。良心の塊みたいな性格で、お財布目当ての女性の歯牙にかかりやすいのです。


「ねー、えーじゅん。俺は学んだよ」

「ん?」

「仲良くなるまで奢らない!」


 危うくデスクトップがコーヒーまみれに。

 マジで危なかった。


「かちょー、ここオフィスっす」

「あっ、しまった……あとでカフェテリアいこうね。コーヒー奢るから!」

「なるほど。私とは仲良いと」

「違うの!?」

「(ニヤリ)」


 天然課長、これでも仕事はバリバリのやり手です。

 EU圏の取引先と電話会議で毎日ゴリゴリやりあって、Fワードが飛び交っても冷静に終わらせて、デスクに戻って静かにラップトップを置いてから「〇ァーック!」と叫びます。ジェントル。


 まぁこうやってコーヒー奢るってことは、暗に俺の恋愛相談に乗ってくれ! の合図でもあります。

 カフェテリアで課長と私がお茶しているのは、もはや社内の風物詩。「えーじゅさん優しいよね、いつも面倒見てあげてるよね」「えーじゅさんてさぁ、パリピに『あれなんだっけ?』て聞かれただけで答えられるの、すごいね」「秘書?」てよく言われまして。


 例えばこんなやり取りがしょっちゅうです。

 

「えーじゅん、ちょっといい? あのさぁ……あれ? 俺今何言おうとしてたっけ?」

「例のクォータリーレビューの資料の場所すか。またブクマしてなかったんすね。チャットで送ります」

「ぶほ……エスパー?」


 だもんで、私の後ろに座っている他部署の女性が

「これ……あげるね……辞めないでね」

 っていつもそっとお菓子くれます。アザっす。


 そんなこんなでカフェテリアにて。

 

「で、何があったんです?」

「うん……えーじゅんさぁ、俺が去年ハニトラに遭ったの覚えてる?」

「はいはい。ヨガトレーナーの人ですよね? 散々気のあるフリをされて、ホイホイ可愛いネイル(シャネ〇)やら、香水(ディ〇ール)やら貢いでた」

「ふぐ」

「こんな状況だから、なかなか二人でご飯いけなくてごめんね、生徒さんに迷惑かけちゃうから。てへ。でしたっけ」

「ふぐぐぐ」

「レッスンなら会えるからっつって、ヨガの年間受講費振り込んで、レッスン数回受けて、キャンセル不可のタイミングで他人との婚約発表されたんでしたっけ」

「のおおおおお」

「それ以上のやつ?」

「やっべ、ちょっと待って。改めて聞いてもダメージすげぇ。深呼吸さして」


 ずずず、と紙カップのコーヒーをすするパリピ課長。

 意を決して語り出す。


「今通ってるジムでさ……」

「今度はジムすか」

「いい感じになった女性がさ……」

「トレーナー?」

「違うよ、俺はちゃんと学んでる。お客さん同士」

「ほほう」

「すんげぇスタイル良くて、でもずっとマスクしてて……普段は絶対取らないのに、俺の前でだけ取るの」

「……へえ」


 ――すごい演出力。スタイルと顔に絶対の自信があるんだろうな。

 課長いないところで同じ手口やってんだろーなー。


「勝気な美人って感じなんだよねー」

「またナナ〇すか。懲りないブレない。さすがっす! で、何買わされたんです?」

「いやその……その人さ、お客さんなのにすごい動ける人だなって感心してて、個人的に話すようになったんだけど……こないだなんか急にジム外に誘われて。話聞いてたら、パーソナルジム自分でやってるトレーナーだった……」

「わはー。サインしちゃったぽ?」

「違う! 体験レッスンに、行くだけ!」

「うっそーん」

「いやだって、俺さぁ、これでもノーと言えない日本人でさ」


 嘘つけ、人生の半分以上北米暮らしのくせに。

 

「とりあえず、行っちゃうんすね。ほんであれでしょ、水素水とかプロテインとか永久自動更新の契約させられるんでしょ。おつっす。さ、定時までお仕事頑張りましょー!」

「ノー! 聞いてよ!」

「聞いた聞いた。搾取お疲れっす」

「リアリー? ……やっぱそう?」

「……学べや!」

「しゅびばしぇん」


 体験レッスンがどうなったかは、また後で聞いておきますね。


「俺、今度から……恋に落ちる前にえーじゅんに相談するわ」

「ヤメテクダサイ。ご自分で目を養ってください」

「いやー、俺さぁ、困ってるとか助けてって上目遣いされるともう、ダメなんよね」


 それを聞いた私は、デスクに戻るとすかさず目薬を差して上目遣いで

「かちょー。この稟議、今すぐサインください〜」

 とやってみたが

「どれどれ? ……んー、この前提条件の表現と、来年の試算が甘いから却下」

 である。


「あっはーん。美人の上目遣い限定ってわけっすね。アィスィー……人事に訴えてやるっ!」

「なんで!?」


 ――気をつけて。美人の特別感演出と、上目遣い。


 きっとあなたの背後にも……ヒーッヒッヒッヒッヒッヒッ!



 あ、稟議はちゃんと再提出して承認されました。

 おしまい。

 

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