第05話 妹と魔法の勉強

 婚約者のことは後回しだ。


 5歳になって、ようやく魔法を使える。とても楽しみだ!

 ……決して現実逃避ではない!


「まずは魔法の基本から教えましょう」


 魔法を教えてくれる先生は、母エミリア。

 家庭教師を雇うものではないかと聞いてみたが、母さんはそこら辺の魔法使いよりも実力が上だから、自分で教えた方がいいと言った。


 結婚する前は冒険者をしていて、ランクはAランクらしい。

 ちなみに冒険者ランクの階級は、上からS、A、B、C、D、Eとなっている。つまり上から2番目のランクということだ。

 今でも冒険者ギルドに籍を置いているけど、置いているだけで依頼は受けていない。


「魔法には属性があります。火、水、土、風の四属性。これが基本属性と言われています」


 母さんは何故か眼鏡を掛けて、俺に指導する。口調がいつもと違うのは、教師役に成りきっているからか。


「ただ個人の資質により、使える魔法が人によって変わります」

「俺に火魔法の素質が無ければ、火魔法は使えないってこと?」

「そういうことになります。偉いですね、レックス君は」


 そう言って何故か撫でる。すると、


「あたしも~」


 俺の隣に座っている妹のシィルが、母さんに撫で撫でを催促する。


「シィルちゃんも静かに座っていて偉いですね」

「わ~い」


 母さんに撫でられたシィルは両手を上げて喜ぶ。俺もシィルの頭を撫でると、もっと喜ぶ。

 何だこの可愛い妹は。……俺の妹か。


 今俺たちが居るのは俺の部屋だ。

 俺たちの他に、俺の専属メイドのアリス。シィルの専属メイドのモニカとアーデルが居る。

 何故シィルの専属が2人もいるのかというと、むしろそれが普通で、俺は手がかからないということで、途中からアリス1人でという判断になった。


「……母さん、シィルに魔法を教えていいの?」


 俺が1歳の時は駄目って言っていたのに、1歳半のシィルはいいなんて。


「レックス君は賢かったからですから。下手に教えると、勝手に学んで大事故になる可能性がありました。その点シィルちゃんは普通の赤ちゃんですから、話を聞いたところで理解するのは難しいでしょう。だからそこら辺の心配はないです」


 ……転生者の弊害がこんなところで!


「それにシィルちゃんが今日はお兄ちゃんと一緒に居たいらしいですから、仕方ありません」

「ありません!」


 語尾だけ母さんの真似をするシィル、可愛すぎる。意味は分かってなさそうだけど。


「授業に戻ります。人が使える魔法は基本的に1属性だけです」

「1属性だけ」


 ということは、俺も4属性のどれかしか使えないのか。

 ……いや、待てよ。今母さんは基本的にと言っていたな。


「気付いたようですね。なかには2属性を使える人もいます。3属性、4属性を使えた人が過去にはいたという話ですが、事実かどうかは分かりません。少なくとも現在3属性以上を使える人がいるという話は、先生は聞いたことはありません」

「じゃあ現存確認されているのは、2属性までなんだ」

「そうなりますね。次に自分がどの属性を持っているのかの確認方法ですが、この水晶玉を使います」


 母さんが出した水晶玉は、綺麗な光沢を放っていた。


「これは特殊な材質で作られており、当てられた魔力の質によって色を変えるのです」

「……どういうこと?」

「レックス君が知っての通り、アリスの魔法は水属性。アリス、一先ず水晶玉に触って」

「畏まりました」


 後ろで控えていたアリスが前に出てきて、水晶玉に手を添える。


「今は何も起きません。しかし魔力を通すと」


 母さんの説明通りにアリスが魔力を外に出すと、水晶玉が青色に輝いた。


「「おおー」」


 俺とシィルはこの綺麗な光景に、揃って感嘆の声を上げると、アリスが照れた。頭部の猫耳がピコピコと動く。シィルは猫耳に興味津々だ。


「ご覧のように、水属性は青色に光ります。そして火は赤に、風は緑に、土は黄色になります」


 大変分かりやすい色分け。


「早速レックス君も、自分の資質を調べてみましょう」


 俺の魔法の資質を調べることになりました。

 ……実は転生特典で、全属性が使えるとかないかな。

 アリスと入れ替わり、緊張しながら水晶玉に手を置く。


「落ち着いて、ゆっくり魔力を放出してください」


 母さんの言う通り、ゆっくりと魔力を出していく。すると、


「ひかったー!」


 シィルの言う通り、水晶玉が光ったのだ。色は緑、つまり風だ。チートは無かったか。

 ……風魔法か。どんなことが出来るのだろう。


「風かぁ。どうしましょうか?」

「何か問題が?」

「私でも基礎は教えられるけど、魔法を教わるのは同じ属性の人に教えてもらった方がいいですから」

「私も無理ですね」


 アリスが目に見えて落ち込んでいる。ごめんね、水属性じゃなくて。


「やるー」


 声を上げたのは、我が家の可愛いお姫様。水晶玉に向かって手を伸ばしている。

 どうやら、俺が水晶玉を光らせたのを見て、自分もやりたくなったようだ。


「シィルちゃんにはまだ早いかなー」

「やるのー!」


 母さんが優しい声で止めても、シィルは止まらなかった。


「光らせるには魔力を放出しなきゃ駄目だけど、シィルちゃんはまだ出来ないでしょう?」

「できゆ! ほら!」

「……っ!?」


 母さんが驚いているけど、シィルは魔力を出しているのか?

 俺には何も感じられないけど。だけど母さんやメイド達の反応からするに、魔力を出しているようだ。


「まさか本当に……。モニカ、アーデル、貴女たちが教えたのかしら?」

「い、いえ。なにもお教えしてません」

「シィル様がこのようなことが出来ることに驚いています……」


 魔力を出すことって、そんなに驚くことなの?


「レックスは早熟だったにもかかわらず、体に負担にならないぐらいの魔力を他者から流し、言語で説明してようやく魔力を放てるようになったわよね」


 あ、母さんが先生演技していない。多分、驚き過ぎで忘れたんだな。

 それより魔力の事だ。確かに俺は母さんに教わりながら、自分の体内の眠る魔力に気付いたのには、特訓を始めて1カ月経った時だった。


「ま、まさかレックスだけではなく、シィルまで天才だったなんて……」


 感動しているところ悪いけど、俺は偽物で、シィルは多分本物。


「そ、それじゃあシィル。試しに光らせてみようか」

「あい!」

「奥様、よろしいのですか?」

「自分の属性を知っておくことは問題じゃないから。問題は魔法の使い方を教えることよ。それに今中止にすると、シィルが泣きだしちゃうわ」


 母さんは息子の俺だけではなく、娘のシィルにもかなり甘い。

 まぁ際限なく甘やかすわけではなく、厳しく教育もしているから、将来はしっかりとした美少女に成長すること間違いないだろう。……俺も兄馬鹿が過ぎるか?


「それじゃあ、シィル。今から抱き上げるわね」

「わぁい」


 まだ赤ん坊と言っても差し支えないシィルは、大人に抱えられるだけかなり視点が高くなり、それだけ新鮮な気持ちになるから凄く喜ぶ。


「ぺたん」


 母さんがシィルの手が水晶玉まで届く位置に持ち上げると、自分の口で擬音を発しながら水晶玉を触った。


「ひかれー」


 と言うと、実際に水晶玉が光った。お兄ちゃん、魔力を出せるようになるまで結構苦労したんだけど。


「色は白……」


 白? 説明された時には聞かなかった色なんだけど。


「奥様、まさか……」

「ええ、これは光属性ね」

「光属性?」

「そうよレックス。これはかなり特殊だから説明しなかったの」


 魔法には4属性以外にも属性があり、その属性は光と闇。

 その属性は滅多にいないので教えなかったというのだ。

 どれぐらい少ないのかと聞いたところ、50万人に1人ということだ。


 それってどれぐらい? ってさらに聞いてみたら、俺達が住んでいるシーニリスの人口が約40万人。カールスベルナ王国では5番目に大きな街らしい。

 そしてカールスベルナ王国全体の国民数は約500万人。つまり、現在国内に光魔法を使える人は多くて10人ぐらいか。


「確かカールスベルナ王国では光属性を使える人は6人だったかしら?」

「はい。ですが使えても誰にも話さない、という人も居ますから」

「聖国がうるさいからね」

「聖国?」


 名前からして宗教関連かな?


「そこら辺はいずれ勉強させるわ。それより今はシィルよ」


 なお、本題になっているシィル本人は、魔力を使って疲れたのか、母さんの腕の中ですやすやと眠っている。

 魔力を外に出すと疲れるんだよ。精神的にも肉体的にも。だから慣れていないとすぐに眠くなる。


「今日はお開きね。アルベールのところに向かうわ。モニカとアーデルは、シィルを部屋まで連れて行って。アリスはオイゲンに、レックスの教師に誰がいいかを相談」

「「「畏まりました」」」

「レックスは今日のところは我慢してね」

「……分かった」


 折角魔法が使えると思って楽しみにしていたのに、残念だ。

 まぁ今日は諦めよう。なんて言ったって、大事な妹の重要問題なのだから、多分。

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