エピローグ〜イメージトレーニングの成果【初夜編】〜


 私は今、とてつもなく、この上なく、今までの状況の中で一番緊張している。


 ピカピカに磨き上げられた白い肌。

 いつもよりも薄い夜着。

 ほのかに香る香水の香り。


 そう、これからが私たちにとっての初夜だ。


 この世界で伽教育はさせてもらえていないけれど、前世の小説で読んだからきっと……きっと大丈夫よ。

 いつものイメージトレーニングの成果を発揮させれば問題ないはず。

 がんばるのよ、メレディア。

 あなたには素晴らしい本の知識がたくさんあるじゃない。

 それに今までだって大抵のピンチはイメージトレーニングでくぐり抜けてきたわ。

 自信を持って。


 そう自分自身に言い聞かせる。


 コンコンコン──。

 やがて軽く扉を叩く音がして、それと同時に我が最愛の旦那様、ロイド様が部屋に入ってきた。


「待たせた」

「え、あ、いえ……」

 入ってきたロイド様を見て、さっきまでの意気込んでいた私は途端に小さくなって消えた。

 だって……だって……。


 色気ダダ漏れすぎなんですもの!!


 わずかに湿った髪に上気した頬。

 ガウンから覗く鎖骨。

 なんなのこの人!!


「……ふっ」

 私が混乱に混乱を重ねて両頬を両手で押さえ俯きアタフタしていると、頭上からロイド様の笑い声が降ってきた。

 思わず私が顔を上げると、ドアの前にあったはずのその端正なお顔は、いつの間にかすぐそこにきていた。


「どうした? 結婚当日の初夜の際にはやる気満々に見えたが? 結婚式でも無理矢理俺の唇を奪うし、初夜では自ら脱ごうとするし」

「わーわーわー!! 忘れてくださいっ!!」


 だってあの時は結婚式で音酔い起こして気持ち悪くて、早くあの場から去りたかったんだもの!!

 後から自分でも、花嫁が胸ぐら掴んでキスするなんてどうなのって思ったけど、やっちゃったもんは戻らないもの!!


 初夜だって、静かに暮らせれば初夜の一つや二つ耐えてみせる程度に思ってたから、あんなに無でいられたわけで……。


「……あの時と今では、感情が違います」

 少し不貞腐れたように口を尖らせれば、ロイド様は「ほう? どう違うんだ?」と意地の悪い表情をしてベッドに座った私の隣に腰を下ろした。

 顔!! 顔が近いっ!!


「っ……、あ、あの時は、旦那様が誰であれ、あの家から出て静かに生きられるなら、って……そんな思いでいたから、正直誰が相手でもどうでもよかった、です。でも今は……その……。ロイド様が好きすぎて、どうにかなりそう、で──ひゃぁっ!?」


 どさり──。


 言葉は最後まで放たれることなく、私はロイド様によってベッドへと縫い付けられるように押し倒されてしまった。


 見上げればどこか余裕のない、眉間に皺を寄せた強面公爵様の顔。

 なんて綺麗なんだろう。

 呆然とそんなことを思っていると、その端正な顔が私の顔へと降りてきて、頬に、瞼に、唇に、口づけの雨が降ってきた。


「ちょ、ろ、ロイド様!?」

 心の準備が……!!


「お前がそんな可愛いことを言うからだ。俺のファーストキスを無理矢理奪った責任、とってもらうぞ?」

「〜〜〜〜〜っ」

 ファーストキスとか……知らんがな──!!


 こうして私は、やまない雨を受け止めながら、ロイド様の温もりに身を任せるのだった。


 あまりにもロイド様が素敵すぎてイメージトレーニングの成果が発揮されなかったのは、言うまでもない。



END



─後書き─

皆様最後まで応援いただきありがとうございました!!

嫌音令嬢、これにて完結でございます!!

楽しんでいただけましたでしょうか?


面白かったよーと言っていただける方は、☆にて評価応援していただけると嬉しいです(*´ω`*)


現在、2作品書籍化進行、うち1作品はコミカライズも進行とバタバタしておりますが、人魚無双もできる時に更新していきたいと思いますので、応援いただけると嬉しいです。


皆様本当に、ありがとうございました!!


景華



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音が嫌いな令嬢はただ静かに暮らしたい〜追い出されるように嫁いだ先で人嫌いな冷酷強面公爵様に無意識に溺愛されました〜 景華 @kagehana126

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