エレノア襲来
アルトのあの不穏な発言後も、特に問題は無く日々は過ぎていった。
あの日拾った少年は『カイ』と名付け、私とレイ、そしてマゼラ達使用人で、動作を交えながら少しずつ言葉と文字を教えていっている。
身体にいくつもあった打撲痕も少しずつ薄れ、よく食べ、よく笑うようになったカイは、レイとともに毎朝菜園場や花々の水やりをしてくれて、2人してベルゼ公爵家の愛されマスコットキャラになっている。
私もレイ達と一緒に菜園場で庭師のラグーンとトルテを手伝ったり、料理長のゼウスと一緒に採れたものを加工する作業をしながら、穏やかな日々が過ぎていった。
そして秋も終わりに近づいたある日のこと──。
「お、奥様っ……。お客様が……」
私がレイとカイ、それにラグーンとトルテと共に家庭菜園場の手入れをしていると、息を切らしながら、いつも落ち着きのあるローグが菜園場へと駆け込んできた。
「お客様? 私に?」
「は、はい」
誰かしら?
旦那様は視察に出てらっしゃるし、私が対応しなければ。
いくら陰キャとして引きこもりながら生きてきた私でも、嫁いで来たからにはきちんと公爵夫人として対応しないといけないことぐらいはわかる。
私は持っていた
「誰なの? お客様って」
「それが……。──エレノア・フレッツェル伯爵令嬢でございます」
「!!」
エレノア・フレッツェル。
私の──今世で血が繋がった三つ下の妹だ。
一体なんであの子が……?
「あの子1人で?」
「はい。従者1人を連れておいでですが……」
あの甘ったれな妹が父母を置いて従者のみを連れて1人で、こんな辺境の地へ?
一体何の用なのかしら?
嫌な予感しかしない。
だけど旦那様不在の今、私が出ないわけにもいかないのよね。
「わかったわ。着替えてすぐ向かうから、応接室へ通しておいて」
「かしこまりました」
──私はすぐに部屋に戻ると、畑仕事で顔や身体についた泥を落とし、ドレスを着て身なりを整えた。
私のことなんて使用人いかにしか思っていないエレノアの前だ。着飾る必要はない。
私は最低限お客様に失礼のない程度に支度を整えると、応接室の扉の前に立ち、一度だけ深呼吸をして呼吸を整えてから、私は覚悟を決めて扉を開けた。
「いらっしゃい、エレノア」
「お姉様!! お久しぶりね。思ったより元気そうだわ」
可愛らしい笑みを浮かべながら、大きな青色の瞳が私に向けられた。
元気そうで安心したのか、それとも──。
私の張り詰めた緊張感など気にもせず、エレノアは無邪気な笑みを携えて言った。
「ねぇお姉様。結婚生活はどう? 初めて会った人と結婚するのはどんな気持ち? 緊張した? 怖かった? だけどロイド様ってとっても素敵な方だったわね!! 良いなぁー!!」
あぁ……これは……。
「ねぇお姉様。エレノアにロイド様──、ちょーだい?」
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