隠し子疑惑
「──で、だ……」
2人きりになった部屋でジロリと翡翠色の双眸が私を見下ろす。
「は、はい?」
「さっきのはなんだ? なぜ紙無しでレイと意思疎通することができる? と言うより、なぜレイとそんなに親しくしている? あれは警戒心の強い子どもだ。こんな短期間であそこまで警戒心なく接せられることはない」
「ぐっ……えっと……その……」
矢継ぎ早に飛んでくる鋭い質問に言葉を詰まらせる私。
ソファで隣り合って、私の方へと詰め寄る旦那様の端正な顔が妙に近く感じて、私は喉をごくりと鳴らした。
そして腹を括ると、旦那様を真っ直ぐに見上げ、
「え、えっと……。す……すみませんっ!!」と頭を下げた。
「あの……えっと……実は旦那様のお留守に偶然レイと出会いまして、そこで色々あって仲良く……。さっき私たちがしていたのは手話と言って、手の動きで会話をするものなんですが、それをレイに教えていたんです。紙も無限ではありませんし、他のコミュニケーションもしておいた方がいいかと思いまして……。その……。旦那様の大事な御子息に勝手なことをしてしまって、申し訳ありませんでした!!」
私が口早にそう話して謝罪すると、頭上から「は──?」となんとも間抜けな声が落ちてきた。
「ちょっと待て。手話だのコミュニケーションだのはまぁひとまず置いておいて、なんだその御子息って!!」
怪訝そうにしながら尋ねる旦那様に、私は「旦那様の御子息でしょう?」と当然のように言葉を返した。
「は!?」
「大丈夫です!! きっと真実の愛には障害があって、カモフラージュのために私がいるのですよね? 私のことはお気になさらないでください。私、旦那様を応援します!! 愛人様と御子息のレイとのことは決して邪魔は致しません!! なんなら私が離れで生活してもいいです。表向きの場だけ私が出れば問題ないですし、だから旦那様!! 安心して愛人様やレイを大切にしてあげてください!!」
どや。
言い切ったぞ。
とチラリとドヤ顔で旦那様を見上げると、目を丸くして衝撃を受けたような表情でこちらを見下ろす旦那様と視線が重なった。
え、何?
この反応は。
ちょっと予想していたものと違う。
「お前は──」
「はい?」
ようやく旦那様の口から絞り出すようにして出てきた言葉に首を傾げる。
「お前は──何を言っている?」
「へ?」
何を言っている?
それはこっちのセリフだけれど。
そう思いながらも、私は再び自分の方針を口にする。
「えっと、だから、愛人様との間を邪魔する気は──」
「だから、愛人とはなんのことだ?」
「へ?」
再び間抜けな声が私の口から飛び出して、旦那様は難しい表情のまま言葉を続けた。
「俺に愛人などと言う馬鹿げたものはない」
「なんですと!?」
思わず私の口から貴族らしからぬ声が漏れ出てしまったけど仕方がない。
それほど驚いたんだもの。
旦那様に愛人様はいない?
理解が全く追いつかない。
じゃぁレイは?
なんでここに住んで──……。
その答えはすぐに旦那様の口から伝えられた。
「レイは──あれは、マゼラの子だ」
「マゼラの子ぉぉぉお!?」
はっ……!!
確かにマゼラはレイのことをとても心配していたし、気にかけていた。
じゃぁレイは、旦那様とマゼラの──……!?
「おい待て。もうお前が何も言わずともわかるぞ。違うからな!? そもそも俺の子じゃないからな!?」
「え、違うんですか?」
私が驚きの声を上げると、苦々しげに眉を顰めてから「ぐっ……」と言葉を詰まらせた。
「はぁ……。まぁ、お前はここの嫁になったんだ。話しておくべきか……。レイは、マゼラと、ここの使用人
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