パラボラ

みよしじゅんいち

パラボラ

 暴力団員宮城仁が天に召されたのは、足を踏み外して井上家の屋根から転落したためだった。なぜ彼が屋根に上ったのかというと、彼が彼の店ドルハーブで保管していた極上の非合法薬物を、アロマキャンドルと間違えて井上家の一人娘に売ってしまったからであり、兄貴の命令でそれを取り返さなければならなくなったからであった。

 井上家の一人娘、井上美沙が昇天したのは、その非合法薬物をアロマキャンドルと勘違いしたまま使用してしまい、意図せざるオーバードーズが発生したためであった。

 井上家の衛星アンテナは先日の台風で壊れており、パラボラが下を向いていた。不幸にも同時に昇天したふたつの平行な魂は、不思議なことにその放物面で反射され、焦点で交わった後、いい角度でふたつの肉体に舞い戻っていった。

 気が付いた宮城は自分が女子高生になっていることに気付かず非合法薬物を持ち帰り、兄貴に報告に行った。折り悪く兄貴はヤクの密売の最中であり、突如現場に現れた女子高生を口封じのために銃殺した。

 気が付いた井上美沙は暴力団員の姿になっていることに気付かず頭から血を流して玄関をノックしたが、用心深い父親によって金属バットで撲殺されてしまった。平行線が交わるとろくなことにならない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

パラボラ みよしじゅんいち @nosiika

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る