第13話「パーティを組もう」

 結局、俺がアルテタの街に来てから1か月が経った。


 すっかりとこの街の空気が肌に合うようになり、ギルドでも白翼ながらよくクエストを受けに来る冒険者という立ち位置になっていた。


 ただ、そんな風に聞くと順調にいっているように見える冒険者生活に聞こえてくるが生憎と順調ではない。


 なぜなら俺は今、差別を受けている。

 差別、と言ったら少し語弊があるかもしれないが似たようなものだと思う。


 きっかけはあのシュナイダー家に使える家臣の雇う冒険者”ゲスチル”だ。名前からして品性のかけらもないゲスのような響きで、本当の性格ももちろん最悪だ。


 あのゴブリン28体殺しの件でやたらと俺に暴言や陰口や陰湿な嫌がらせを図ってくるのだ。


 挙句、あまり新人がいい顔をすることを許さない古参の冒険者を仲間に引き入れそれを加速させ、何も思っていない好意的な冒険者までも意見を言いにくい場所にギルドを変貌させてしまったのだ。


 もちろん、冒険者ギルドは独立機関。

 受付嬢のお姉さんが特段そういうことをしてくるというわけではないが、やはり冒険者一個人となると難しいらしく従わざる負えないらしい。


 何よりもゲスチルが「我がご主人様に言ってやる」と小学生ムーブをかます始末。


 おかげで、白翼から銅翼ブロンズウインドへのクラスアップ要件である『パーティを一度組むこと』というものを達成できないのだ。


 俺の活躍を見るやいなや声をかけてきた駆け出し冒険者パーティも大きな力に屈してしまったわけで、俺は今でもこうして一人でゴブリン狩りをやっていたわけだ。


 まぁ、ゴブリン狩りも悪くはない。


 毎日アベレージで30体以上、いや最近は慣れてきてざっと50体は討伐しているかもしれない。


 そんなに殺していなくならないのかと心配だったがこの世界の魔物は俺のいた世界の動物の後輩とは原理が違うらしく、魔力で出現されるため無限にわき続けるとのことらしい。


 とにかく、そんなゴブリンたちを実験台に俺のスキルは十二分に躍動してくれた。


 化学反応やその他機械の開発だ。


 今までずっと火炎放射を使ってゴブリンを燃やして討伐してきたが、さすがの俺も数日が経つとその攻撃に飽きてきた。粘度を上げるという意味でならずっと使い続けるのも悪くはないが別に俺はそれだけを使いたかったわけではない。


 それに、ゴブリンが訳も分からず束になって俺に向かって走ってくれるというまさに絶好な機会を逃すわけにもいかなかった。


 そこで力を入れてみたのは爆発系だ。

 最初、魔物の森で一人いたときに扱った水素結合による爆発反応をより完璧にものにすることから着手した。


 水素結合による爆発は以前も説明したように、水素と酸素の結合によるものだ。室温で混ぜ合わせただけじゃ爆発はしないため、考えられる方法は二つ。


 火炎放射の時のようにガスを使って点火させて結合させるか、水素と酸素がある場所を570度以上に熱して自然発火させるか。


 水素ガス自体はジルコニウム合金と呼ばれる金属を熱して高温にさせることで生み出せるし、570度以上にするのもより高温な炎を生み出せば作れるが個人的に楽そうなのは後者。


 高温を生み出すといえばあの反応だ。

 リキットテルミット反応だ。


 簡単に言えばテルミット反応で、よくあるゲームでもグレネードで使われているあれだ。


 原理はいたって単純。アルミの粉末と鉄の粉末を混ぜて、それを引火させるだけ。

 それによって燃え上がり、結合した時に発するエネルギーが膨大で温度は4000℃に達する。


 片手で生み出した水素と酸素に、それに対して同じように生み出したテルミット反応をぶつければあら不思議。


 大爆発ってわけだ。


 まぁ、ご想像の通り、今の出自爆しかけたわけだが。俺の捨て身の大爆発でゴブリン10体以上巻き込むことに成功し、それからの1週間で完璧に制御できるまでになった。


 ていうわけだ。


 溶接や爆発ができるようになり、幅が広がったわけだがそれも相手がゴブリンじゃどうすることもできないわけで――俺は途方に暮れた挙句、1か月ぶりにエーリカさんに会いに行ったのだった。


 仲間外れにされるのもさすがに耐えられるものではないな。







・エルフの館


 あの日、言われた宿屋であるエルフの館に向かった。

 外観はいかにも普通な宿屋で俺が止まっている格安宿屋よりも多少いい感じだった。


 宿屋前に来てから今更ではあったが女子の家(?)に行くのが初めてなんじゃないかということを思い出してしまったせいで、心臓がバクバクだった。


 しかし、そんなところ。

 俺の肩に何かが触れた。


 とんとんとノックをされたみたいで振り返るとそこには食料が入った紙袋を抱いているエーリカさんだった。


「レオンさん、こんなところでどうかしましたか?」


「あ、え、エーリカさん!」


 急な登場にびっくりしたが、単刀直入。

 この街で俺の見方をしてくれそうなのは彼女しかいない。


 すがる気持ちでいつの間にか俺はその小さな肩を両手でつかんでいた。

 目を見つめ、訴えるように動く口。


「—―ぼ、僕とパーティを組んでくれませんか!」


「え?」


 目を見開き、綺麗でかわいい顔がパッと晴れたように動く。

 すると、すぐに気が付いたのかエーリカさんは目を逸らし、一瞬だけ考えてぼそっと呟いた。


「—―こ、こっちに来てください」


 そうして、つかまれる手首。

 引っ張られるようにして彼女の泊まる部屋に入れられた俺はこの日、彼女の正体を知ることになるのだった。

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『科学』は「魔法」を凌駕する~魔法至上主義な異世界で無能貴族に転生して領地を追放されたので、俺だけが持つ固有スキル【サイエンス】を駆使して冒険者で無双することに決めました!~ 藍坂イツキ @fanao44131406

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