第12話「俺のゆく手を阻むもの」
「え、ゴブリンを28体倒したんですか⁉」
その日、久々に嘔吐と言う生理的な現象を体感した俺はすぐに冒険者ギルドへ向かった。すぐ――というのは、あの後村の村長さんから一夜泊まらないかと誘われたからだ。
もちろん、宿代は無料、1DKの豪華部屋に運が良かったら村の娘が夜這いまでしてくれるぞ? なんて言われてちょっと期待した俺がいるのは否めないが、ご飯を出すとまで言われて俺はすぐにいちゃいけないと察したわけだ。
いやはや、無料ならいいだろ――って思痛いどころだが、生憎ゴブリンみたいな人型の魔物を食べるだなんてことは俺には出来ない。
別に可哀想とかじゃなくて生理的に無理なんだ。人喰ってるようなもんだからな、俺はグールでもあるまいし。
というわけで冒険者ギルドに向かってゴブリン討伐の報酬を受け取るために受付で確認してもらっていたのだが……なぜか、受付嬢のお姉さんが飛び出るが如く動揺した瞳を俺に向けてきた。
受付用のテーブルから身を乗り出し、俺の肩をブルブルと震わせるが如くの勢いでさすがの俺も動揺した。
「えっ、あ、あの……そんな驚いてどうしたんですか?」
「驚いてどうしたんですかって……そんなの驚くに決まってるじゃないですか!!!!!」
「え、えぇ……?」
正直に言おう。意味が分からなかったと。
というかもはや怖かった。彼女の勢いに飲まれて何が何だか分からない。どうすればいいのかすら分からないから周りを見ると、余計に状況がねじ曲がった。
なぜなら、そんな彼女の言葉に呼応するように周りの冒険者も目が点になっていたのだ。
驚くよりも驚いていた。驚愕って言った感じの顏でむしろ俺にその顔をさせてほしい。
すると、受付嬢のお姉さんがギギギっと近づいてきて、俺を見つめる。
「こんなにたくさん、倒せませんよ!」
「え?」
「だから、白翼の冒険者がゴブリンを28体も倒しただなんて話を聞いたことありませんし、それに普通はできないですよってことです!! おかしいです!」
「え、えぇ……?」
超がつくほどの驚きようで、それに対するみんなの反応を見てもその凄さ、その破壊力は凄まじいものだと言うことを感じとれてしまった。
ただ、俺からしてみればやはり意味が分からなかった。
白翼クラスの冒険者はゴブリンすらも遊に倒せないのかと。
対峙してみて、ゴブリン自体さほど強くはなかった。
白狼と比べてみればその差は歴然。
俺をみるなり何も考えずに突っ込んでくる始末なんだからな。
どう考えたって勝てる弱い相手だった。
それこそ白翼クラス、ビギナーにはもってこいの敵、討伐目標だったのだ。
まさに雑魚。
下手したら魔法が使えなくても剣術だけで倒せそうまであった。
しかし、受付嬢のお姉さんの反応や周りの冒険者の反応は俺の予想とは全く違っていた。
「で、でも別に倒せましたし……」
「魔法が扱えるのならわかります! 魔法適正が3以上の才ある人ならよく分かりますっ」
俺の言葉を遮るように語りかける彼女。
昨日までのおとなしく美しいお姉さんはどこに行ってしまったのか。と思えてしまうほどに常軌を逸したように驚いていた。
「た、ただ――レオンさんは魔法適性がないんですよ⁉」
「え、まぁ」
突如、周りの声がさらに増した。
俺がどういうものなのかを噂で知っていた者以外の人たちはそれを聞いて心底驚いていた。
ゴブリンを倒しまくった――そのことでも確かに凄い、ただ、倒したやつがただの白翼クラスではなく、魔法が使えない、この世界ではいわば無能の白翼クラスの冒険者だからおかしかったのだ。
「ゴブリンは強いですよ。戦闘経験のないような人にはそう簡単に狩れる魔物じゃありません。もちろん、始まりの森の魔物は他の場所の魔物よりも弱いです。この街が冒険者の始まりの街――なんて言われる所以でもあります! ですが、それでもです。ゴブリンを舐めてかかると男は拷問され玩具にされ、女子供は孕ませられて使い古した後に食べられるんですよ⁉」
「……えっ」
「だから、そんな悪名だかきゴブリンを簡単に数十匹単位で倒せるなんて――おかしいですよっ」
急な激白に胸が痛くなる。
て言うか、そんなゴブリン食うのかよあの村の連中は!
倫理観がぐちゃぐちゃだよ……。
すると、そこまで言ってお姉さんは一度冷静になって溜息を吐いた。
呼吸を整えて、俺の依頼書にハンコを押して、くるりと振り返ってこう言った。
「あ、あの、これはギルド長へ一応報告しておきます!!」
そして、裏にいなくなり、俺の手元にはクエスト依頼達成で稼いだ銅貨1枚が28体分と装飾品の回収で得た銀貨2枚が残る。
総額銀貨4枚と銅貨8枚。
白翼クラスで稼げる平均値、銅貨4枚を悠々と超える5倍の金額となり、俺の初仕事があまりにもうまく言った形で終わったのだった。
——しかし、その後。
俺はまったくと言ってもいいほどにこの冒険者ギルドで浮いた存在になってしまった。
魔法が使えないのに強い冒険者、その恐れが全てを遠ざけてしまっていた。
差別は少ないとは言ったがそれはまだ発展途上。
あるかないかで言えば、ないわけではない。
むしろ、血の気の多い冒険者ではそれが如実だった。気にする者気にしない者、賛同する者、賛同しない者。
俺の場合は魔法と言うこともあって明らかだった。
そして、挙げ句の果てに「不正」を揶揄されるようになった。
始まりは一人の男。
俺の活躍を最も嫌がるゲスチルと言われる鉄翼の冒険者からだった。
「——貴様、不正なんじゃないのか?」
鋭い瞳でそう言う彼に俺は言い返した。
「してないですよ、そんなこと」
「いやおかしい、初心がそんなことできるわけが無い! なぁ、みんな、こいつ不正だよなぁ!?」
「いやっ」
「あははは!!!! 俺は見たんだよ、こいつがエーリカって言う気味の悪いソロの女とはなしてるところをなぁ!」
なぜ、エーリカさんが?
そんな疑問も打ち砕かれた。
色々と茶々を入れられ、不正と疑われて、その後稼ぐお金も汚いかねと揶揄される。
なぜ、根拠のないことを信じるのか。
それは、ゲスチルがシュナイダー家の家臣の貴族の雇った冒険者だったから。
最初は根拠がないよと言う冒険者も次第に権力には勝てなくなり、口をすぼめた。
俺が出世するのが許せないらしく、それに賛同するしかなくなった冒険者たちは俺を罵るようになった。
クラスアップができるようになっても、パーティを組まないとできないと言われ、そんな不正の男とは組めないとどこも一蹴。
結局、途方に暮れてしまった。
「レオン……」
しかし、そこに現れたのはあの日俺が助けた少女、エーリカだった。
<あとがき>
色々あって遅れました!
すみません!
それと、F級スキル3000人突破ありがとうございます!
初めての3000人なので最高にうれしいです! この作品も1章完結まで頑張ります!
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