屋根裏部屋

「な…なんだこりゃ」

学の前に姿を現したのは、丸い胴体にギョロリとした二つの青い眼があり、頭部?に一本の角を生やした、2本の短い触手を持つ、冗談のような姿をした、一頭身の見たことも無い生物だった。鼻や口や耳のような器官は見当たらなかった。

そいつは触手をうねらせながら、学をじっと凝視した。

へ…変異者なのか?それにしてはやけに小さいな。いや、そういえば稀に人間以外の生物にも、ある一定の年齢を超えると変異するヤツがいると聞いた事がある。もしかしたらそれかもしれない。自分に危害を加える気は無いようだ。元々、なんの生き物だったのかは想像もつかないが…。

その時、彼の背後で話し声が聞こえた。振り向くと、遠くから数人の若者が談笑しながら近づいてくるのが見えた。

恐らくこのままだとコイツは彼等に見つかるだろう。そしたら忽ちのうちに彼等に通報されて、コイツは害獣として駆除されるだろう。もしくはあの集団に遊び半分でなぶり殺しにでもされるかだ。

怪生物はまだ学を見つめている。

「…そ、そんな眼で見ないでください」

学は一人でその場から走り去ろうとした。

しかし、すぐに考えを改めた。

何を血迷ったのか、彼は怪生物を抱えて自宅へと走り出した。何が彼をそうさせたのか、彼自身にも分からなかった。ただ、頭の中には先程の、白髪の少年の姿があった。

「はぁ…何やってんだろ僕」




その日の夜、学は自宅の物置同然になっている屋根裏部屋にいた。目の前には冷蔵庫からかっ払って来たいくつかの食品と、あの怪生物の姿があった。結局、彼は誰にも発見されることなく、家に辿り着けたのだった。

「う~ん、食べないかぁ…。というかまず口はあるのかな?しっかしこんなとこ母さんに見つかったら絶対殺されるな…」

怪生物は能天気に触手を揺らしている。

「そういえば…君に名前をつけないといけませんね」

学は夢遊病者のように部屋を行ったり来たりしながら、ああでもないこうでもないと頭を悩ませた。

「…そうだ、僕の好きな人の名前からとってマユってのはどうですか?」

怪生物は不服そうに、どこかにある口から低い唸り声のようなものを上げた。

「……声、怖っ」



辺りが静まり返った頃、学の家の近くの路上で、一匹のぶち模様をした野良猫が地べたに座り込んでいた。すると、猫は視界の隅にもぞもぞと動く物体を発見した。猫がそちらに視線をやると、闇の中に二つの青い光点が怪しく、ぼんやりと浮かんでいた。

猫は牙を剥き出しにして、毛を逆立たせながらシャーと鳴いて威嚇したが、その光が遠ざかる様子は無い。遂に猫はその光の方へと飛び掛かった。

直後、猫の悲鳴が周囲にこだました。



翌朝、学は朝一番に屋根裏部屋と向かった。マユは昨日と変わらぬ様子でそこにいた。どうやら大人しくしていたようだ。学は胸をほっと撫で下ろした。

「…おはよう、あれ?」

学はマユの前にしゃがみ込むと、まじまじと見つめた。

「君、何か太りました?」

学はマユに触手で頬をひっぱたかれた。









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