第4話 旅の始まり
俺は初めてあの街から出た。あの夜、怪我した俺をワンはこの病院まで運んでくれたみたいで俺は今綺麗な個室のベッドに寝かされていた。
「なぁワン、ほんと……ありがとな」
「本当だよ、お前をここまで担いでくるのがどれだけ大変だったと思ってる」
「それで……あいつは?」
「君の友達は残念ながら救えなかった」
「そうかい……」
良いんだ。俺はもう悲しんだりしない。あいつは自分のやるべきことを全うした。それで死んでいったならもう何も言うことはない。だから……俺も頑張らないと。自分に出来る精一杯の力で。
「それでなんだが……」
「ノア 俺と一緒に来ないか?」
真っ白な病室のベッドの上で俺は生まれて初めて優しさって言うものを感じたんだ。
「どうしてオレなんか」
「ノアはな、正直者で誰よりも気高い勇気を持ってると思う。そんなお前がすっかり大好きになっちまった」
「俺は……そんないいもんじゃねぇ! 穢れたヤマトの血が混じったバケモノだっ」
そうだ俺は……この人とは釣り合わない。
俺の居場所は所詮はあの街なんだ。
「そんなことない」
「いいや、俺とあんたはまったくちがう生き物なんだよ。恵まれたあんたには分かりっこねぇ!」
俺は声を荒げてワンに言った。ワンは真剣に真っ直ぐ俺を見つめながら語り出した。
「俺には両親も兄弟も身内と言えるモンは誰一人いないんだ。所謂、隕石孤児ってやつだ」
「だからなんだってんだよ」
「ずっとずっと寂しかったし周りの人は誰も信用できなかった」
穏やかな手つきで俺の肩に手をかけて続けた。
「心を許せる家族が欲しかったんだ……」
「家族?」
「あぁ、温かい家で家族揃って食べるご飯、それが幸せの答えだと思うんだ」
「だからノア……」
何かこう人生の転機が訪れる気配を俺は感じていた。
「家族になろう」
それは反則だろ。断言できる。そんなこと俺に言ってくれるのは世界中であんた只一人だよ。
「いいのかい……オレはぁ、たべかただってキタナいし……モジもかけねぇし……なんもできないんだぞっ……!」
「そんなこと良いに決まってるだろ! お前がお前らしく、いてくれればそれだけで……俺は大満足だっ!」
いつの間にか涙が溢れて出していてワンの懐に泣きついていた。
「ありがとぉぉ……う……オレをみとめてくれてぇぇ……」
泣きじゃくる俺をワンはギュッと抱きしめた。
「おいおい、あんまり泣くと傷口が開くぞw」
ほんとだ。言われてみると全身、特に左足に鈍い痛みがある。昨日の怪我が治ってないんだ。
「ハハッ、ほんとだ。すげーいたい」
「そりゃそうだ。かなりの怪我だったんだから」
嗚呼、ワンと出逢えて本当に良かった。俺はとんでもない深淵から救われたのかもしれない。世界の色が変わった。全部灰色だったはずなのに今は色に富んでいる。
「あと一ヶ月は入院らしい。その間は大人しくしておくんだぞ」
「おう、こんなケガすぐにナオすよ。なんたってタフなのがとりえだからな」
「そりゃ心強いな。それとノアの世話をしてくれる人も紹介しておかなくちゃな」
そう言ってワンは廊下の方に声をかけた。
「マイノちゃーん」
声に呼ばれると一人の少女がひょっこりと扉の辺りから顔を覗かせていた。凄く綺麗な人だったよ。彼女は銀髪をなびかせながら俺たちの方に視線を送った。
「なんの用かな?」
「こいつ、天神ノアって言うんだ。一ヶ月ぐらい入院する予定でな。友達になって欲しいんだとよ」
「なっ、だれがそんなこと言ったんだよっ!」
うん……思えばこれが初恋だったのかもしれない。彼女の赤い目にどこまでも深く吸い込まれるような不思議な感覚。急に心臓がドキドキしてびっくりしたよ。
「君、綺麗な顔してるね。僕はマイノ、よろしく」
「あっ……はい」
すっかり火照った俺の顔を見ながらキングワンは楽しそうに笑った。
「すっかりマイノの虜になったみたいだなぁ」
「うるせー! そんなことない!」
「またー照れ隠しか? まっ俺も出来るだけ見舞いにくるからそれまでマイノと仲良くしてるんだぞ」
「わかったよっ!」
言い残したワンは病室を後にした。
それからあっという間に一ヶ月がたった。
その間何回もワンがお見舞いに来て色々な土産も持って来てくれた。なによりも沢山、初めての経験があって毎日が輝いていた。この世界にはこんなにも楽しいことがあるのか。そう何度も驚かされた。
例えば暖かいベッドで初めて眠った、美味しいご飯を朝昼晩の三回も貰った(正直マイノさんが当番の日の料理は不味かった!)、窓から見える青空はとっても綺麗だったしテレビって言うのも初めて見た。そしてなによりも美しかったのは夜空に浮かぶ満天の星空。
俺は一時も無駄にすることなく世界を学んだ。そして遂に退院の時は来たんだ。あっという間だったよ。
「またねノア」
「マイノーまた遊ぼーな!」
「良い案だ。きっとまた二人で遊ぼう」
マイノとお別れはちょっと寂しいけど……俺はこの人と行くんだ。
「さぁ行こうか」
「うん!」
この日を境に、俺とワンの冒険の日々は始まった。世界には俺みたいな恵まれない子供が沢山いる。俺たちなりのやり方で少しずつだけど確実にそんな子供たちを助けて世界を良くしたい。それがワンの願いであった。
海を越え山を越え世界中を巡る最高の旅、想像するだけで楽しくならないか!?
第一章 灰色の街と人間の悪意 終
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