第52話 極秘会議(14日目)

 江角首相とブラウン大統領は通訳なしで極秘の電話会議を行なっていた。江角は最初に王大使から依頼された停戦の申し出を説明した。大統領の反応は拍子抜けするほど鈍かった。大統領はしばらくの沈黙の後に意を決したように話し始めた。その内容は江角を震撼させた。

「ブラウン大統領、その提案はとても受け入れられません」

「江角首相、私は何度もこの提案について考えてみた。このウイルスの感染速度からサマーズ博士が計算したタイムリミットは最大で36時間だ。タイムリミットを超えたら、日本全土に感染が拡がるのを防ぐ手段はなくなる」

「しかし、36時間以内に首都圏からすべての人間を避難させることは不可能です」「江角首相、不可能でもやるしかない。日本民族の存亡がかかっている」

「ブラウン大統領、日本は広島、長崎での原爆被害、そして東日本大地震時の福島第一原子力発電所の事故と2度の被曝体験をしています。その上にとうてい3度目など日本国民が受け入れるはずがありません」

「江角首相、これが苦渋の決断であることは理解する。しかし、感染が日本全土に拡がることを防ぐにはこの方法しかない」

「ワクチン開発はどうなっていますか」「ウイルスの遺伝子解析はもうすぐ完了する。しかし、mRNAワクチンの開発、生産には数ヶ月は必要だ。それまではなんとしても感染を抑えないといけない」

「我が日本がなぜこのような災厄にあわなければならないのですか。実に理不尽です」「江角首相、君の怒りはよくわかる。この災厄を引き起こした中国に対しては必ず代償を払わせる。この約束は絶対のものだ」

 江角首相は電話会議が終わるとすぐに中路首相補佐官を呼び出し、緊急放送を準備するように命じた。

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