第51話 恐怖(13日目)

 サマーズ博士は全米から集められた生物学の研究者たちとハワイにある海洋生物学研究所にいた。「このウイルスの起源は土星の衛星エンケラドスだというのか」サマーズ博士は日本政府からもたらされた情報に少なからず驚いた。地球外生命を発見する可能性があるのは米国だと思っていたが、まさか中国に先を越されるとは思ってもいなかった。しかし、その栄誉はすでに災厄に変わっていた。

 新型コロナウイルスが発生したことをすぐにWHO(世界保健機関)に報告しなかったことが、その後のパンデミックにつながった。中国は再び過ちを犯した。

「このウイルスについてわかっていることを報告してくれ」サマーズ博士は楕円形のテーブルにずらっと座っているウイルス研究者たちに発言を求めた。

「このRNAウイルスの遺伝子構造は地球上のものとは異なっています」

「13種類のウイルスが確認されていますが、深海で発見されている最も古い時代のウイルスに構造が一番近いようです」

「遺伝情報が解読できたら、mRNAワクチンを作れるのじゃないのか」

「13種類の構造が異なるウイルスが猛烈なスピードで突然変異を繰り返しています。対応には何種類ものワクチンが必要です。感染速度を考えるとワクチン完成前に人類が滅亡する計算です」

「なぜ、こんなに感染速度が速いんだ」

「エンケラドスの海の中より、地球の環境の方が生存に適していたということでしょう」「つまり、感染することができる生命が豊富だということか」

 サマーズ博士は研究者たちの発言から恐ろしい結論にたどりつこうとしていた。

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