第43話 戒厳令(10日目)

 致死率の高いウイルスの急拡大と日本を巻き込んだ米中戦争が勃発したというニュースは日本全土にパニックを巻き起こした。特に首都圏に発せられた戒厳令は人々を恐怖のどん底に突き落とした。

 ウイルスと戦場からとにかく少しでも離れようと北は北海道、南は九州へと大移動が始まった。この事態に焦った政府は大混乱に陥った空港と駅を閉鎖したが、この措置はかえって人々の不安を煽ることになった。

 道路は車で溢れかえり、渋滞は数百キロにもおよんだ。局地的戦闘が米中の全面戦争に移行しないように外交交渉を続ける江角首相だったが、その努力を嘲笑うかのように予測不能の事態が今まさに進行していた。

 首相官邸の危機管理室に召喚された山科一等陸佐、笠原研究員、そして永山が神妙な面持ちで座っていた。隣接する部屋のドアが開き、現れた江角首相の顔は青白くげっそりとしていた。三人は首相の心労の重さを感じ取った。

「山科一等陸佐、宮島一等陸佐、そして立川一等海尉が上官の命令も得ずに行動したことは不問にする。消息不明だった海洋丸は国籍不明の2機の攻撃ヘリコプターの攻撃によって、航行不能になっていたが、現在横須賀に向けて曳航中だ」

「首相、謎の物体は回収されたのですか」山科が口を開いた。「いや、回収予定の海上自衛隊のへりは敵の攻撃により撃墜された」「宮島一等陸佐と立川海尉は無事ですか」「敵のヘリは中国人民解放軍に間違いない。謎の物体の強奪もしくは海洋丸ごと破壊することが目的だったのだろう。幸いに米軍の迅速な行動により、敵は排除された。謎の物体と宮島と立川両名と1名の民間人は米軍が保護している」「それでは無事だったんですね」永山は安堵の声を上げた。

「いや。厄介なことになった。ついに米中が戦端を開いてしまったんだから」

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