第41話 米中臨戦体制

 米軍は中国人民解放軍の動静を偵察衛星をはじめ、あらゆる手段を使って常時監視していたが、自衛隊の動きも日米間の軍事ネットワークで把握していた。護衛艦いずもから発艦したMCH-101輸送ヘリコプターの行動を注視していた第七艦隊旗艦ブルーリッジのトーマス海軍中将はその追跡を空母ロナルド・レーガンのマコーミック艦長に命じた。

 マコーミック艦長は第115戦闘攻撃飛行隊イーグルスのF/A-18E戦闘機と第12ヘリコプター海上戦闘飛行隊ゴールデン・ファルコンズのMH-60Sシーホークにただちに発艦を命令した。

 国籍不明の攻撃ヘリコプターから発射された空対艦ミサイルが海洋丸の艦橋を吹き飛ばした。船長や通信を含む基幹装置を狙った攻撃だった。

「逃げて」橘の声のする方に宮島と立川は走った。引き上げ作業をしていた船員も散り散りに逃げたが、もう1機の攻撃ヘリコプターのガトリングガンが彼らの体をバラバラに粉砕した。甲板上に肉片が飛び散り、夥しい鮮血が流れた。

「奴らは格納容器を狙っている」船内に避難した宮島と立川だったが、民間のサルベージ船に武器など搭載されているわけもなく、なす術が無かった。

「あれを見て」橘が指差す方向に海上自衛隊のMCH-101輸送ヘリコプターの真っ白な機体が近づいてくるのが見えた。

「だめだ。戻れ」立川一等海尉は思わす大声で叫んでいた。輸送ヘリコプターでは攻撃ヘリコプターに太刀打ち出来ないからだった。海洋丸の危機を察知して左旋回を始めたMCH-101の開いたドアから身を乗り出した海上自衛官が64式7.62

mm小銃で攻撃ヘリコプターに銃弾を浴びせた。

 その反撃を嘲笑うように反転した攻撃ヘリコプターから空対空ミサイルが発射された。MCH-101のミサイル警報装置が作動して、けたたましい警報音が機内で鳴り響いたのはほんの一瞬だった。ミサイルの直撃を受けたMCH-101の機体はバラバラになって海上に落ちて行った。

「ああ」橘の嘆息がはっきりと宮島には聞こえた。

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