第37話 米中対決

 中国人民解放軍海軍は米軍と対峙するためにすべての戦力を東シナ海に展開しようとしていた。その中心は「遼寧」「山東」「福建」の空母3隻だった。トン数が少ない遼寧と山東の艦載機はスキージャンプ台を使って離艦する方式だが、東海艦隊に配備されたばかりの最新の福建は電磁式カタパルトを装備していた。

 10万トン級の原子力空母11隻を誇る米海軍と真っ向対決すれば勝ち目はないが、中国本土から近い海域であれば、航空機、潜水艦、対艦ミサイル等を総動員すれば勝敗はどうなるか分からなかった。

 米中がまさに戦闘状態に入ろうとする頃、房総半島ではウイルス禍が急拡大を始めていた。政府が当初、南房総に設定した防疫ラインはすでに突破されて、感染は千葉県全域に拡がっていた。路上には焼却処分が間に合わないおびただしい数の遺体が放置されていた。

 首相官邸の危機管理室に集まった閣僚の表情は皆かたかった。「国連の状況はいったいどうなっているんだ」「安保理は、あいかわらず中国ののらりくらりの回答で終始しています」「現在、国連総会で非難決議をかける準備中です」角川外務大臣の答えは歯切れが悪かった。

「自衛隊はどうなってる」江角首相は苛立っていた。「自衛隊はすでに即応体制を完了しています」内藤防衛大臣は山川統合幕僚長の顔を見てから答えた。

 危機管理室に設置してある巨大なスクリーンには米軍と自衛隊の艦艇の位置が青色で表示されていた。中国人民解放軍の艦艇は赤色で表示されていたが、その数は明らかに日米の艦船を上回っていた。

「敵の方が数が多いな」三井官房長官が呟いた。

「戦争の勝敗は数で決まるわけではありません。日米の戦力は質で敵を圧倒しています」山川統合幕僚長は自信満々だった。

「ウイルスの対策はどうなっている」「防疫体制を強化していますが、感染が急拡大しています。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)と情報共有していますが、今のところ有効な治療方法は見つかっていません」

「既存の治療薬やワクチンは試しているのか」「試していますが、効果はほとんどないとのことです」木内厚生労働大臣の答えは絶望的だった。

「細菌線では完敗ということか」江角首相の顔には生気が無かった。

 

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