五章 壁

 北信越高校総体陸上、当日。

 開催地である松本市まで移動し、陸上競技場に入った私と水城は、そこでやっと同じ高校の陸上部の部員としてではなく、インターハイに出るためならば、同じ部員でさえ蹴落とさなければならない相手として、お互いの認識を変えた。


「決勝で」


 水城の台詞に、私はほくそ笑み、


「せいぜい予選で落ちないようにね」


 と分かりきった嫌みで言い返したが、むしろ水城のやる気を出させたのか、上等、と言わんばかりの自信に満ちた笑みを浮かべ、離れていった。

 制服からユニフォームに着替える。春江高校陸上部のユニフォームは、水色をメインにしている。

 時間が進み、女子百メートルの予選が始まる。

 進行に従い、トラックに進み出る。

 正直言って、緊張はしていない。

 負ける気がしないからだ。

 ここはまだ、通過点に過ぎない。


『On your marks』


 スピーカーから聞こえるその声に、体が自然と反応する。

 スターティングブロックに足を当て、微調整をしながら、ここだというところで留める。


『Set』


 腰を上げ、ゴールを見据える。

 パァァァン。

 スターターピストルの音と同時にスターティングブロックを蹴る。

 スタート開始からゴールまで、誰一人として私の前に出ることはなかった。

 予選通過後、次の予選で走る水城を見やる。

 スターターピストルの音と同時に飛び出す水城。


(速い)


 正直にそう感じた。

 同じ指導を受けた走者を傍から見ると、おもしろい。

 改めて、なるほどと納得できる点もあれば、もっとこうするべきではないかと思う点も見られる。

 おそらく、私が走っていたときも水城は観察していただろう。

 あとで何か言われそうだ。

 そんなことを思っているうちに、水城は一着で予選を突破した。

 そして、準決勝を経て、決勝が始まった。

 私も水城も決勝に残った。

 水城はレーンの中ほど、私は外側になった。


『On your marks』


 まるでローテーションのように、スターティングブロックにセットする。

 その瞬間、誰もいないはずの右隣に、気配を感じた。

 目だけを動かし、確認する。

 ローポニーテールを黒いリボンでひとつにまとめた髪。

 柑奈だ。

 だけどその体は透けていて、向こう側の風景が見せる。

 河川敷で何度となく競い合った、あの日の柑奈の幻影。

 小さい頃に、親戚の家で従兄弟がプレイしてたテレビゲームのレースゲームのタイムアタックで、レコードタイムを出したときの自分が、次のタイムアタック時に、まるで幽霊のような半透明の姿で現れることがあった。

 それはゴーストと呼ばれ、それよりも前でゴールすればレコードを更新しており、それが前に出れば、遅いことになる。

 私の隣にいつも現れるのは、レコードタイム11.40の柑奈のゴースト。


『Set』


 まるで合わせたように同時に腰を上げる。

 選手の動きが止まり、スタッフ、観客――すべての動きさえも止まる、この一瞬の間。


 パアアアァァァン!


 たった11秒から12秒の競い合いが始まった。

 隣の柑奈が前に出る。

 0.01を争う競技において、ほんのわずかでも前に出れば、それは思っている以上のタイム差を生じさせる。

 私よりも前に出ているのは、柑奈のみ。

 他のレーンを走る選手は、誰も私に追いつけていない。

 水城でさえも、並ぼうとするので精いっぱいだった。

 そのさらに前、私が見ているのは、柑奈だけ。

 柑奈の不敗神話。

 彼女は中学で陸上部に入ってから、正式な競技において一度も負けたことがない。

 すべて一着だった。

 予選だろうが、準決勝だろうが、柑奈な常に最速だった。

 それは同時に、私が一度も一着を獲ったことがないということでもあった。

 だけど、今の私は違う。

 競技から離れていた二年間。

 それでもパフォーマンスだけは落とすまいと、毎日のようにトレーニングを積んできた。

 そこから新しく杏子さんに指導してもらい、確実にレベルアップもした。

 私と競い合える水城の存在も、気がつけば大きくなっていた。

 記録を出すこととなれば、陸上競技は己との戦いだ。

 だけど私は、競い合いたい気持ちの方がどうしても大きくなり、一着であれば、それが新記録でなくてもよかった。

 記録は、結果的についてくるもので、求めるものではない。

 だけど、この柑奈のゴーストは、競い合う上で絶対に抜きたい存在であり、そして抜けば同時に新記録を樹立することにもなり、だからこそ、あまりにも高い壁だった。

 だけど、今の私なら、勝てる。

 学んだすべて、吸収したすべてを、今、この瞬間、ここですべて出し切る!

 速度が増していく。

 ほんの少し前に出ていた柑奈が、どんどん並んでいく。

 柑奈のゴーストは一心に前だけを見ている。

 これまで一度として、柑奈に並んだ選手はいない。

 それはつまり、追いついてくる選手を気にした経験が一度もないということ。

 残り数歩。

 柑奈と並ぶ。

 次の一歩――この最後の一歩の踏み込みで、抜ける!

 その瞬間、思い出した。

 レースゲームのタイムアタックでゴーストよりも前に出てゴールしたら、どうなるか。

 私は最後の一歩を踏み出し、トルソーがフィニッシュのライン上を越えた。

 女子百メートル決勝。

 私と水城は、ともに全国への切符を手にした。

 そのときの私の記録は、12秒台だった。


            ※


「柑奈」


 椅子に座り、ずっと胸に溜めていた言葉を解放させた。


「私、インターハイに出場することができたよ」


 その言葉は、柑奈の耳に届いているはずで、だけど、柑奈は何も返してはくれなかった。


「今年の開催地はここ――福井の『9.98スタジアム』なんだ。だから……」


 そこで私は言い淀み、少しの間を空けて、また口を開いた。


「これって、まるで……あのときの……」


 そこまで言って、それ以上は言えなかった。


「私ね、今、すごく調子がいいの。杏子さんの指導もすごく適格で、私を速くしてくれる。そのためなら、走りに関係ないようなことだって学ばされる。この前なんて、『運動の第三法則って知ってる?』って聞かれたの」


 おかしいよね、とクスッと笑って見せる。


「『前に進むには、何かを後ろに置いていかなければならない』だって。私は、何を置いていけば、速く走れるのかな。余計なもの全部捨てて、ただ走ることだけ考えれば、柑奈の記録だって抜けるのかな……全部……ぜんぶ……」


 考えて、考えて、私は頭を振った。


「そんなこと、できるわけないよね」


 馬鹿だな、と自分で自分を笑う。


「そんなことしたって、柑奈には勝てないかもしれないのにね。北信越で私、今まで一番の走りができたと思ってた。でも、負けた。柑奈には、勝てなかった。柑奈はやっぱり、速いよね。本当に、直前までは思ったんだよ。あっ、もしかして――って。それが、慢心ってやつだったのかな。結果は散々。優勝はできたけど、柑奈がいたら、きっと優勝してたのは、柑奈だった……」


 沈黙が流れる。


「なんだか白けちゃったね。足のマッサージ、しなくちゃ」


 無理やり話を切り替えて、私はそれから柑奈の足裏のマッサージをした。だけど、今日だけは、その行為が、どこか義務でやっているかのように感じてしまっていた。


            ※


「結衣さん、インターハイ出場、おめでとうございます!」


 ジムに入るなり、待ち構えていた薫ちゃんから祝福を受けた。


「ありがとう、薫ちゃん」


 笑顔を浮かべて見せると、薫ちゃんが言いたくて仕方がないような顔で口を開いた。


「あ、あの、結衣さん。私、前よりも進めるようになったんです」

「ホント? すごいよ、薫ちゃん」

「えへへ。それで、私の上達ぶりを、見てくれませんか?」

「むしろ、見せてみせて。見たいみたい」


 今日は部活がなかった分、時間を長くとることができていたので、薫ちゃんに付き合うことにした。薫ちゃんの指示に従って、平行棒の向こう側で待つ。


「行きますよ」


 私とは反対の端で、薫ちゃんが平行棒に掴まり、こっちへと歩いてきた。


(本当に、すごい)


 初めて出会ったとき、薫ちゃんは、一歩踏み出すごとに顔をしかめ、痛みに耐えていた。

 だけど、今は違う。

 それを克服して、一拍置きながら丁寧に歩いていた。

 何度も繰り返すうちにやり方も分かり、脚への負担が減ったから、痛みも緩和しているのだろう。

 私は、ようやく借りることができた理学療法の教本の内容を頭に思い浮かべながら、薫ちゃんを観察していた。

 知ると、見方が変わる。

 どうして痛がっているのか、どうして上手く歩けないのか、そういったことが、なんとなくだけど、分かるようになっていた。

 分からなかったときの私は、ただ精神論で頑張れと言っていたような気がする。

 だけど、知ると、変わる。

 ただ頑張れと言うのは無責任で、頑張るにしろ、その方法を教えてあげなければ、本当の応援にはならない。

 そのことを、私は痛感していた。

 だから、今は声をかけず、ただ見守る。

 そして達成したとき、思いっきり喜んで、褒めてあげよう。


(あと少し)


 まるで自分のことのように、心臓がバクバクしてきた。

 握りしめた拳が汗ばみ、身構える。

 あと三歩……二歩……一歩……そして、


「結衣さん!」

「薫ちゃん!」


 平行棒の端まで辿り着いた薫ちゃんが、飛びついてきた。

 私はそれを待ってましたとばかりに受け止め、そのまま抱きしめた。


「やりました、私。結さんのところまで、辿り着けました」

「うん。よく頑張ったね。すごいよ。本当にすごい。薫ちゃん」


 立っているのも辛いだろうと、そのままそっと床に下ろし、薫ちゃんを座らせた。


「最後、陸上選手がフィニッシュにするのを真似てみたんです」

「ああ、トルソーを投げ込むやつね」

「トルソー?」

「胸、って意味」


 そう言って、自分の今日に手をあてがう。


「トルソーと言えば、結衣さん……ひとつ聞いてもいいですか?」

「何?」


 その次のひと言で、私は心臓を叩き潰されたかのような衝撃を受けた。


「どうして北信越の決勝で、トルソーを投げ込まなかったんですか?」


            ※


『ぶっちぎりで一着だって分かってたから、わざわざ投げ込む必要がなかっただけ』


 私はそう言って、自分でもおそろしいくらいに下手くそな愛想笑いを浮かべ、ちょうど顔を出してくれた三島さんに半ば強引に薫ちゃんのことをお願いして、病院を飛び出した。


 8号線を横切り、森田区内に入り、まっすぐに伸びた道を走りながら、建造中の北陸新幹線の下を通り抜ける。

 家に着くまでの間、私はずっと薫ちゃんの言葉を反芻していた。

 それは、大会が終わって、杏子さんにも聞かれたことだった。

 だから、同じように答えた。

 一着で走っていたから、する必要がなかった。

 杏子さんは黙り込み、私の顔をじっと見つめ、「分かったわ」とだけ言って、離れていった。

 そのあとすぐに水城が近づいてきたけど、何も言われなかった。

 離れたレーンで走っていたし、走っている間に他の走者を見る余裕なんてないだろうから、水城は気づいていなかったのだろう。

 だけど、この大会がライブ配信されていたなら、アーカイブが残っているはずだ。

 それを水城がチェックしないはずがない。

 部活でも、個々の走りを動画で撮って、杏子さんがひとりひとり丁寧に現状の走りからの改善点を教えていた。

 今回も、私と水城の走りを撮っていただろうから、そこでも見られてしまう。

 そのとき、杏子さんにまた訊かれたら、私は答えられるだろうか。

 できるはずがない。

 いや、そもそも、あそこでトルソーを投げ入れていたとしても、タイムが縮まるだけで……そのタイムが柑奈のあのタイムより速いなんてことは……ない、はずだ。


「あ……」


 気がつくと、私は家に到着していた。


            ※


 六月末に期末テスト――という担任の言葉を、ホームルームが終わってクラスメイトが教室を出て行くなか、私は黒板に貼り出された日程を見て反芻し、溜息を吐いた。

 私は、勉強が苦手だ。

 去年もその前も、期末では赤点をとって、夏休みに伊月さんと一緒に補習を受けていた。

 だけど、今年は赤点をとるわけにはいかない。

 なにせインターは―が控えているのだ。

 それを愚痴のように水城に話すと、「じゃあ、今度の休みに教えてあげる」と言われたのだ。

 水城は頭がよく、すべての今日が八十点を超えていた。

 それを知った私はすぐに水城に頭を下げ、「先生!」と呼び、自宅に招待することにした。


「ねぇ、結衣」

「ん?」


 横に並んだ水城が、スマホを両手で掴みながら、もじもじしていた。


「勉強会のこととか、他にもいろいろあるかもしれないし、あの、連絡先、交換しない?」

「ん、ああ、そうだね。いいよ、ちょっと待って」


 リュックを前にまわして中からスマホを取り出す。

 私は基本的にスマホをほとんど使っていない。

 教室でクラスメイトや伊月さんが休み時間のたびにスマホをいじっているけど、私には何をしているのか、検討もつかなかった。

 私にとってのスマホは、朝起きるためのアラームと、朝練で使っていた録音ボイスくらいだ。

 電話の連絡先も自宅と家族、柑奈だけ。

 だけど柑奈は契約を解除しているから、家族に電話することもなく、まさに宝の持ち腐れ状態だった。

 一時は母親に料金が勿体ないから解約してもいいよと言ったものの、いつか必要になるかもしれないし、華の女子高生なんだからスマホは必需品でしょ、と言われた。

 そのときは、その日がくるとすればそれは柑奈が目を覚ました日だと思っていたけど、どうやら違ったようだ。それでも、母親には感謝している。


「で、どうやってやるの?」


 スマホ――のみならず、パソコンにも疎い私は、水城にやり方を教えてもらい、LINEなるものを家に帰ったらダウンロードするように言われたのだった


            ※


 翌日。

 お昼休みになり、いつもの車の後部座席で作られたベンチに座った私は、どこか心が落ち着かず、そわそわしていた。

 少し遅れて水城が来た。

 水城はいつものように、ベンチ横のコンクリートの上に座り込もうとしたところで、


「違う」


 我ながらぶっきらぼうな声だったと思いながらも、私はなんとか声に出した。


「え?」


 座りかけた水城が、その動きを止める。

 そして、気づいたのだ。


「ここ」

「いい、の?」


 いつも私が座っている場所が、空いていることに。

 私は、その隣――柑奈が座っていた席に座っていた。


「いい。そこは私の席だから」


 水城はまだ動かず、中途半端な姿勢でいた。


「座らないの?」

「す、座る」


 いそいそと水城がベンチの前まで移動すると、そっと腰を下ろした。


「どう? 座り心地は……」

「やわらかい」


 そう言って微笑む水城に、私もまた笑みを浮かべた。


「じゃあ、食べよっか」

「うん」


 私と水城は同時にいただきますをして、それから弁当を開いた。

 弁当を食べ終わると、私は水城にスマホを見せて、LINEなるものから連絡先を交換して、そのまま使い方を教えてもらった。

 そのとき水城のスマホの画面に、知らない名前が見えた。

 『鈴』と『琴』。

 それはまるで愛称のようで、私は少し胸がざわついた。


(そういえば私、水城のこと……)


 何も知らない。

 水城真菜という存在を、何も……。

 私のことを知っている水城を、私は憶えていない。

 だから、なんとなく、水城のことを訊くのを躊躇っていた。

 私は水城がどこに住んでいるのかも知らない。

 趣味はあるのか。

 好きな食べ物は?

 嫌いな食べ物は?

 得意なものは?

 苦手なものは?

 そういった水城個人に関する情報を、何も知らない。

 何ひとつ、知らない。

 スマホの通知音に、私はハッとして、画面を見た。


『日曜日の午前中からでどう?』


 水城からのメッセージだった。

 顔を横に向けると、水城は笑みを浮かべ、スマホを指さした。

 やってみろと言うことか。

 私は慣れない指使いで文字を打ち、送信した。


『時間、早すぎない?』

『いい機会だから、全教科見てあげる』


 思わず手が止まる。


『全教科はわるいよ。午後からでもいいよ』


 送信と同時に、傍目で水城の指が高速で動く。


『万が一、インターハイに行けなかったら困る。一日だけだから、頑張って』


 水城は自分の時間を割いて私を助けてくれている。

 だったら、一日くらい、とことんやるしかない。

 『わかった。ありがとう。その時間で』と送った私は、ふぅと溜息を漏らした。


「今年一年分の文字を打った気がする」


 どっと疲れた。

 中学校で初めてキーボードで文字を入力したみたいに……。


「続ければ、慣れる。走りと一緒」

「別に慣れる必要なんて――」

「特訓、大事。夜も送るから、返事して」

「わ、分かった」


 そして、その日の夜。

 ベッドにダイブして眠ろうとした私を起こすかのように水城からのメッセージが届き、私は何度も何度も返信していた。

 それは夢の中でも続き、目を覚ました私は、ここ最近で最悪の目覚めと共に、スマホに溜まっていた水城のメッセージに、これは夢の続きに違いないと戦慄するのであった。


            ※


 土曜日の午前十時。

 リビングに鳴り響くチャイムの音に、私は玄関まで出向くと、ドアを開けた。


「わぁお……」


 開いた口が塞がらないとはこのことか。

 ドアの向こう側に水城が立っていたのだが、その服装が……可愛かった。

 白のワンピースに、淡い桃色のカーディガン。

 梅雨の時期であるため、カーディガンは薄手で、七分袖になっている。

 ワンピースの裾も膝上で、靴下も白で短め、靴は黒のローファー。

 髪も、いつもはアレンジせずにそのままだったけど、今日は後ろで軽くまとめて縛り、横髪はわざと残している。


「結衣?」


 ドアを開けた状態から固まっていた私は、水城に声をかけられて我に返った。


「ごめんごめん」


 後ろに下がり、つっかけたサンダルを脱いで廊下に上がると、


「おじゃまします」


 私しかいないのに水城はご丁寧に頭を下げ、慣れない動きでローファーを脱いで廊下に上がった。


「あ、あの、これ」


 水城が両手に持っていた白い箱を手渡してきた。


「ケーキ、買ってきたの。ご家族の分もあるから」

「わざわざ? むしろ教えてもらうこっちが用意しないといけないのに、ありがとね」

「ううん。お呼ばれされたのは、私の方だから」

「ありがとう。お母さんに渡してくる。先に二階に上がってて」

「うん」

 ケーキが入った箱を受け取り、私はリビングに入って母親に事情を説明して渡すと、二階に上がった。


「おまたせ」


 部屋に入ると、あらかじめ用意しておいた小さなローテーブルと向かい合う形で敷いておいたクッションのひとつに水城が座っていた。


「って、正座なんて堅苦しい座り方しないでいいよ」

「で、でも、結衣のご両親だっているし……」

「あんたは、私の彼氏か!」


 思わずツッコんでしまったが、なぜか水城はぐいっと顔を寄せ、


「結衣……彼氏、いるの?」


 と真顔で訊いてきた。


「私? いるわけないじゃん。それよりも水城の方が、いてもおかしくないと思うけど?」


 そう言って水城の着ている服を顎で指した。


「これ……は……」


 水城がどこか恥ずかしそうに顔を伏せる。


「そういうの、好きなんだ」

「……うん」

「いいね。似合ってる」


 褒めたつもりではなく、私は思ったことを口にしていた。


「ホ、ホント?」


 水城の表情がどこか嬉しそうになると、


「私には絶対に似合わないし着ないけど、水城が着てると、うん……いい」

「……ありがとう」


 今度は声をすぼめ、まるで噛みしめるように頬を赤くしていた。


「でも、結衣のカッコも、シンプルで、いい、と、思う……」

「そんな無理して褒めなくてもいいよ。自分でもオシャレに興味ないこと自覚してるから」

「もったいない……」

「いいの。私はこれが一番落ち着くから」


 私の私服は、極めてシンプルだ。無地のTシャツにステテコ――以上。


「さて、そろそろ勉強会でも始めようか」

「うん」


 水城が背中に担いでいたリュックを下ろし、そこから教科書やノートを取り出す。


「今日の日程はこんな感じ」


 一枚の紙がテーブルに置かれる。

 そこには、まるで一日の授業と同じように、教科ごとに六十分が割り当てられ、休憩が挟まれている。

 最後の科目を英語にしているのは、苦手科目であるために六十分以上の長丁場になることを想定してのことだろう。


「うう……」

「どうしたの?」

「これ見てたら、お腹が……」


 腹に手を当てる仕草をすると、水城が心配半分呆れ半分の目で見てきた。


「本当に、勉強が苦手なんだね」

「苦手というより、嫌い、かな。やろうとしてできないじゃなくて、やりたくない」

「清々しい主張だけど、ダメ」

「今日は休日なんだから、どっか遊びに行こっか」

「う……だ、だめ。今日は勉強するの。そうじゃないと、せっかくのインターハイがぁ……」

「ちょ、ちょっと泣かないでよ。分かった。今日は真面目に勉強するから」

「ホントに?」

「ホントに。私が水城をがっかりさせたこと、ある?」

「……あった」


 あったのか……って、どこでだろう。


「でも、今はちゃんと応えてくれてるから、だから信じる」

「じゃあ、さっそく始めよっか」


 私も教材を用意し、水城先生から指導を受けた。

 勉強は嫌いだが、授業を受けていれば否が応でも覚えるものは覚えるし、適性がある教科に対しては、復習せずとも赤点はいつも免れていた。

 だから、最後の英語の教科までは、あまり水城の手を煩わせることなく終わった。


「結衣は多分、真面目に勉強すれば、すごく上に行けると思う」


 それが水城の感想だった。


「さすが私、やればできる子」

「やれば、だけどね」


 まぁ、やらないんだけどね。


「結衣ちゃん」


 ドア越しに、母親の声がした。

 私は立ち上がり、ドアを開けると、お盆を持った母親が立っていた。お盆にはケーキと紅茶が二つずつ置かれていた。


「これ」

「ありがとう、お母さん」


 お盆を受け取り、両手が塞がると、母親がすっと部屋の中を覗き込んできた。

 振り返っていた水城が母親と目が合い、


「お、おじゃましてます」


 カーペットの上に三つ指を置いて頭を下げていた。


「本当に礼儀正しい子ね。あれ、でも……」

「もういいから、閉めるよ」


 私は部屋に入ると、足でドアを閉めた。


「ゆっくりしてってね」


 ドア越しにそう言って去る母親に、私はげんなりした。


「騒がしくてゴメン」

「ううん」

「最後の科目に挑む前に、おやつにしよ」


 テーブルにお盆を置き、紅茶を水城と自分の前に置く。


「どっちのケーキがいい?」


 ケーキは、苺のショートケーキとフルーツタルトだった。


「え、っと……」


 水城が視線を二つの間で彷徨わせるも、答えが一向に返ってこない。


「じゃあ、私は苺のショートケーキにするから、水城はこっち」


 ケーキがのった皿を、水城と自分の前にそれぞれ置き、お盆を床に下ろした。


「いただきます」


 二人で軽く手を合わせ、ケーキをいただく。

 私は、苺を最初に食べるか、途中で食べるか、最後に食べるか――において、最後に食べる派であるため、途中で苺を皿の上に移した。


「ああ、やっぱり……水城のフルーツタルトもおいしそーだねぇ」


 この、人が食べているものがおいしそうに見えるのは、なんなのだろうか。

 おいしそうに食べているのを、見せつけられているからなのか。

 自分で自分が食べている姿は見ることができないのだから、そうなのかもしれない。


「じゃあ、はい」


 水城が零さないように左手を添えつつ、ひと口分のフルーツタルトを差し出してきた。


「いいの?」

「うん」

「じゃあ、遠慮なく」


 身を乗り出し、フルーツタルトを口に含んだ。

 フォークが唇を滑り、水城の元へ戻る。


「んん~、おいし~!」


 舌鼓を打つ私の前で、水城はフォークをじっと見つめていた。


「あっ、ごめん。嫌だった? 新しいのもってこよっか?」

「う、ううん。いい。大丈夫、だから。ほら」


 水城がフルーツタルトを切り、急いで口に含む。


「私、そういうのあんまり気にしないから。なんか嫌なこととかあったら、遠慮なく言ってね」

「分かった」

「それじゃあ、お返しに。はい、あ~ん」


 私もショートケーキを、ちゃんとスポンジの間の苺も含めるようにして切り、水城に差し出した。


「ほら、あ~ん」


 なかなか動こうとしない水城に、ぐいぐいとフォークを近づけていく。

 そしてついに水城の唇の手前まで到達すると、そこでようやく観念したのか、水城の小さな口が少しだけ開いた。

 その口になんとかショートケーキを入れることができた。


「どう、おいしい?」


 水城は手で口を隠すようにして、上品に頷いて見せた。


「よかった」


 満足した私は、最後にショートケーキと苺を合わせて口に含んだ。

 そんな私の口元を、なぜか水城がじっと見ていた。

 それから最大の壁であるところの英語を、休憩を挟んで二時間ほどした。


「お、終わったぁ~」


 私は倒れるようにして仰向けになると、うんと伸びをした。


「お疲れさま、結衣。よく頑張りました」


 疲れ切った私とは反対に、水城はそんな素振りなど見せず、リュックに教材を片付けていった。


「お母さんとお父さんが、夕食どうですかって言ってたけど、どうする?」

「ありがとう。でも――」

「分かるよ。急な話だし、水城ってこういうの苦手そうだもんね」

「う、うん」


 階段を下りて、水城がローファーを履く。


「今日は、ホントにありがとね」

「私がやりたかったから、やっただけ、だから」

「それでも感謝してる。期待には必ず応えるからね」

「うん。二人でインターハイに」

「行こう」


 水城が差し出してきた拳に、私は拳を軽くぶつけた。


「じゃあ、またね」

「うん。またね」


 手を振り、水城を見送る。

 ドアが閉まり、しんと静まりかえる玄関で、


「……」


 私は寂しさを感じていた。


            ※


 期末テスト一日目は苦戦することなく終わった。

 テスト期間中は部活動が禁止されているため、私は早々に自宅――ではなく、病院に向かった。

 そこで私は、意外な人と出会った。


「吉田さん」

「きょ――立花コーチ」

「今は部活の時間じゃないから、いつもの呼び方でいいわ」

「じゃあ、杏子さんで」


 柑奈に今日のことを話し、足裏のマッサージを終えた私は、病室を出たところで杏子さんと鉢合わせしたのだ。


「吉田さん、少し話せるかしら?」

「は、はい……」

「大丈夫よ、時間はとらせないから。早く帰って、明日のテスト勉強もしないといけないものね」


 微笑む杏子さんのそれに、私はなぜかプレッシャーを感じたのだった。

 休憩スペースの窓に面したカウンター席に、私と杏子さんは座った。


「吉田さんは、その……私があの子にしたことを、聞いてるのよね?」

「……はい」


 それが何を示しているのか、それくらいは分かった。


「私は、あの子が走る姿を見て、あの子に走り方を教えた。走るのが大好きで、こうしたらもっと速く走れるよって教えると、それをすぐに吸収して、どんどん速くなっていった。その姿に、私は期待してしまったの。私が成し遂げられなかったことを、あの子なら、できるんじゃないかって」


 杏子さんは、現役当時、間違いなく女子陸上百メートルでトップだった。

 日本一を決める大会でも優勝して、日本記録だって更新した。

 その記録は、今も残っている。

 そしてオリンピック選手にも選ばれ、そこで活躍――するはずだった。

 人は勝手に期待して、勝手に失望する。

 世界を相手に、日本人がメダルを取ることは――ない。

 それでも、やり切ったと、いま出せる最大の実力を発揮できたと、その証明はできる。

 負けても、自己ベストに近いタイムを出せれば、それはそれで評価される。

 だけど、杏子さんはこれまで右肩上がりで上げに上げてきたコンディションを、世界最高の舞台で発揮できず、記録もふるわなかった。

 世間は勝手に期待し、失望した。

 その重みに杏子さんは耐えきれず、それ以降、調子を戻すこともできず、そのまま第一線を退いた。

 そして一功さんと結婚し、柑奈が産まれた。

 その柑奈が走ることが大好きで、そして才能を表したのならば、私だって同じことをしたかもしれない。

 でも、私は私だから、私は杏子さんのしたことを、許せないでいた。


「私は、あの子から、大好きを奪ってしまった。私の、ひとりよがりのせいで」


 杏子さんがカウンターに乗せていた手で、顔を覆い隠す。

 恥を、隠すように。


「でも、あの子は走ってた。私と離れて、もう無理やり走らされる必要もなくなったはずなのに、あの子は走ってた。それが、吉田さんのおかげだって聞いて……」

「聞いて……って、もしかして、連絡を取り合ってたんですか?」

「いえ、あの人から一度だけ電話がかかってきたの。柑奈が自分で走るようになったって。だから、キミも必要以上に自分を責めるなって。私は、あの子にもあの人にも、酷いことをしたのに、それでもあの人は、私を気遣ってくれた」


 柑奈の性格は、一功さん似だ。

 柑奈は普段ぼーっとしてるように見えるし、一功さんはほんわかしている。

 それでも競走となると、柑奈はぶっちぎりに速いし、一功さんの指導は熱い。

 私は、一功さんが怒ったところを見たことがない。

 どんなにできなくても、一功さんはやさしく諭してくれた。


『怒ると相手は竦んで、挑戦する気をなくしてしまう。だから、ボクは怒らない。できないなら、できるようにボクも考えて、教え、導く』


 それが一功さんの持論だった。だから私も、好き勝手できたのかもしれない。


『子どもの背中にはみんな、大きな翼がある。怒ったり叱ったりすると、その翼を縮み込ませてしまう。小さな翼じゃ、大きく羽ばたけない。より高く、より遠くに飛ぶには、大きな翼じゃないとね』


 そう言って、両腕を翼のようにばたばたと羽ばたかせる一功さんに、私は爆笑していた気がする。

 幼かったころの私はその意味をちゃんと理解していなかった。

 だけど、今になってそれを思い出して、とても大事なことだったんだと思い知った。


「ずっと、吉田さんに言いたかったの」


 カウンターの上に置いていた手に、杏子さんの手がそっと添えられる。


「ありがとう、って」


 そう言って、杏子さんは瞳を潤ませていた。


            ※


 期末テスト二日目――を終えた昼休み。

 午後からは通常の授業になるため、最後のテストを終えた私は、リュックから弁当箱を取り出し、廊下に出た。

 そこで立ち止まり、隣の教室を眺める。

 少し待つと、背の高い見知った顔がひょっこりと現れた。


「遅い」

「ゆ、結衣!」


 驚いたような表情をする水城に、私は歩き出した。


「ほら、行くよ」

「待ってて、くれたの」

「次からすぐに出てくること。いい?」


 茫然と立つ水城の横を通り過ぎながら振り返り、指をさす。


「うん」


 水城は頷くと、隣まで駆け寄り、並んで歩いた。


            ※


「いや~、ホントに助かったよ」

「どういたしまして」


 最後のテストが英語だったのは、私にとってはまるでゲームのラスボスを相手にしているような感覚だったが、なんとか倒せただろう。


「結衣が頑張ったから」

「水城が教えてくれたからだよ。はい、これはお礼のデザート」


 弁当から苺を掴み、水城の口元に寄せる。水城は少し戸惑いながらも、苺を口に含んだ。そこから私がへたを引っ張って外す。


「少し、酸っぱい……」


 口をもぐもぐさせながら、水城がそんなことを言う。


「うちの両親が裏庭で育てたやつなの。少しでも赤くなると、カラスがやってきてみんな食べちゃうから、その前に毎日収穫してるんだって」

「そうなんだ」


 弁当を食べ終え、風呂敷に包んで、あとは残りの時間をゆっくりと過ごす。

 本格的な夏が、もうすぐ来る。高校生最後の夏休み、そしてインターハイ。

 大きな木の枝葉が、ちょうどベンチに陰を落とす。

 風も吹いていて、心地いい。


「ふぁ……ぁ……」

「寝不足?」

「かもね」


 小さな欠伸をすると、水城が心配そうに見つめてくる。


「少し、横になる?」

「え?」

「こ、ここ……使っても、いいよ」


 水城がぽんぽんと自分の太ももを叩く。


「でも……」

「遠慮、しないで」

「いや、鍛えてるから硬そうだなって」

「――ッ! もうっ!」


 珍しく怒る水城に、私は「ごめんごめん」と謝りながら、お言葉に甘えて頭を落とした。

 ベンチに仰向けになって、水城の太ももを枕代わりに使わせてもらう。


「どう?」

「私、枕は硬めの方が好みだったって、いま思い出した」

「そ、そうじゃなくて! 眠れそう?」


 その言葉に、私は目が覚めたかのように瞼を見開き、それから吹き出すように笑った。

 どうして水城は、こんなにも私に尽くしてくれるのだろう。

 どうしてこんなにも、想ってくれるのだろう。

 私たちは、ライバルだ。インターハイに向けて練習して練習して練習して――そして、決着をつける。

 そんな関係だったはずだ。

 それなのに、こうして水城を目の前にして、どうにか報いたいと思ってしまう。


「……」


 ううん、違う。

 私は今、ただ純粋に、水城と友達として、同じ時間を共にしたいんだ。


「ねぇ、水城」

「ん?」

「テストも終わったし、まぁ赤点も大丈夫だろうし、どっか遊びに行かない?」

「……え?」


 信じられない、というような表情をする水城。


「水城が行きたいところでいいよ。付き合ってあげる」

「ホントに、いいの?」

「いいよ」

「じゃあ……えっと……い、いっぱいあって、選べない……」


 わたわたする水城がかわいくて、つい甘やかしてしまう。


「それなら全部行こう」

「全部……」

「うん。ほら、まずはどこに行きたい?」

「そ、それなら……まずは、アミに……」

「アミか……。ショッピング?」

「うん」


 アミは、春江町にあるショッピングモールだ。母親が子どもだった頃からあったらしく、私も小さい頃には何度も連れて行ってもらった。


「そこで、み……」

「……」

「……」

「……み?」

「み、みず……ぎ……」

「水着? じゃあ、次に行きたいのは、海水浴?」

「――は怖いから、プールがいい」

「それは同意」


 なにせ私はカナヅチだ。

 小学校のプールの授業で嫌と言うほど思い知った。


「だったら、三国の芝政ワールド……かな?」


 プールに行った経験がないから、思い当たるのはそれしかない。


「私も、そこしか知らない」

「じゃあ、決まり。日程は、とりあえず夏休みに入ってからにしよっか」

「できれば、すぐがいい」


 少し、水城が焦っているような気がした。


「終業式が金曜日だから、次の日にする?」

「うん」

「ってことは、今週の休みにアミに行って水着選びってことで、オッケー?」

「オ……オッケー」


 決めるべきことを決め終えると、私は息を吐いて体の力を抜いた。

 瞼を閉じ、水城の太ももに頭を預ける。


「それにして……水城と遊ぶ約束をするなんてねぇ」

「私も、驚いてる」

「ごめんね。初めて会ったころ、冷たく当たって……」

「ううん。仕方ない。私も一方的だったから……」


 本当は目を見て謝らなければならないと思ったけど、どうしても面と向かって言うことができなかった。

 瞼を閉じて、やっとだ。


「私たち……今からでも、友達になれる、かな……?」

「私はずっと、友達だと思ってるから……」

「そっかぁ。そうだったね。ごめん。本当に……」

「いいの。気にしてない……から……」


 嘘だ。

 瞼を閉じていても分かる。

 水城の声に、湿り気が含まれていることを。


(ごめん。水城……ごめ――)

「……結衣?」


 水城に声をかけられたはずなのに、私は眠ってしまっていた。


            ※


 眠る表情が、愛おしい。


「ん……」


 寝返りをうつようにして、結衣が体を横にする。

 白いリボンで結ばれたポニーテールが顔を出し、スカートの上に広がる。


「結衣……」


 その名前を口にするたびに、嬉しさが込み上げる。


「結衣……ちゃん」


 そう呼ぶと、悲しさが勝る。

 結衣はまだ、思い出せていない。

 待つと言ったのは、私。

 だから、待つ。

 結衣の方から、思い出して、そしてまた、私の名前を呼んでくれる日まで。

 でも、もしその日が来なかったら?

 その期限は、インターハイまで。

 それまでに思い出せなかったら、そこで私は結衣に勝って、自分から明かす。

 思い出してくれなかったら、そして負けたら……私は潔く去るつもりだ。

 最高の舞台、最高のパフォーマンスをもって、勝負ができれば本望だ。

 昔かわした約束が、果たされるのだから。

 でも、結衣は集中し切れていない。

 原因は分かってる。

 それを、私はどうすることもできない。

 できるとすれば、私が……あの壁を壊すこと。

 11.40という、難攻不落の壁。

 それを結衣が壊せないのなら、私が壊す。

 たとえ、結衣に嫌われて、口をきいてくれなくなって、この今の関係が終わるとしても、私は――救いたい。

 結衣を……。

 だって、今の私があるのは、結衣のおかげ、だから。


「……」


 予鈴が鳴る。


「ん……」


 結衣が目を覚ます。短い至福の時間が終わる。


「少しは、楽になった」

「うん。ちょっと寝ただけで、すっきりした。ありがと」

「どういたしまして」

 立ち上がり、うんと伸びをする結衣に続いて、私も立ち上がろうとし、

「――ッ!」


 脚の痺れに、しばらくの間、声にならない声を上げるのだった。

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